第308話 一ヶ月ぶりに、田舎でのんびりスローライフを


 二週間かけてカーク村へ到達した僕とジスレアさんは、そこで普通のおじさんと出会い――そしてまた、二週間かけてメイユ村に戻ってきた。


 こうして僕の第二回世界旅行は――普通のおじさんと会っただけで終わった。


「……いや、そう聞くと微妙に感じてしまうけど、一応は一ヶ月間旅をしてきたわけで、そこそこ世界旅行をしたと言っていいと思うんだよね」


 そうだよね。きっとそうだよ。一ヶ月頑張ってきたのだから、第一回世界旅行よりかは、ずいぶんと進歩したはずだ。


「まぁ結局、最初の目的地であるカーク村にはたどり着けなかったけどさ……」


 村に入ることはできなかったからなぁ……。

 最初にカーク村へ向けて出発したのが、もう六ヶ月も前のことだ。半年かかっても、未だたどり着かないとは……。カーク村への道のりが遠い……。

 さすがに第三回世界旅行では、いい加減村までは行きたいところだけど、果たして……。


 なんてことを考えながら、ベッドの上でゴロゴロしていると――


「アレク坊っちゃん、よろしいですか?」


「いーよー」


「失礼します。……おやおや、やはり今回もだらけているようで」


「んー」


 一人でゴロゴロしていた僕のもとへ、ナナさんがやってきた。

 ……なんだろう。なんかデジャブを感じる。


「さてマスター、私に話を聞かせてくださいよ」


「話……?」


「世界旅行の話を」


「…………」


 やはりデジャブを感じる……。

 あるいは天丼と言ってもいいかもしれない。


「おや? 今回はキレませんね?」


「何よそれ……。あれなの? やっぱりイヤミなの?」


 イヤミを言いに来たの? もしかしてまた、『イヤミか貴様ッッ!』って言われたいの?


「いえいえ、とんでもない。確かにあまり芳しい結果にはならなかったようですが――マスターが一ヶ月間旅を続けていたのは事実です。マスターは頑張ったと思います」


「……うん」


「というわけで、お疲れ様でしたマスター」


「ありがとうナナさん」


 ナナさんから、温かい言葉をかけてもらった。

 こっそり僕も同じことを考えて自分を慰めていたわけだが、人から言ってもらうのは少し違うね。なんだか元気が出た気がする。ありがとうナナさん。


「ではでは、私に土産話を聞かせてくださいよ」


「んー。土産話ねぇ」


「というか、実際のお土産は何かないのですか?」


「残念ながら何もないよ……。一ヶ月どこにも寄っていないし、野宿していただけなんだから……」


 お土産を確保できるような機会は、一度もなかったよ……。


「まぁそれなら仕方がないですね。ではマスター、代わりにお話を」


「それはいいけど、何から話したものかな……」


「出発時からすべて振り返っていただきたいところではありますが――やはりカーク村から撤退した場面ですね。そこが気になります」


「……そこ? そこはDメールでも伝えたし、昨日帰ってきたときにも話したじゃないか……」


 昨日、僕とジスレアさんは村に帰ってきたわけだが、自宅に着いてみんなで夕食を取ったとき、その辺りのこともキチンと説明した。

 ナナさんに限っては、二週間前にもDメールで通達済みである。


 ……だというのに、何故もう一度聞こうとする。


「詳しくお願いします。今回の旅が終了した理由を、詳しく」


「詳しくって……。だからまぁ、それは……」


「それは?」


「僕が……イケメンすぎるから……」


 簡単に言うと、そんな理由だったわけで……。


「凄まじい台詞ですね……。言ってて恥ずかしくはないですか?」


「おい山田」


 そっちが言わせたんじゃないか。


「というか、別に僕が言っているわけじゃなくて、ジスレアさんがそう予想したんだってば」


「ふーむ……。まぁ確かに納得できる理由ではあります。マスターのお顔は、もはや凶器ですからね。顔面凶器です」


「顔面凶器……」


 顔面凶器は、もはや悪口にしか聞こえないのだけど?


「といっても、マスターはあまりイケメンって感じではないですが」


「あれ? そうなの?」


「なんとなくニュアンス的にちょっと違うイメージです。『男らしいイケメン』というよりかは、『可愛らしい』とか『美人』といった言葉が似合うかなと」


「へー」


 あー、まぁそうなのかな。

 あの後に、ふと自分の顔を鏡で確認してみたのだけど、そんな感じの成長をしつつあるようにも感じた。


「というわけで、マスターは喋らなければ美しいです」


「……何それ」


「なにせ口を開くと、いろいろ残念な部分が露呈してしまいますからね。私は心の中でマスターを、『美の破壊者』と呼んでいます」


「変なあだ名を付けないでくれるかな……?」


 というか、それを言うならナナさんもそうだろうに……。

 ナナさんだって見た目だけなら美人さんなのに、喋るといろいろ台無しな人だよ……。


「さて、それでマスターはカーク村の第一村人と会ったわけですが――」


「会えたのは第一村人だけだったねぇ……」


「ちなみに、その方のお名前は?」


「名前? いや、わかんなかったな。聞いてないや」


 まともに話すこともままならなかったしなぁ。


「そうでしたか。では便宜上べんぎじょう――『カークおじさん』と名付けましょう」


「カークおじさん……」


 スナック菓子のパッケージキャラクターみたいな名前だな……。


「マスターはカークおじさんを誘惑しただけで、村には寄らずに帰ってきたわけですか」


「言い方……。別に誘惑とかしていないから」


「では、その美貌でカークおじさんに恐怖を与え、SAN値を削ってから帰ってきたわけですか?」


「どんだけ恐ろしいのよ、僕の顔は……」


 そんな他人の精神をめちゃくちゃにするような恐ろしい顔だとは、さすがに思いたくない。

 ……転生時にディースさんから授けられたチートフェイスではあるが、そんなことならもう外界へ出るべきじゃないだろう。ずっとメイユ村に留まっておくべきだ。


 そう、つまりは――


 転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります!


「……さておき、とりあえず対策が必要って話になってね、それでメイユ村まで帰ることにしたんだ」


「なるほど、対策ですか」


「もしかしたらカークおじさんだけでなく、僕と会った人達全員があんな感じになっちゃうかもしれないからさ」


 なのでカーク村には寄らず、送還したばかりのヘズラト君を再召喚し、ヘズラト君を大層困惑させた後、僕達はメイユ村まで帰ってきた。


「それで、どのように対策するのですか?」


「さぁ……?」


「さぁって……え?」


「ジスレアさんが、どうにかするって言ってくれたけど……」


 どう対策するかの詳細は、まだ聞いていない。というか、ジスレアさんも未だ思案中らしい。


 どうなるんだろうねぇ……。正直なところ、そこはかとなくイヤな予感がするよね……。





 next chapter:森の勇者2

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