第284話 別荘やら『素早さ』やらハムスターホイールやら


 2-2エリアにて、僕とミコトさんが筋肉きんにくがらのトード皮を見ながらキャッキャしていると――


「マスター」


「キー」


 ナナさんと、大ネズミのトラウィスティアさんが現れた。


「馬上から失礼します」


「馬ではないけど」


 ナナさんは、トラウィスティアさんに騎乗状態で話しかけてきた。

 とりあえず馬上ではない。鼠上だ。


「二手に分かれて散策していましたが、そちらはどのような感じでしたか?」


「あー、うん。ミコトさんが華麗にトードを撃退してくれたよ」


「ほうほう。さすがはミコト様」


「まぁね、トードくらいなら、華麗にね」


 僕とナナさんの賛辞さんじを、とても素直に受け取るミコトさん。

 なんだかほっこりしつつ、ナナさんにも戦利品を見せてみた。


「ほら、こんなトード皮もゲットしたんだ」


「筋肉柄ですか……。なるほど、なかなかユニークな物を手に入れましたね」


「せっかくだし、これでTシャツを作ってみるよ」


「そうですかそうですか。いいですね、お祖父様辺りに着せましょう」


 さすがナナさんだ。発想が僕と同じである。


「それで、ナナさんとトラウィスティアさんの方はどうだったのかな?」


「こちらも無事にトードを討伐して参りました。まぁ途中で危ういところはありましたが」


「あ、そうなの?」


「トードの舌伸ばし攻撃に、危うく捕まりかけたのです」


 トードはカエル型のモンスターらしく、舌を伸ばす攻撃を頻繁ひんぱんに行ってくる。

 その舌に捕獲されてしまうと…………まぁ捕獲されても、特に問題はないのだが。


 トードには、人や大型の動物を引っ張るほどの力はない。鬱陶うっとうしくはあるが、捕まっても別に問題はなかったりする。


 むしろ、トードは捕獲した獲物をどうにか引っ張ろうと踏ん張るため、そこから動けなくなる。

 もうこうなると、どちらが捕獲されているのかわからない。


 ……そう考えると、トードって結構弱いよね。

 後でトードとボアのエリアを入れ替えようかな……? 現在は1-3がボアで、2-2がトードなのだけど、ボアの後にトードが出てくるのは、順番的におかしい気がする。


「そういえばナナさん達の方は、どんなトード皮を手に入れたの?」


「そうですねぇ、大した柄は出ていませんが……」


 全部ナナさんが自分でデザインした柄だろうに……。


「ヒョウ柄とか出ましたね」


「ヒョウ柄……」


 それはまた、なんとも言えない柄だこと……。


「後でトラウィスティアさん用の服にしようかと」


「キ!?」


 ナナさんの発言を聞いて、トラウィスティアさんが驚いている。どうやら初耳のようだ。


 というか、ヒョウ柄の服をネズミのトラウィスティアさんに着せるつもりなのか……。相変わらず、ナナさんのセンスは独特だな……。


「あ、もしミコト様がご希望でしたら、お譲りいたしますが?」


「ヒョウ柄……。いや、私は大丈夫」


 ちょっとだけ考える様子を見せたミコトさんだったが、ヒョウ柄はあんまり好みではないらしい。


 ……そうか、着ないのか。

 ヒョウ柄のビキニを着たミコトさんとか、ちょっと見たかった気もする。いや、ちょっとだけ……。



 ◇



 なんやかんやで再び集結した僕達四人のパーティ――エルフ、ダンジョン、神、大ネズミの四人パーティは、引き続きダンジョンを探索した。

 神様と大ネズミ君でも倒せそうなエリアを、一通り回った。


 そしてある程度回って、そこそこの経験値を得た後は、2-1の森エリアへ移動だ。ここらでちょっと休憩である。


「グッボーイ、グッボーイ」


「キー」


 休憩中ではあるが、無駄に元気が有り余っているミコトさんは、トラウィスティアさん相手に遊んでいた。

 ミコトさんが棒を投げて、トラウィスティアさんが拾ってくるという、犬が好きそうな遊びだ。


 ちなみにこの棒は、世界樹の枝で作った棒だったりする。

 つまりは――世界樹の棒。


 世界樹の槌を作った後、枝が余ったので作ってみた。ミコトさんが今やっているように、トラウィスティアさんと遊ぶ用の棒である。


 作った後で、こんな硬い物をトラウィスティアさんが噛んで大丈夫かなと心配したのだが……トラウィスティアさんは投げられた世界樹の棒を、手で拾って持ってくる。


 なんだろうね……。なんかもう投げた棒を拾ってくるとかじゃなくて、ボールを使って直接キャッチボールでもしたらいいんじゃないかって気もしてくる……。


 さておき、そんな二人を眺めながら、僕がぼんやり考え事をしていると――


「どうかしましたか?」


「あ、うん」


 僕の様子に気付いたナナさんが話し掛けてきた。


「ちょっと考え事をね」


「考え事……? なんでしょう? このエリアに別荘を建てる計画のことですか?」


「あー。いや、それじゃないね」


 確かにこのエリアに来ると毎回悩むことではある。

 だがしかし、そのことではない。というか僕はもうすぐ旅に出発するわけで、それを思うと今から別荘を建てる気にもなれない。


「違いましたか。ではなんでしょう? トラウィスティアさんの『素早さ』が、早くもマスターを超えそうなことですか?」


「いや、違くてね。……まぁそのことは喜ばしいことだよ。うん、喜ばしいこと……」


 少し前にレベルアップしたトラウィスティアさんだが、なんと『素早さ』の値が二つも伸びていた。これでトラウィスティアさんの『素早さ』は4だ。

 僕を背に乗せて旅をしたいなんてことも言っていたので、もしかしたら、そのために努力した結果なのかもしれない。


 そう考えたら、嬉しいし喜ばしい。……うん、喜ばしいことなんだ。

 もし次回も『素早さ』が二つ伸びたら、もう僕の『素早さ』に並んでしまうわけだが、きっと喜ばしいことなんだ……。


「でも、そうじゃなくてね――」


「では、トラウィスティアさんのためにハムスターホイールを作ろうという計画についてですか?」


「ハム? え?」


 えっと、ハムスターホイールってのは……あれかな? ケージ内で飼っているハムスターが運動するための、回し車のことかな?


 え、トラウィスティアさん用にそれを作るの? いつの間にかそんな計画が持ち上がっていたの……?


「あ、それはいいなナナさん。私もその中で走っているトラウィスティアが見てみたい」


「そうでしょうそうでしょう」


 何やら横で棒を投げていたミコトさんまで、ナナさんの計画に同調しだした。


 そうは言ってもトラウィスティアさん結構大きいし、その体に合わせた回し車となると、かなり大掛かりな設備になると思うんだけど……。


 それでもトラウィスティアさんのためには、作った方がいいのだろうか?

 作るとして、いったいどこに設置したものか。そもそも僕に作れるだろうか? ジェレッドパパ……いや、この場合はフルールさんかな? フルールさんに協力してもらって――


「キー」


「え? あ、うん、そうだね。――とりあえず僕は別に、回し車のことを考えていたわけじゃないんだよナナさん」


「おや、そうでしたか」


 なんだか二人に流されかけた僕を、トラウィスティアさんが引き戻してくれた。

 危ない危ない。危うくナナさんの口車に乗って、回し車を作るところだった。


 ――口車に乗って、回し車を作るところだった!


「それでマスターは、結局何を――何をニヤニヤしているんですか……?」


「あ、ごめん」


 なんだか上手いことが言えたもんで、ついニヤニヤしてしまった。


「僕が考えていたのは、世界旅行についてだよ」


「ほうほう。確かにもうすぐですね。ディアナ様の誕生日が、あと――」


「あと、ちょうど一週間だね。一週間後にディアナちゃんは十五歳の誕生日を迎える」


 そうしたら、いよいよ出発だ。

 いろんな人に今まで隠していた旅のことを伝えて、それから旅の準備をして……出発するのは、二週間後くらいになるだろうか?


 ……うわ、もうあと二週間で出発なのか。改めてそのことを認識すると、なんだかそわそわしちゃうな。


「本当にもうすぐですね……。そうですか、ついにこのときが来ましたか……」


「そうだねぇ。もうすぐだ」


「もうすぐ、レリーナ様へ旅のことを報告するのですね……」


「…………」


 ナナさん的に、気になるのはそこなのか……。

 まぁねぇ。まぁそこは、なかなかに難しい問題ではあるけれど……。


「頑張ってくださいマスター」


「うん。まぁ、ありがとうナナさん」


「ご無事をお祈りしております。くれぐれもお気を付けて……」


「うん……」


 あんまり大げさに言わないでほしいんだけどな。怖くなっちゃうから……。


「この件に関して、お役に立てないのが歯がゆいです」


「…………」


 軽く予防線を張られた気がする。『私は手伝いません』と、暗に宣言された気がする。


「す、すまないアレク君。私も役に立てそうにない……」


「はぁ」


 ミコトさんまで便乗しだした。


「このように、レリーナ様に若干のトラウマがある私とミコト様は、お手伝いできません」


「うん、別にいいけど……」


 元々一人で話すつもりだったし、別にいいんだけど……。


「あ、トラウィスティアさんを連れて行くのはどうでしょう? アニマルセラピー的な効果が期待できるかもしれませんよ?」


「キ!?」


 突然話を振られて、トラウィスティアさんが大層驚いている。

 もはや生贄いけにえのような扱いではないか……。ヒョウ柄の服といいアニマルセラピーといい、ナナさんはトラウィスティアさんに試練をビシビシ与えてくるな……。


「うん。大丈夫だよナナさん。僕一人で話すから」


「そうですか……。マスターの勇気と覚悟に、ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田は感服いたしました」


「……ありがとう」


 まぁ誰かを連れて行っても、ろくなことにならなそうだしね……。

 案外トラウィスティアさんを連れていけば本当にいい結果を生んでくれそうな気もするけど、さすがに悪いしさ。


 ちなみにだが、この三人が恐れをなしたレリーナちゃんへの報告について――ジスレアさんは一緒に行こうかと提案してくれた。

 さすがは一緒に旅をするパートナーだ。こんなときでも親身になって行動してくれる。


 ……でもまぁ、その提案については丁重にお断りさせてもらった。

 天性のあおりスキルをもつジスレアさんが同席するとか、どう考えてもろくなことにならない。またレリーナちゃんを煽り倒す未来しか、僕には見えなかった……。





 next chapter:君を危険な目に遭わせたくなかった

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