第250話 カラートードガチャ


「うーん。間取りとかを考えているのは楽しいんですけどねぇ」


「楽しいよねー」


 建てたいなーとは思いながらも、実行には移していない2-1森エリアの別荘計画。

 家や計画についてあれこれ話しつつ、僕とフルールさんはダンジョンを進む。


 舞台の製作依頼は終わったが、他にもいろいろと用事があるのだ。

 というわけで2-1森エリアを抜けて、2-2エリアへと移動した。


「おっと、結構人がいますね」


 2-2エリアは、ナナさんががらをデザインしたカラートードが放たれているエリアだ。

 その様子が気になって訪れてみたのだけど、カラートードを狙うハンター達が、そこそこ見受けられる。


「これって、みんなトードの皮を集めてるんだよね?」


「たぶんそうだと思います」


「んー、けどここのトードって、ほとんど皮しかドロップしないんでしょ?」


「そうらしいですね」


 そうらしい――というか、そう変更した。


 いや、まぁ別によかったんだけどね、確率を絞っても……。

 みんなが欲しいのは皮だろうし、そこであえてトード肉辺りの確率を上げ、トード皮の確率を下げることで、『皮ガチャ』の沼にハマってもらうって戦略もあったとは思うのだけど……。


 とはいえ、そもそも僕の望みは、たくさんの人に水遊びを楽しんでほしいってことなんだ。その際にいろんな水着があったらもっと良いよねっていう、それだけなんだ。

 だとすると、確率を絞るのはよくない。……何やらナナさんは絞りたがっていたが、それはよくないと僕は判断した。というわけで、むしろ皮の確率を大幅に上げておいた。


「皮しか出ないなら、簡単に集まりそうなものだけど?」


「まぁそうなんですけどね」


 確かに皮を一枚ゲットするだけなら、すぐに終わる作業だろう。

 だというのに、このエリアにはたくさんの人がいる。


 その理由はきっと――


「――全然良い柄が出ないのよ。てーか出なさすぎ」


「ん? ディアナちゃん?」


「おっすー」


 ディアナちゃんだ。声を掛けられるまで気付かなかったが、どうやらディアナちゃんもここでカラートードを狩っていたらしい。


 そして今の台詞から察するに、どうやらディアナちゃんは『柄ガチャ』の沼にハマっていたようだ……。


「こんにちは、ディアナちゃん!」


「うぃ……どーも」


 元気よく挨拶するフルールさんと、その元気に押されるディアナちゃん。

 ……あれ? というか二人とも知り合いだったっけ?


「えぇと、ディアナちゃんのことは以前から?」


「うん。前に遊びに来てくれたの」


「遊びに?」


「なんかレリーナと一緒に、お店まで」


「……なるほど」


 たぶんそれ、遊びに行ったわけじゃないような気もする……。

 なんだかんだディアナちゃんとレリーナちゃんは仲が良いのか、二人でタッグを組んで、いろんなところを襲撃しているね……。


「それでディアナちゃん、柄ってのは何かな?」


「あー、うん。カエル倒すと皮がドロップするんだけど、種類がいっぱいあってさぁ。それで、せっかく水着にするんだったら可愛いの欲しくない?」


「欲しい!」


「でしょ? でもさー、全然良いの出ないのよ。なんか変なんばっか」


「そうなんだ……」


 やっぱりそんな理由で、ここには皮を求めるハンターが大勢たむろしていたようだ。

 いや、その前に…………変なんばっかだと?


「えっと、ちなみにどんな柄が出たのかな?」


「えっとねー、一番いらないのが、意味わかんない文字だけのやつ」


「文字だけ?」


「例えばね、これとか」


「…………」


 ディアナちゃんがマジックバッグから取り出したトードの皮には、『平常心』とだけ書かれていた。

 なんだろう……。その皮を使って、『平常心』Tシャツを作れということなのだろうか……。


「あとはね、これとか」


「…………」


 次にディアナちゃんが取り出した皮には、『心』と書かれていた。

 なるほど、『心』Tシャツか……。


「こんなのもある」


「『亀』と『界王』と『悟』か……」


 丸の中に、それらの文字が書かれていた。

 それはたぶんコンプリートじゃないかな? やったねディアナちゃん。


 ……いやしかし、やりたい放題だなナナさん。


「なんかこんな感じのが多いんだよねー」


「そうなんだ……」


「ちょっとアタシには、世界樹様のセンスがわかんない」


「え!?」


「ん?」


「あ、ごめん、なんでもない……」


 なんてことだ……。ナナさんのジョークデザインが、ユグドラシルさん発案のものだと勘違いされているじゃないか……。

 これは、またしてもごめんなさい案件か……?


「普通に可愛いやつとかもあるんだけどねー。これとかも、シンプルだけど良い感じかなーって思う」


「あ、それは……」


 続いてディアナちゃんが取り出したトード皮には、とてもシンプルなマークが一つだけ描かれていた。

 例えるなら釣り針のようなマークで、『J』の文字を斜めにして、躍動感を与えた感じの――


 というかナ◯キだ。まるっきりナ◯キのロゴだ。


 いや本当に、やりたい放題だなナナさん……。

 この前の演奏曲といい、最近ナナさんのパクリっぷりがひどい。

 

 ……あれなのかな、これもいわゆる知識チートというやつなんだろうか。

 なんだか僕の知っている知識チートとは、微妙に違うような気もするけど……。


「それにしても、そのナイ――えぇと、そのマークはいいね」


「ん? 欲しい?」


「いいの?」


「うん。アタシはもっと可愛い系のが欲しいから」


「そっか、じゃあ、ありがとうディアナちゃん」


 というわけで、ナ◯キのトード皮を貰ってしまった。

 良いねこれ。パチもんではあるけど、結構良い。これで新しく水着を作ってもらおう。


「よかったね、アレク」


「はい。……あ、フルールさんはどうです? フルールさんも新しい柄の水着を作るなら、ここでトードを狩っていきましょうか」


「ん? んー、けど私はいいや」


「そうですか?」


「うん。去年アレクに貰ったやつがあるから。あれがあるから、私はいいや」


「あー……そうですか。いや、なんというか、それはなんというか」


 なんというか、少し照れてしまうな。

 そう言われると、僕も悪い気はしない。そんなふうに僕のプレゼントを大事にしてくれていると思うと、とても悪い気はしない。

 いやはや、フルールさんにプレゼントしてよかった。


「……ちっ」


 舌打ちはやめようディアナちゃん。



 ◇



 2-2トードエリアの視察を終えた僕とフルールさんは、続いて4-1湖エリアに移動した。


 到着すると、すぐに僕達は更衣室に別れ、それぞれ水着に着替えた。

 相変わらずフルールさんは水着が恥ずかしいようで、もじもじと照れている姿に少しほっこりする。


 ちなみにディアナちゃんも一緒に来ないか誘ったのだが――


『あー、いいや。ほら、アタシはいい女だから。こういうときに遠慮できるいい女だから』


 などと意味深なことを言いつつ、遠慮されてしまった。

 そんなわけで、いい女のディアナちゃんは、今も2-2でカエルをつかまえているはずだ。


「さて、ひとまず浮き輪の数は大丈夫っぽいですね、一応は」


「あと五つだね」


 浮き輪置き場をチェックしたところ、浮き輪はあと五つ残されていた。

 一応足りていることは足りているらしいが、結構ギリギリな感じだ。


 もっとレンタル浮き輪を増やしてもいいのだけど……さすがにこれ以上浮き輪置き場にスペースを割きたくない気もする。

 やっぱり販売用の浮き輪を、もう少し生産するべきかね。


「とりあえずみんなが楽しんで浮き輪を使ってくれているようで、僕としては嬉しいです」


「よかったね、アレク」


「はい。ではさっそく僕らも浮き輪に乗ってぷかぷかと流されに……と、言いたいところなんですが――」


「うん。依頼だね!」


「はい。ぷかぷかは後でしましょう」


 今も流れる湖では大勢のエルフがぷかぷかと流されている。そこに混ざるのは依頼の後だ。


「それでですね、向こうの広い湖……いえ、移動しながら話しましょうか」


「うん」


 というわけで、てくてくとフィールドを進む。

 このエリアでフルールさんにはある物を作ってほしいのだが、それを設置するための湖は、少々離れた位置にある。


「えぇと、あの湖ですね。かなり広くて、深さも結構あります」


 見渡す限り――とまでは言わないが、なかなかに広い湖だ。


「僕はここに――船を浮かべたいんですよ」


「船かー」


 船だ。せっかく大きな湖があるのだし、船くらい浮かべたい。

 あとはまぁ、ナナさんもラフティングだか渓流下りだかをやってみたいと言っていたので、試しに小舟でも作って湖に浮かべてみようかと思い至った。


 どうもフルールさんは船も作れるらしいので、彼女に依頼してみることにした。

 ちなみに、実際に作ったことはないそうだ。スキル的に、たぶん作れるって感じらしい。……相変わらずスキルってのは、なんかいろいろ無茶苦茶だよね。


「それで、どんな船を作りたいのかな?」


「そんなに大きな物じゃなくて……そうですね、四人程度が乗れる感じのやつを希望します」


「四人程度か。それで、その船で何をするの?」


「何を?」


「何用の船なのかな?」


「何用?」


 何用って言われてもな……。乗って楽しければ、もうそれだけでいいんだけど。


「えぇと、乗ったら楽しいかなって」


「……うん? 楽しいの?」


「わかんないですけど、たぶん楽しいんじゃないかと」


「そうなんだ……。別に魚を獲るための船とかでもないのかな?」


「そうですね。まぁ船の上で釣りとかしても楽しそうではありますが」


 少し前にも、このエリアでジスレアさんと一緒に魚釣りを楽しんだけど、当然この湖にも魚はたくさんいる。船の上でのんびり魚釣りなんかも楽しいかもしれないね。


「あとはあれですね、船着き場――桟橋っていうんですか? そういうのも欲しいですかね」


「なるほどなるほど。結構大掛かりな感じだね。それじゃあ、いつから始めようか? いつからなら大丈夫?」


「えぇと……」


 なんか僕のスケジュールを尋ねられているように感じるのだけど……。やっぱり僕も手伝うのかな……?


「とりあえず夏が終わってからでしょうか。今は人もいっぱいいますしね、そんな中で工事を始めても、みんな気になるでしょうし」


「あぁ、そんなに急ぎでもないのかな?」


「そうですね。夏以降に始めて、来年の夏までに完成したらいいかなと」


「そっかそっか。じゃあ、夏以降――頑張ろうね!」


「……はい!」


 ……うん。まぁいいや、頑張ろう。

 なんかもうフルールさんの中で、僕はいったいどういう扱いになっているのか謎だけど……頑張ってお手伝いしよう。





 next chapter:そろそろ行こう

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