第189話 剣聖と賢者と剣聖と賢者の息子


「――というわけで、『つち』スキルは戦闘でもそれ以外でも使えるスキルなんですー」


「なるほど、そうなんですね」


 ローデットさんが、僕に『槌』スキルのことを教えてくれた。


 さすが解説キャラとしての一面をもつローデットさんだ。

 エルフが持つには少し珍しいスキルとのことだが、ローデットさんはちゃんと知っていたらしい。


 ……だがしかし、今ローデットさんが僕に教えてくれた情報は、実はすでにユグドラシルさんから聞いていた情報だったりする。


 ここで初めてスキルを認識したことになっているため、『それ、もう聞きました』と言うわけにもいかず、僕はローデットさんの解説をふんふん頷きながら拝聴はいちょうすることとなった。


「よくわかりました。ありがとうございますローデットさん」


「いいえー。いいんですよー」


 とりあえず僕は、解説してくれたローデットさんに感謝を伝えた。

 ……なんだか申し訳ないな。せっかくローデットさんが解説してくれたというのに、申し訳ない。


 もちろんユグドラシルさんが悪いわけじゃないんだけど、結果的にローデットさんから解説キャラの役目を奪うことになってしまった。

 解説キャラを奪ってしまったら、あとはもうキャバ嬢キャラか、ぐうたらキャラしかローデットさんには残されていないというのに……。


「それにしても、ずいぶん増えましたねー」


「はい?」


「スキルですー。気付けばずいぶんスキルが増えましたー。もうすぐ『剣』スキルも取得できそうとのことですしー」


「あー、そうですね。これで『剣』スキルを手に入れたら――『剣』、『槌』、『弓』、『火魔法』、『木工』、『ダンジョン』ですか」


 ふむ……。スキルが剣、槌、弓、火魔法、木工、ダンジョン……。


 それでもって、現在の能力値が――


 筋力値 14

 魔力値 9

 生命力 8

 器用さ 28

 素早さ 5


 ――こうか、なるほど。


 ……どうなんだろうこれ。

 改めてスキルや能力値を眺めてみると……大丈夫かこれ?


 なんか迷走してないか? なんかブレてないか? なんかキャラメイクを盛大に失敗してないか?

 現状だと、何を目指しているのか全然わからないキャラに仕上がっているんだけど……。


「『剣』スキルのあとは、『斧』スキルとかもほしいですよねー」


「斧……?」


「やっぱり木こりといえば、斧じゃないですかー」


「…………」


 いや、斧はいらない。これ以上迷走したくない……。

 というか、僕は別に木こりになりたいわけじゃない……。



 ◇



「ただいまー」


 教会での鑑定を終えて、家に帰ってきた。


 家に着いた僕は、とりあえず流しへ向かう。手洗いうがいのためだ。

 前世からの習慣で、僕は外から戻ってきたときに手洗いうがいをするのだ。


 ……果たして意味があるのか、少し疑問に思っている習慣だ。


 毎回やってはいるものの、結局風邪を引くときは引く。

 そうしたらジスレアさんの診療所へ行くわけだが……行けばジスレアさんが一瞬で治してくれる。


 そう考えると、この習慣に意味はあるのだろうか? 手洗いうがいの時間的ロスを考えると、もう止めてもいいのかな……?

 そりゃあ一回に大した時間はかからないけれど、ちりも積もればなんとやらで……。


「おかえりアレク」


「あ、父。ただいま」


 迷いながらも、やらないとなんとなく気持ちが悪いので手洗いうがいをしようと流しに向かっている最中、父に声を掛けられた。


「今日はどこへ行ってきたのかな?」


「うん、鑑定をしに教会へ――って、そうだ、父に話があるんだ」


「話?」


「実は……あぁ、ちょっと待っていて」


 とりあえず父に待ってもらって、僕は流しで手洗いうがいをする。

 きっと意味はある。あるはずだ。外から家の中に菌を持ち込まないのは、きっといいこと。


「お待たせ、父」


「うん。それで、話って何かな?」


「えぇと、その前に母はいるかな? 母にも聞いてほしいんだけど?」


「ミリアム? たぶん庭にいると思うけど」


「そっか、じゃあ探してくるね。父はここで待っていて」


「うん」


 さてさて、それじゃあ母を連れてこよう。ささっと母を連れてきてから会議を開こう。家族会議だ。


 ナナさんはどうしようかな? 連れてこようか?

 家族会議だし、ナナさんもほとんど家族といってもいいようなものだし――


 いや、けど……止めようか。うん、止めておこう。

 今回の家族会議の議題は、『槌』スキルに関してだ。そうなると、ナナさんを連れてくるのは得策じゃない。


 もし連れてきたら、両親の前で僕とナナさんは――


『今日鑑定でー、槌スキルを取得していたことを知ったんだー』


『なんだってー、槌スキルをー?』


 ――などというお芝居を、二人でこなすことになる。

 そんな微妙なお遊戯会を、無駄に開催することもないだろう。



 ◇



 母を探しに庭へ向かうと、母は家庭菜園の野菜を収穫していた。


 なんか流れで収穫を手伝わされた僕だったけど、とりあえずいくつか旬の野菜を回収した後、母と一緒に戻ってきた。


「というわけで、二人に話があるんだ」


「なんだろう?」


「なにかしら?」


「実は、さっき教会で鑑定してきたんだけど――新しいスキルを覚えていたんだ」


 僕は両親に向かって、サクッと結果から発表した。


「……新しいスキル? ――本当かい!? やったねアレク! ついに覚えたんだね!」


「え? えっと……うん」


 なんだか父のテンションが爆発している。そんなに喜ぶようなことなのかな?


「そうかぁ……。僕も嬉しいよ」


「あー、そうなんだ?」


「なんたって僕は、アレクが頑張っているところを近くからずっと見守っていたからね」


「うん。……うん?」


「ついにだね……。ついにアレクも手に入れたんだね――『剣』スキルを」


 あっ……。


「初めてアレクが剣を使ったときなんかは、スキルを覚えられるかちょっと心配だったんだけど、無事にこうして――」


「……ごめん父、『剣』スキルじゃないんだ」


「え?」


「『剣』スキルは、まだみたい……」


「あ、そうなんだ……。あぁ、そっか……。ごめんね、なんか勘違いしちゃったみたいだ……」


 父がションボリしている……。

 やっぱりあれなのかな……。息子が自分と同じように剣を使うことを、楽しみにしていたりするのかな……。


 どうやらそんな父を、ぬか喜びさせてしまったみたいだ……。


「じゃあ、なんのスキルを取得したのかしら?」


「あ、うん。実は――」


「魔法スキルかしら? 新たな魔法スキルを取得したのかしら?」


「え? いや、違うけど……」


「そう……」


 母もちょっとションボリしている……ような気がする。


 やっぱりあれなのかな……。息子が自分と同じように魔法使いになることを、楽しみにしていたりするのかな……。


 そうか……。父と母は、そんな期待を僕にしていたのか、知らなかったな。


 というか、ちょっと重いな……両親の期待が重い。

 剣士になってほしい剣聖の父と、魔法使いになってほしい賢者の母――そんな両親の期待に、僕はしっかり応えることができるだろうか。


 ……正直、あんまり自信がない。

 今のところ剣士でも魔法使いでもなく、木工師への道をひた走っているような気しかしない……。

 まぁ最近は、それすらも迷走気味なんだけど……。





 next chapter:剣聖と賢者と剣聖と賢者の息子2

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