第134話 私が村長です
メイユ村の村長が父であるという
つまり父は村長、母は村長夫人、そして僕は村長の息子だ。
剣聖と賢者とその息子だと思っていた僕ら一家は――村長一家でもあったのだ。……なんだか、一家揃ってだいぶグレードダウンした気がする。
さておき、そんな村長一家の話し合いは続く。
「それで、アレクは何か話があるそうだけど?」
「あぁうん。父に――村長さんに聞きたいことがあって」
「うん。なんだろう」
「ダンジョンのことなんだ」
「ダンジョンかー」
うーむと目をつむり、考え込む村長さん。
「ダンジョンができてずいぶん経つけど、村長さんはダンジョンについてどう考えているんだろう? 子供は未だにダンジョンへ入れないけど、村長さんの
「あの、アレク。村長さんって呼ぶのやめてくれるかな?」
「あ、そうなの?」
立場を明確にするために、一応この場では父のことを村長さんと呼ぶことにしたんだけど、なんかダメらしい。
「まぁアレクが聞きたいことはわかったよ。いつになったら子供はダンジョンに入れるのか――そういうことだね?」
「うん」
「うーん……。それは僕たちも迷っているんだ。現在のダンジョンなら、子供がダンジョンに入っても問題ないと思うよ? むしろ子供向けの良い狩場になるかもしれない」
「うんうん」
なにしろ僕たちがそう調整しているからね。
「けど、これから先はどうなるかわからない」
「これから先?」
「あのダンジョンは
「あー……」
そんなことを村長さんは考えていたのか……。
確かに僕とナナさんは、村の人達がすぐに飽きてしまわないよう、小出しに小出しに細かく細かくダンジョンに手を加えている。その努力が裏目に出てしまったのが、今回の結果らしい。
「例えば入ってすぐのエリアでは、大ネズミと変なゴーレムしかいないんだけど……」
「うん」
「この大ネズミが、明日には突然ケルベロスに変わっていることだって考えられるんだ」
「……考えられるのかな?」
まぁあの大ネズミは、コストだけならケルベロスを超えているわけだが。
とりあえず僕は、入ってすぐのエリアにいきなりケルベロスを置くような初見殺しなんてしない。
というか現在のダンジョンポイントでは、不殺ケルベロスなんて高くて買えない。
「他には……例えば現在大ネズミは三匹出現するけど――いきなり何百匹も出現するようなことが起こるかもしれない」
「何百はきついね」
「そうだろう? そう考えるとどうしてもね……」
なるほど、父が心配するのも
ダンジョンに現れた何百匹もの大ネズミに子供たちが襲われたというのに、平然と『私が村長です』なんて言えるような父ではないだろう。
子供たちの安全をしっかり考えているがため、規制解除まで時間がかかっているわけだ。
「あとあの変なゴーレム――草ゴーレムだっけ? あれも意味がわからない。未だにわからない」
「うん……」
「攻撃してこないし、ダンジョン内を
「そ、そうなのかな……? いやー、違うんじゃないかな。なんとなく違うと僕は思うけど……」
やはり救助ゴーレムの真価を理解される日は遠いようだ……。
とりあえずその薬草は緊急時に使用される物なので、ホテルのアメニティ感覚で抜かないでほしい。
「そんなわけでさ、なかなか子供たちへ許可は出せなかったんだ」
「そっか」
「他の大人たちや、ルクミーヌ村の村長さんとも相談しているんだけどね」
「あぁ、あの美人村長さん」
「え、美人? あー、まぁうん、そうかな……?」
「あ……」
しまった。うっかり母の前で美人村長さんのことを話してしまった。
父が夜な夜な隣村の美人村長さんと密会をしていると、母に暴露してしまった……。
……まぁ明らかに事実無根ではあるが、どうやら父もそんな疑いを母から掛けられることを恐れたようだ。恐る恐る、チラリチラリと母を確認している。
――だがしかし、母はまったくの無反応で、平然としたものだった。逆に父がしょんぼりしている。
この母の余裕はなんだろうね……。
父を信頼しているのか、父にはそんな度胸がないと
少なくとも、これがディアナちゃんだったら肩パンだろうし、レリーナちゃんなら美人村長さんに面会を求めるだろう……。
対してこの母の余裕。やはり幼いディアナちゃんやレリーナちゃんとは違う。年季が違う――
「今、母はひどい
「…………」
……なるほど、『年季が違う』これがダメだったのかな?
もしかしたら、この無駄に鋭い感性があるから、母は父の浮気を疑ったりしないのかもしれないね……。
「……えぇと、とりあえずそのルクミーヌの村長さんとも相談しているんだけど、もう少ししたら子供たちのダンジョン探索も許可されると思うよ?」
「あ、そうなんだ」
「うん。いろいろと気になる部分はあるけれど、それなりに長いこと調査したしね。なにより世界樹様が作ったダンジョンだから、そこまで心配する必要はないのかなって」
「そっか」
それはありがたいが……もう完全にユグドラシルさんが作ったダンジョンだと認識されてしまっているな。いいんだろうか……。
「だから、もうちょっとだけ待っていてくれるかな? もうちょっとしたら、メイユ村もルクミーヌ村も同時に子供の探索を許可する予定だからさ」
「うん、わかったよ」
「早く許可してあげたい気持ちはあるんだ。子供達もダンジョンに強い興味があるみたいだしね。まぁ、特にディアナちゃんが……」
「うん……」
知っている。ディアナちゃんがダンジョンに並々ならぬ関心を抱いているのを、よく知っている。
「……そういえば、ルクミーヌ村の村長さんがアレクに感謝していたよ」
「あぁ、前にちょっと会って話をしたから」
僕がフォローして、身代わりになった件のことだろう。
「できたらもうちょっとだけディアナちゃんをどうにかしてくれるよう、お願いもしてたよ……」
「そうなんだ……」
どれだけ美人村長さんにプレッシャーをかけているんだディアナちゃん……。
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