第104話  チートルーレット Lv15


 いつの間にか、僕は二人の女神様とのんびりお茶会をしていた。


 会議室のテーブルに置かれた紅茶とクッキーをつまみながら、これまでのアレク君のヒストリーなんかについて楽しくお喋りしていた。


 お喋りの中で、昨日のレベルアップについても教えてもらった。どうも僕は、昨日行っていた狩りの最中にレベルが上がったらしい。


 昨日、僕はレリーナちゃんとディアナちゃんとで狩りに行っていた。

 この三人での狩りは、非常にスリリングだ。ふと気が付くとレリーナちゃんは、モンスターに向けるよりも鋭い視線をディアナちゃんに向けている。いつ誤射ごしゃが起きるのか、僕は気が気じゃない。


 そんな狩りの最中に、僕はレベル15に到達したそうだ。

 女神ズの話によると、この三人での狩りは取得経験値が妙に高いらしい。


 なんとなくわかる気がする。このパーティーでの戦闘は、得も知れぬ緊張感や緊迫感がただようのだ。……ちなみに戦闘中じゃなくても漂う。


「――あ、そろそろ投げてもいいですか?」


「ん? あぁ、それもそうだね」


 そんなたわいのない雑談を一時間ほど続けたところで、ふとここへ来た理由を思い出した。

 僕はお茶会をしに来たわけではなく、チートルーレットでチートをゲットしに来たんだ。忘れる前にちゃんとダーツを投げておかないと。


 まぁ、さすがに三人とも本来の目的であるチートルーレットのことをうっかり忘れて、投げずに帰されるなんてことはないと思う。

 しかし僕は、以前教会でローデットさんにお金を渡してから、鑑定せずにお喋りだけして帰ってしまったことがある。そう考えると油断はできない。

 鑑定一回分のお金をロスするくらいならまだしも、レベルアップ五回分をロスするのはさすがにつらい。


「じゃあちょっとダーツを取ってくるわ、ごめんねアレクちゃん」


「はい」


 僕がディースさんの膝から退くと、ディースさんはダーツを取りにルーレットの元へスタスタと歩いていった。

 結構長い間膝の上に僕が座っていたけれど、足がしびれて歩けなくなったりはしないようだ、さすが神。


「さて、四回目のチートルーレットだ。タワシ、『木工』スキル、回復薬セットときて、次はなんだろうね?」


「なんでしょうね、前回は是が非でも戦闘用のチートが欲しかったんですけど、今回はそこまで戦闘よりでなくても……」


 ミコトさんの問いかけに、僕は曖昧あいまいに応えた。


 もちろんエルフらしく狩りもしているけど、最近はスローライフに傾倒けいとうしているからなぁ。今欲しい物といえば、木工作業用のノコギリが少しボロくなってきたので、新しいのが欲しいだろうか……。

 それはさすがにチートルーレットで望むには、あまりにもささやかすぎるアイテムだろう。


 実際貰ってうれしいチートってなんだろう?

 確か転生前はミコトさんに、『空間魔法、アイテムボックス、鑑定スキル……そういうのが貰えるんですよね?』って聞いた記憶があるけど……。


 今となっては、マジックバッグがあるからアイテムボックスはそこまで必要だとは思わない。

 『鑑定』スキルもあんまり魅力的には感じない。教会で『鑑定』できるし、なによりそんなスキルを手に入れてしまったら、教会へ通う理由がなくなってしまう。


 となると――空間魔法?

 空間魔法か、一応僕には『デスルーラ』があるけど、あれはちょっと使う気にならないからな……。

 だけど空間魔法で転移できるとしても、そこまで有用に使える気もしない、僕の行動範囲はそうとう狭いから……。

 遠出するといっても、せいぜいルクミーヌ村までだ。ルクミーヌ村までの二時間弱を省略できるってのは、うれしいと言えばうれしいけど……。


「うーん。いざどんなチートが欲しいか考えても、あんまり思い浮かびませんね」


「そうかい?」


「そもそもどんなチートがあるのかも、わからないですから」


 できたらカタログを見せてほしいところだ。

 確かチートルーレットに書かれたチートは、六億種類以上だったか? ちょっと見たいな。なんだか見ているだけで楽しそう。


「お待たせアレクちゃん。はいこれ」


「ありがとうございます」


 ディースさんがダーツ持って戻ってきた。僕はお礼を言ってからダーツを受け取る。


 ダーツを見ると、やはり羽にはデフォルメされた笑顔のディースさんと僕が描かれていた。

 ぼーっと羽を眺めていると、ミコトさんがなにか言いたそうな顔で羽を見ていることに気が付いた。もしかしたら、のけものにされていると感じたのかもしれない……。


「……まぁいいさ。じゃあアレク君、頑張って」


「え、ええ、ありがとうございます」


 ここで駄々をこねない大人なミコトさんの応援に応えてから、僕はスロウラインへ移動する。


「準備はいいわねアレクちゃん?」


「はい。よろしくお願いします」


「それじゃあ行くわよー……チートルーレット、スタート!!」


 相変わらず真っ黒で回転しているんだかしていないんだかわからないルーレットボードを見ながら、僕はダーツを構える。


 よし、じゃあ――


「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」


 ……このコールを忘れてた。

 毎回気合を入れた瞬間にかかってくるんだよな、このコール。そして気が抜ける……。


「あの……あの、ディースさん?」


「パージェー……え?」


「やっぱりコールが気になるんですけど」


「コール……? あ、そう、そうなのね……」


「はい」


「いよいよ海外での販売も終了するんじゃないかってことを、アレクちゃんも気にしているのね?」


 そんなことは気にしていない。


 というか、そうなのか。

 前回聞いたときには『日本で販売していない』って話だったけど、海外でも販売終了するのか。なんだか少し寂しい気もする……。


「けど、安心してアレクちゃん。一応チートルーレット用に数は確保しているわ。アレクちゃんが何台引き当てても大丈夫よ?」


「そうですか……」


「じゃあ再開するわね?」


「はぁ」


「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」


 ……とりあえず投げよう。

 僕はもう一度スロウラインを確認しながら位置に付き、ダーツを構える。いざ――


「やー」


 よしよし、ちゃんと刺さった。なんだか良い感じで肩の力を抜いて投擲とうてきできた気がする。

 え、まさかディースさんはそれを狙って? 僕のためにあえて気の抜けるコールを……?


「ちゃんと命中したわね。どれどれ?」


 ダーツが刺さった部分を見つめるディースさん。

 僕をリラックスさせてくれたことに感謝するべきなのかどうなのか迷っていると、なんだかディースさんが変な顔をしている。……え、何?


「なかなか面白いものを引き当てたわね」


 どう解釈かいしゃくしたらいいのかわからないディースさんのつぶやき。

 僕が反応に困っていると、ディースさんがこちらに向き直り、宣言する――


「おめでとうございます――――『ダンジョンコア』獲得です!」


「だんじょんこあ……?」


 ダンジョンコア。今回当たったのは、ダンジョンコアらしい。

 えぇと、ダンジョンコア……。ダンジョンコアか……。


 え、ここにきて、まさかのダンジョンマスター編?





 next chapter:ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田

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