第73話 ラストチャンス


 教会に着いた。


 僕の初狩りは明日行われる。つまり、これが初狩り前にできる最後の鑑定。いよいよこれがラストチャンスとなる。


 もうギリギリのギリギリ、時間いっぱい待ったなしの状況だ。正直、ここまで追い詰められる前になんとかしたかった。普通に考えたら、もう無理だろう……。


 だけど……僕は思うんだ。


 ――ここで決めてこそ、異世界転生者だと。


 異世界転生者ならば、こうやってギリギリまで追い詰められてから、逆転勝利を収めるものだ。

 そうだろう? それこそ異世界転生者であり、主人公なはずだ。


 ある意味、これから鑑定されるのはレベルとかステータスとか、そういうものじゃあない。

 鑑定するのは、僕の異世界転生者としての力量や、主人公としての才能。


 ――言うなれば、異世界転生者力と、主人公力が鑑定されるんだ。


 ……だがしかし、もしもその主人公力が振るわなかった場合。

 つまりはレベルが上がっていなかった場合、僕は自宅に帰ってから、ユグドラシルさんにソフトSMをお願いしなければいけない。そして痛めつけられるたびに、『ありがとうございます』と感謝しなければいけない。


 それは避けたい、避けねばならない。その行為は、どう考えても主人公ではない……。


 ――なんてことを考えながら、並々ならぬ決意を固め、僕は教会のドアを開ける。


「おはようございまーす! アレクでーす!」


 教会へ入ると同時に、僕は元気よく挨拶した。

 教会に入る前のおかしなテンションに軽く引きずられた感はあるけれど、そうでなくても最近僕は、教会内でつとめて明るく振る舞っている。


 最近は特に頻繁ひんぱんに教会へ通っているわけだが……毎回毎回焦燥感を漂わせながら教会へ来て、絶望感を撒き散らしながら教会を去っていく僕。


 そんな僕の相手をローデットさんにさせるのは、さすがに申し訳ない気がしたのだ。

 そのため、なるべく負のオーラを出さないように、明るく元気よくを意識的に心がけている。


「ローデットさんいますかー? アレクでーす」


「はいはーい。いますよー」


 起きているようだ、珍しいな。


「中へどうぞー」


「ありがとうございまーす」


 ここら辺はもう阿吽の呼吸だな。なんせ何度も何度も繰り返しているやりとりだ。ここ最近は特に頻繁に繰り返している。


 応接室に入ると、机の上にはすでに鑑定用魔道具が置かれていた。

 僕は「よろしくお願いします」と言いながら硬貨をローデットさんに渡し、ローデットさんも「ありがとうございますー」と答えながら硬貨を受け取った。阿吽阿吽。


「それにしてもアレクさんは鑑定が好きですねー。二日に一度は来てますけど?」


「ええまぁ……。ただ明日からは、ここまで頻繁に来ることはないと思います」


 この鑑定が終わったら、その結果に関わらず、しばらく来ることもないだろう。また隔週ペースに戻す予定だ。

 まぁ隔週ペースだと、別に『しばらく』ってほどでもないが……。


「あれ? そうなんですか?」


「はい。初狩りは明日ですからね」


「あぁ、そうでしたかー。明日ですかー」


「ええ。これが初狩り前、最後の鑑定ですね」


「正直私は、初狩り前だから頻繁に鑑定するって意味もよくわからないですけど……?」


「えぇと、やっぱり初めての狩りなので、不安なんですよ……」


 チートルーレットのことを説明することもできないので、適当に取り繕って回答した。

 ……まぁ、案外それが本心なのかもしれない。なんとなく不安だから鑑定する。ただそれだけな気もする。


「そんなに心配することはないと思いますよ?」


「みんなそう言ってくれるんですけどねぇ……」


 というよりも、みんなに言われすぎて逆に不安になった。


 両親はもとより、レリーナパパママ、ユグドラシルさん、ローデットさんと……みんな揃って『そんなに心配することはない』『危険なことは起こらない』『大丈夫、問題ない』と、繰り返し僕に伝えてくるのだ。

 もはやフラグにしか見えない。


「とにかく、そんなわけで最後の鑑定です。……これでレベルが10に上がってくれていると嬉しいんですが」


「アレクさんは、ずいぶんレベル10にこだわっていますよねー。確かにキリのいい数字ですけど、だからって、別にボーナスとかないですよ?」


 ……あるんすよ。


「まぁ目標でしたからね。十歳になるまでに、レベルを10に上げることが」


「そうですかー。上がっているといいですね?」


「ありがとうございます。それじゃあ鑑定しますね」


「……上がってなくてもそんなに落ち込まないでくださいねー? アレクさんはいつも頑張っていますから、すぐ上がりますよー」


 ローデットさんがニコニコ笑いながら僕を励ましてくれた。……というか、上がらない前提でこちらを慰めにきた。


 ……まぁいいさ。確かにこんな土壇場で目標を達成するなんてことは、普通はないさ。そんな都合のいいことは、普通なら起こり得ない。


 けど僕なら……僕ならできるはずだ。異世界転生者の僕ならば、僕が主人公ならば――きっとできるはずだ!


 今こそ異世界転生者力を、主人公力を、この世界に示す時だ!


 いざ――!





 next chapter:異世界転生者力と主人公力

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