第24話 将棋を作ればよかった……
「まいりました」
「あぁ、お疲れ様。なるほど、単純だけど奥が深いゲームだね」
僕は世界初のリバーシ対決において、父に敗北を喫した。
えぇ……。なんか普通に負けたんだけど? というか完敗っぽいんだけど?
「どうやら角を取るのがポイントみたいだね」
「そうだね」
うん、角が重要なのは知っている。
「そのためには、角の一つ前のマスに相手のコマを置かせなきゃいけなくて、逆に自分は置いてはダメなわけだ」
「そう……だね?」
うん、なんか聞いたことあるなそれ。
「あえて相手に角を取らせて、そのかわりに違う角を取る。なんて戦法もあるかな?」
「そうなんだ……」
うん、それは知らない。
一戦目で完敗してしまったわけだけど、話を聞く感じ、むしろ一戦目がラストチャンスだったんじゃないか? たった一戦でこの理解度だぞ? もう勝てない気がする……。
なんてことだ……。よく考えたら、この世界でリバーシの発明者は僕ってことになるよね? 発明者のくせにボコられた人として歴史に名が残ってしまう……。
やはり将棋を作ればよかった……。あっちなら流石に負けはなかっただろうに……。
「こんにちはー」
僕が敗北感に打ちひしがれていると、レリーナちゃんが挨拶しながら部屋へ入ってきた。
「やぁ。いらっしゃい、レリーナちゃん」
「こんにちはセルジャンさん。お兄ちゃんも、こん――お兄ちゃん?」
「あぁ、うん……いや、なんでもないよ。こんにちはレリーナちゃん。一昨日ぶりかな?」
「うん。勝手に入ってきてごめんね。ミリアムさんが入っていいって」
――そういえば、リバーシを作ったのは、異世界転生者としての義務以外にも、レリーナちゃんのためという理由もあった。
実はレリーナちゃんのパパは商人をやっていて、エルフの森に点在する各地の村を飛び回って商売をしている。
ちょっと前まではレリーナちゃんも小さかったのでメイユ村にいたが、最近はよく村を離れている。現在もレリーナパパは出張中だ。
お父さんがいなくて寂しそうなレリーナちゃんが、リバーシで少しでも元気になってくれればいいと、僕は思ったんだ。
それにレリーナちゃんは、自宅謹慎中の僕の元へ、ちょくちょく遊びにきてくれた。
レリーナちゃんが来ないと家の木目を眺めるだけの生活だった僕からの、感謝の気持ちもあった。
「レリーナちゃんも一緒にやってみよう?」
「なにこれ?」
「リバーシといってね、ちょっと作ってみたんだ」
僕はレリーナちゃんにもルールを説明する。リバーシならレリーナちゃんでも遊べるだろう。まぁそう思ったからこそ作ったのだけど。
とはいえ、手を抜くわけにはいかない。レリーナちゃんには申し訳ないけれど、僕はなんとしても『発明者のくせにボコられた』などという汚名をそそがねばならない。
まぁ正直、発明者が六歳の幼女に勝ったところで、いい意味で歴史に名を残せるかはわからないけど……。
まぁとにかく、本気で行くぞレリーナちゃん。いざ――
◇
「まいりました」
「あ、私の勝ちでいいのかな?」
えぇ……。噓でしょ? 普通に負けたぞ……。僅差とはいえ、普通に……。
「これおもしろいね、お兄ちゃん!」
「……そう、喜んでもらえて何よりだよ」
いいさ。レリーナちゃんが笑ってくれるならそれでいい。レリーナちゃんに喜んでもらうために作ったんだ。
僕が『発明者のくせにボコられた腹いせに、六歳の幼女に勝負を挑んで返り討ちにあった男』として歴史に名を残すことになろうとも、レリーナちゃんの笑顔と引き換えならば構わない――いや、やっぱりその汚名はキツいな……。
……やはり将棋を作るべきだったか。僕の白色レグホーンスペシャルなら、さすがに素人には負けなかっただろうに……。
「今度は、僕の父と対戦してみたらどうかな?」
「お兄ちゃんはいいの?」
「う、うん。僕は製作者として、他の人達が対戦している姿を見たいんだ」
「そうなんだ、ありがとうお兄ちゃん」
僕は見守る側に回った。これ以上連敗を重ねて、汚名を重ねたくない。それに兄としての威厳も保てなくなりそうだし……。
正直逃げたわけだが、そのことにレリーナちゃんは気付かなかったようだ。
……父は気付いたようだ、微妙に生暖かい目で僕を見たけど、特に何も言わなかった。
「よろしくお願いします、セルジャンさん」
「よろしくね、レリーナちゃん」
そうして始まる『レリーナちゃんVS父』の対戦。――結果は父の勝ち。
ちなみに僕は、二人の対戦中に母を探してきて、母にルールを説明していた。
「よろしくお願いします、ミリアムさん」
「よろしくね」
今度は『レリーナちゃんVS母』だ。
母が強くなさそうなら、今度は僕が母と対戦して、見事勝利を収めることにより汚名返上やら兄としての威厳の回復やら――そんなことを狙った僕の姑息な作戦だったのだが……母が勝利した。
「「よろしく」」
次は『父VS母』だ。
どうやら僕はもう誰にも勝てないようなので、単純にどちらが強いのか興味があっただけのマッチメイクをしてみた。
なんだか対戦はかなりレベルの高いものになっているらしい。隣で一緒に観戦していたレリーナちゃんが、「なるほど」とか言っている。
残念ながら何が『なるほど』なのか、僕はわからない。とりあえず顎に手をやり、うんうん頷いて僕も『なるほど』なポーズをしておこう。
結果は父の勝ちで、父が一家の大黒柱としての存在感を示した。
それから僕以外で数回対戦が行われた後、レリーナちゃんが帰る時間になった。
レリーナちゃんはだいぶリバーシを気に入ったようなので、僕は気前よくレリーナちゃんにリバーシをプレゼントすることにした。
「本当にいいの、お兄ちゃん?」
「うん。実はレリーナちゃんのために作ったところもあるからね。それに、僕は作ろうと思えばまた作れるし」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
レリーナちゃんは花のような笑顔で僕に感謝の言葉を伝えてから、リバーシを持って帰っていった。よかったよかった。
「――作ろうと思えば作れる?」
「え? うん。まぁ」
レリーナちゃんが帰ると、すぐに母が話しかけてきた。
欲しいの……? 作れるけど、あれ結構面倒くさいよ? それに、僕はもうリバーシやらなそうだし……。
「じゃあ、よろしく」
「え?」
「負けっぱなしは性に合わない」
なんだか母が格好良いことを言う。父にリベンジする気なのか、すごい負けず嫌いだな。母の新たな一面を見た気がする。
僕なんか今日一日逃げて、これからも全力で逃げる心積もりだというのに……。
「うん。いいよ、作るよ」
「ありがとう」
「ごめんね、アレク」
決意をこめた表情の母と、苦笑いの父。まぁいいか、夫婦仲良くリバーシをしている絵も、なんだかほのぼのとしてよさそうだ。
まぁ一セット作るのも大変なんだけどね、なにしろコマの数が多いから。……口コミで広がって、大量の発注とか来ないよね?
というか、レリーナちゃんのお父さんは商人なんだけど、帰ってきたレリーナパパがリバーシを見て、何を思うか――
ちょっと不安になってきた。え、大丈夫かな?
next chapter:木工シリーズ第三弾~第八弾
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