第19話 賢者


 教会でステータスを確認した後、僕は父にステータスや能力について細かい部分を尋ねながら、帰り道を手を繋いで歩いていた。


「――あ」


「うん? どうしたんだい?」


「どうせなら父のステータスも見せてもらえばよかった」


 『剣聖』とまで呼ばれ、ローデットさんにも敬意を払われている父。

 そんな父のステータスは、僕とは比較にもならないだろうけど、今後の参考程度にはなるかもしれない。あと、単純にどれほど凄いのか興味があった。


「うーん……それはやめておこうか」


「なんで? あ、もしかして『剣聖』以外にも恥ずかしい称号とかが?」


「…………」


「いや……違うよ? 僕は『剣聖』も恥ずかしいと思わないよ? 誇らしいし、かっこいいと思っているよ?」


 なんだか必死にフォローしてしまった。普段は常に柔らかい表情の父が無表情になるとドキドキする。


「……うん、そうじゃなくてね。この前、僕が言ったことを覚えているかな? 可能性と選択肢の話なんだけど」


「『元気があれば、なんでもできる』って話だね?」


「元気……? うん。まぁ、そういう話をしたよね? 僕のステータスで、アレクに変な影響を与えたくないんだ。僕を目指すようなことはせず、アレクはアレクで自分のやれることを探すといいよ」


「……うん、わかった」


 僕は素直に頷いた。

 ただまぁ、ぶっちゃけ『残念なステータスの息子に、超優秀なステータスを見せるわけには……』みたいな気遣いを、ちょっと感じてしまった。

 家に戻ったら、母にもステータスの報告をするんだけど……両親を悲しませるのは心苦しいな。前世では残念な息子のまま終わってしまったけど、今世では、どうにかここから巻き返したいところだ。



 ◇



「ふんふん」


 水晶が表示したステータスを紙――羊皮紙とかじゃなくて木から作られた普通の紙だね――に書き写しておいたので、現在母はそれを確認している。

 ……なんだろう、通知表を見られている息子の気分だ。


「チッ」


「ふぇぇ……」


 ま、まさか舌打ちされるとは思わなかった。思わず情けない声を上げてしまった……。


「ちょ、ちょっとミリアム」


「え? あ、あぁ。違うのよアレク」


 あんまりな母の態度をたしなめる父。けど、なんか違うらしい。

 母は通知表をテーブルへ置き、安心させるためか僕の側へ寄り、頭を撫でてきた。


「アレクのステータスを見ていたらムカついただけなの」


「ちょ、ちょっとミリアム」


「え? あ、あぁ。違うのよアレク」


 僕の頭を撫でるスピードが上がった。

 前から思っていたけど、母はちょっと天然なところがあると思う。不思議ちゃん系というか……。


「なんていうかね、あなたの『称号』でね……」


「あぁ『賢者』――ヒッ」


 すげえ睨まれた……。『賢者』がそんなにイヤなのか。『聖女』とかよりはマシじゃない……?


 まぁとりあえず、僕の残念なステータスに失望したり悲しんだりはしてなさそうなのはよかった。


「まぁいいわ。これからも頑張りなさい」


「うん。けど、この能力値とかスキルってどうすれば上がるのかな?」


「そうね……。アレクは今レベル5だけど、能力値はこのレベルが上がったときにランダムで上がるわ。これが『レベルアップボーナス』。そのレベル帯で一番鍛えた部分が上がる傾向にあるみたいだけど」


 いわゆる『ステ振り』ってやつか。レベルアップしたらボーナスポイントを貰えて、それを上げたい能力値に割り振る……まぁこの世界では自分で選べないみたいだけど、一応は誘導できる感じか。


「じゃあ、僕が今から次のレベルアップまで剣を振り回していたら、レベル6で『筋力値』が上がる確率が高いのかな?」


「そうなるわね」


 なるほど。やっぱり僕の『器用さ』が高いのは、幼いころから魔力操作していたせいだろうか? その影響で、『レベルアップボーナス』は『器用さ』に割り振られたと考えられる。どうやら魔力を操作しただけでは『魔力値』は上がらないようだ。


「あと日々の生活でも突然上がるわ。毎日鍛えていればレベル関係なく、いつの間にか上がっていることもあるわね。これが『日常ボーナス』……滅多にないけれど」


 これでも『器用さ』が上がった可能性はあるか。

 とはいえ、ローデットさんは僕の能力値に『悪くはない』程度の評価を下した。幼いころから地道にグルグル操作していたけど。そこまで絶大な効果はなかったみたいだ……。


「スキルのレベルはどうやったら上がるの? あと、新しいスキルを覚えるには?」


「やってれば覚えるし、上がるわ」


 ざっくりだな母……。能力値の説明だけで飽きたのかな……。


「ま、まぁ、ミリアムの言う通りだね。スキルのことを人から学んだり本で読んだり、スキルがなくても実際に扱えるものなら、実践していれば覚えることができるよ」


「覚えたら、使い続ければスキルのレベルも上がるんだね?」


「そうそう」


 母の雑な説明を、父子でフォローしてしまったぜ。


「――そういえば、アレクは『木工』スキルをもっていたね? そしてこの前、僕に『ナイフと木材が欲しい』と言ってきたね? ……何故だい?」


「へ?」


「まるで、ステータスを確認する前から、自分が『木工』スキルをもっていることを知っていたみたいじゃないか」


 ……父が、疑いの目で僕を見ている。


「それにあのとき、アレクは随分様子がおかしかった……」


 それはまた別の理由だ。

 むしろそっちの方が説明しづらい。まさか『二人の夜の営みを、細かく神様に説明されたから』なんて本人に言えるわけがない。


「アレク……?」


「…………」


 まずいぞ、なんて説明したらいい? 神様に教えてもらったなんて言えるはずが――別に言っていいんじゃないか?


 そうだ。似たようなことで僕は悩んでいた――タワシの件だ。

 あのとき僕は、タワシを『神様に貰った』と言って両親に押し付けようとした。けれど『エルフが信仰する神様って誰?』問題で、それは立ち消えになっていたんだ。


 しかし今日、エルフが信仰する神様は世界樹だと知ることができた。――ならば、世界樹が『タワシと木工スキルの情報を僕にくれた』と言ってしまえばいい。


 両親に嘘を付くようでちょっと心が痛いが、あながち全部嘘ってわけでもない、神様に貰ったのは本当だ。


「うん……。実は、二人に話したいことがあるんだ」


「話?」


「ちょっと待っていて。すぐ戻ってくるから」


 僕はすぐにリビングから自室に向かう。

 とりあえずタワシを押し付けよう。あれを見せれば僕のことを信じてくれる。……信じてくれるだろうか? 神様からの贈り物にしては、ちょっとショボい気がするけど……。


「えーと、どこへ置いたんだっけか?」


 自室に戻り、タワシを探す僕。タワシは随分放ったらかしにしていた。というより、貰ってすぐに棚に放り込んだから、放ったらかしにしかしていない。


「あぁ、そうだ。棚だ」


 物が少ない部屋だし、すぐにわかる。部屋がごちゃごちゃするほど物がないのだ。玩具とか遊び道具もない。

 というか娯楽がないよねこの世界。『木工』スキルで作れそうなら、いつか自分でいろいろ作ってみようか?


 まぁいいや、今はタワシだ。タワシを……タワシ……。


「……あれ?」


 ないんだけど?





 next chapter:超常的な存在と交信しました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る