第17話 美人修道女ローデット
教会に着いた。
その教会は、白くてとんがっていて十字架がついている建物――なんていう、僕がイメージする教会の特徴と何一つ合致しなかったため、父に言われるまでそこが教会だとはわからなかった。普通の民家にすら見える。
教会の扉へ近付いたとき、扉の斜め上に、大樹が描かれたレリーフが飾られていることに気が付く。たぶんこの大樹は世界樹をイメージしていて、このレリーフは、ここが森と世界樹の教会だということを示しているんだろう。
僕がレリーフをぼーっと眺めていると、父はさっさと扉を開け、挨拶をしながら中へ入っていってしまった。僕も慌てて後を追う。
教会内は、確かにどことなく教会っぽい。
通路を挟んで、左右には長椅子が列をなして並んでいて、中央の通路の先には教壇が設置され、その頭上には外で見た物より大きめの大樹のレリーフが掲げられていた。
前世でも僕は、教会なんて行ったことがなかったけど、なんとなくテレビや映画で見た、教会っぽい雰囲気がある気がする。
「こんにちはー。……あれ? ローデットさーん? いませんかー?」
父が、ローデットさんとやらを呼びながら通路を歩く。
部屋を見回しても、誰もいないように見える。教壇のさらに奥には扉が見えるので、その先にいるのだろうか?
「どうも礼拝堂にはいない――あぁ、いたね……」
父の視線の先をたどると――長椅子で横になっている女性を発見した。
その女性はだらしなく口を半開きにして眠っているが、そんな情けない姿でも美女なのだから、いかにエルフの容姿は優れているのか……。
この人はシスターだか修道女なのだろうか? 服装も普通の村人と同じもので、頭にもベールのようなものもかぶっていない、綺麗な金髪が長椅子から床へたれていた。
しかし誰もいないとはいえ、神聖なる礼拝堂で眠りこけるとは……。
本を枕にして寝ているけど、その本はもしかして聖書的な物だったりはしないよね……?
「あのー、ローデットさん? ローデットさーん」
「ひゃい! あっ――うぐっ!」
ローデットさんは父の呼びかけで目を覚ましたようだが、そのままバランスを崩して長椅子から床へ落下した。
「えっと……? あ、はい。おはようございますー。あれ? セルジャンさんですか? 珍しいですねー、こんなところで会うなんて」
ローデットさんは服の
というか今、『こんなところ』って言った……? 教会の人だろうに、この人もだいぶ宗教にゆるそうな感じがする……。
「うん。今日はね、息子のアレクを鑑定してもらいに来たんだ」
「はじめまして、アレクです。今日はよろしくお願いします」
「あらー、これまた可愛いお子さんですねー。将来が楽しみ――というか、将来が恐ろしくなるくらいに可愛いお子さんですね……」
僕の容姿が褒められた。というより、若干恐れられた。さすがは父と母の最強遺伝子を引き継ぎ、ディースさんの神エステを受けた僕だ。
まぁローデットさんからすると、ディースさんは邪教の神かもしれないけど。……あれ? まさか僕を恐れたのは、それを感じとったからか? ローデットさん、案外侮れんな……。
「いきなり息子に変なことを言わないでくれるかな? ローデットさん」
「あぁ、ごめんなさい。はじめましてー、この教会を管理している『森と世界樹教会』メイユ支部の修道女、ローデットですー。よろしくお願いしますー」
ローデットさんは妙に語尾を伸ばしながら挨拶をして、ペコリと頭を下げてくれた。寝ていても美人だったが、起きてもやはり美人さんだ。少したれ目で温和そうな顔をしている、なんだか朗らかそうな人だ。
――だが、邪神ディースさんに気付いた人だからな、油断はならない。
『森と世界樹教会』ってのも、なんだか響きが怪しく感じる。……まぁ、これは前世の影響かもしれないけど、どうしても宗教団体って聞くとねぇ?
ちなみに、『メイユ』とは、この村の名前だ。つまりローデットさんはどこかに本部がある『森と世界樹教会』から、僕らが住むメイユ村に派遣された人なのだろう。
そうなのだ。エルフの集落はここ以外にもたくさんある。初めて僕は自分がエルフだと知り、ここがエルフの集落だと知った時には驚いて――ついでに『エルフの集落ってこんな小さいの? 人数少なすぎない?』なんて心配をしたのだが、メイユ村は巨大なエルフの森に点在する村のひとつってだけらしい。
「それで、えーと、アレクさんの鑑定ですかー? ええ、もちろん構いません。すぐにできますよー?」
さて、いよいよ鑑定だ。ローデットさん
……すぐにできるらしいのだが、すぐに動こうとはしないローデットさん。なにやらチラッチラッと父を見ている。
なんだろう? ん、あぁ、そうか……。
「あぁ……。お納めください」
「これはこれは、お預かりいたしますー」
父は硬貨を数枚取り出して、ローデットさんに手渡した。それをにっこにこで受け取るローデットさん。こんな田舎の小さい村だけど、ちゃんと貨幣経済が成り立っているのだ。
いやしかし、なんだか露骨に金銭を要求してきたな……。
「では、すぐに魔道具を取ってきますねー」
ローデットさんは硬貨を手に奥の扉へ向かう。「晩ごはんのおかずが一品増えますー」なんて声が聞こえた。
「嘘でもいいから『森と世界樹のために使います』なんて言ってほしいね……」
「…………」
どうだろう? どうせ坊主なんて口では立派なことを言うが、結局は自分達のために使うのだ。むしろ正直に言ったローデットさんの方が好感度が高いかもしれない。
……いや、ないか。微妙に好感度が上がりかけたのは、ローデットさんがほんわかした美人だからってだけだろう。
もしも実際に、葬式後のお
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