第10話 雨季の終わりは収穫祭

 窓ガラスが大きな音を立てて、揺れ始めた。


 突風が吹き出したのだ。

 これは自然が教えてくれる、雨季の終わりを告げる合図。


「そろそろ、雨が上がるようね」

 サラは、ティカップを置くと窓際から外を眺めた。


「やっとですわね」

 アズは雨具を片付け始める。


 風が止んだ。


 陽が差し込むと、サラが開けた窓の外に、ヒルド全体を覆う大きな虹が掛かるのが見えた。


 一気に蕾が開いて、高原には花が咲き乱れる。

 遠く、ピンク色の花が咲き、まるで桜のように美しい。

 

 ここからがお楽しみのイベントの発生だ。


 雨季が終わるのと同時に、森林の奥では、大量に異常発生する。


 そして、風に乗り、このヒルドの高原を通り過ぎていく。


 お屋敷の上に特別に作ってもらった見晴台で、観察を開始。


 ヒルドの人々もこの時を待っていた。

 あっちからこっちから、各々に道具を手にして高原へと駆け出す。


 3年前はトマトの大群が走ってきた。その3年前は、さくらんぼが走ってきた。その前は、ブドウだった。


 今年は何がくる?!


 …………。

 嵐の前の静けさに、息を飲んだ。


「そろそろ来るぞ」


 地面が揺れ始めた。


「今年も大群だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!」


 地平線から、何かがやってくるのが見える。


「見えたっ……!!! 卵だ!!!」


 ころころ、ごろごろ。


 転がったり、跳ねたり。


 ざっと見て、その数10000。


「捕獲しろーーー!!!」

 人々が大喜びで卵に飛びつく。


 私は、まだ見晴台から動かない。大量に走り去る卵をじっと観察している。

 

 私は、なんでもかんでも捕まえたいわけじゃない。

 レアな卵を探してる。


 狙うは、超レアだ。


「あれか? これか? いや、こっちか。それとも……」


 大量の卵を見送る。


 数も減ってきたころ、100㎝はあるひとつの卵をみつける。


 ここで水鉄砲を抜く。

 久しぶりの水鉄砲。賢者は元気だろうか。

 

 オレンジ色の縞模様がついた卵に照準が合う。

 トリガーを引く。


「水蜘蛛の巣」


 ぴょーん。と、高くジャンプそれを交わす卵。


「っ!?」

 ムッとした。


 再度、トリガーを引く。

 

 また、交わされた。


 こうなったら、力づくで捕まえてやる。


「待てこらっ! 卵やろー!」

 つい口が悪くなってしまった。

 

 大急ぎで縄を持って、走ってくるオレンジ色の卵の前に出た。


 コイツの知能は低い。前に進むか跳ねることくらいしか知らない。

 素早さなら、私がまさっている。


 ぴょーんと私の頭上を軽く飛び越えていく卵。


 その時を待っていたのだ!


「っ!!!」


 私は、卵に飛びついた。 

 よしよし。なんとか卵にしがみついたぞ。


 縄を卵に巻きつけ、もう一方の紐の端を水鉄砲を利用して、一本の木にぐるっと巻きつければ……。


 ヤッッ!!


 作戦成功! 卵の動きが止まった!!!


 こうして私は見事、オレンジ色の卵をゲットしたのだった。



 △△△△△△△△△△△△



 広間に卵を運び込むと、

「シイナ、この卵で何料理を作るつもり?」

 サラが興味津々に尋ねてきた。


「いや、食べないから」


「私が目玉焼きにしてあげようか?」


「それならまずは、卵を割らないといけませんわ」


 大きな金槌を取り出すアズ。


「だから! 食べないから!」


「きっと食べ頃だと思うのだけど。なぜ食べないのかしら?」

 驚いているサラにアズが同調している。


「私も食べたいわ」


 お腹を鳴らしている2人には悪いが、

「この卵は孵化させようと思っている。ドラゴンが生まれるかもしれない」


「もし、悪魔が生まれたら? もし、魔王が生まれたら?」

 サラが仮説を立てるたびに、アズが怯えている。


「もし、そうなったらヒルドは崩壊するわ。だから、私は、食べるのがいいと思うのだけど……」

 なるほど、サラはどうしても食べたいらしい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る