最終話 透けた微笑み
数年後。
僕は病院の更衣室で、手術着に身を包んでいた。
身支度を整えた僕は、銀色の指輪をロッカーの中に大切にしまう。
「いってくるよ、舞葉」
一人呟き、僕はロッカーを閉じると更衣室を後にする。
僕は手術室に入っていく。
明るい部屋の中で、物々しい格好の医師達が、手術台の上で寝ている患者を囲んでいた。
今まさに、手術が始まろうとしている所だ。
執刀医は舞葉の父である
僕はその夜霧先生の横に並ぶように立つ。
「景太君。君が助手を引き受けてくれて、本当に心強いよ」
夜霧先生が僕に向かって言う。
僕は彼の言葉に、誇らしさを感じた。
「…やっとあなたの隣に立てるくらいになれました」
僕はそれだけ言うと、後の言葉は飲み込んだ。
今はそれ以上、関係の無い会話をここで続ける訳にはいかなかった。
これから始まる目の前の手術に、集中しなければならないのだから。
「難しい手術ですが…、必ず成功させましょう!」
僕は夜霧先生と、周りの助手達に向かって言う。
「ああ…。もちろんだ!」
僕の言葉に、夜霧先生は力強く頷くのだった。
誰もいなくなった更衣室。
並んだロッカーの間には、長椅子が置かれていた。
その椅子に腰掛けて、景太のロッカーを愛おしそうに見つめる女の姿があった。
彼女の体は薄く透けている。
「頑張れ…。頑張れ景太君…!」
景太のロッカーにむかってそう独り言を口にした女は、優しく、そして満足そうに微笑みを浮かべるのだった。
薬指に咲く・完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます