第10話 やつれた二人.3


「懐かしいなー。二人で合格発表を見に行ったよね!」


舞葉が祭りの開かれている神社の境内を一望しながら言う。


「私が合格祈願の為にこの神社に通ったから、景太君は入学できたのかな?」


「僕がちゃんと勉強したから合格出来たんだよ…。でも…」


僕も舞葉と同じ様に、周りを見回した。


「子供の頃からずっと、僕達を見守ってくれてた神社だからね。もしかしたら、神様の手助けもあったのかも…」


しみじみと言って感慨にふける僕の顔を、舞葉は横から覗き込んでくる。


「合格が分かった後に、私の家でパーティーしたの覚えてる?」


「あー…。覚えてるよ」


僕はその時のことを思い出して、苦い顔をした。


「お父さんたら、お酒の飲み過ぎで酔い潰れちゃって。あんな風になってるのを見たの初めてだったなー」


「あはは…、でも嬉しかったよ。それだけ僕が合格したことを、喜んでくれてたみたいだったから」


まるで自分の家族を祝うかの様に、あの時は盛大にもてなしてもらった。

お酒の入った状態で、舞葉の父が僕に言ったことを思い出す。

そしてそのときの言葉を、僕は口に出して呟く。


「ここがゴールでは無いよ。君が医者になるための道は、ここから始まるんだから…か」


今でも僕の中に刻み込まれている言葉だ。


その道を一歩一歩進んで来た僕は、来年には大学を卒業する。

それもまたゴールでは無い。

これから先に終着点は無いのだ。


僕は拳を握りしめて、その思いを噛み締める。


その様子をみた舞葉は、黙って僕を見つめる。

彼女は何も言わず、ただ静かに僕の事を見守っているのだった。

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