窓から入ってきた鳩が美少女になった話‪α‬

回して置く(ゴミカスペペロンチーノP)

第1羽



「ハァ…ハァ…。カワイイ、カワイイよぉ…むふふふふ…。」

パソコンを見つめている俺はつい言葉を漏らす。俺の名前は松山まつやましゅう。幼稚園の経営と幼稚園の先生をしている。¬――現在六時半…あともう少しで出勤する予定だ。

え?パソコンで何を見てるのかって?フフフ、俺の大好きなアニメさ。…その名も…

ようりょう少女しょうじょギガ』!!


「ギガちゃん、もう容量の空きがないよ…」

「テラちゃん、ここは私を信じて…!!…必殺、1800ギガバイトォォォォォォォォ!」

「す、すごい。さすがギガちゃん!」


俺は主人公・ギガの相棒であるテラちゃんを猛烈に推している。

もう溜め息が出るくらいかわゆいんだよ、この気持ち分かるか!?

「あぁ、テラたん可愛いよぉ…。」

今は最終回の3話くらい前で、敵キャラとの大熱戦が繰り広げられている。


「もうちょっと容量があれば、倒せるのに…。」

「こうなったら私が!くらええええええ!」


ついにボスの首にテラちゃんが襲い掛かった。

「いけええええええええ!!」

俺もパソコンの前で叫ぶ。

テラちゃんが鋭い一撃を放ったその瞬間、俺の腹部にどこからか強烈なドロップキックが炸裂した。

「ぐふぉ!?」

俺に抵抗する術はなく、床にそのまま倒れてしまった。顔を上げると俺にキックをお見舞いしたと見られる美少女が立っている。ただし、脚は鳥の。

「は~すっきりした~」

こいつの名前ははと。俺とは5年の付き合いだ。

鳩はなんと鳥類の姿にも人間の姿にもなれるというとんでもない能力をもっている。

「ちょ鳩ぉ…流石に朝にドロップキックはないだろ…。」

俺は掠れた声で訴えた。

「でも最近運動不足なんだ。だからしょうがない、よね?」

鳩は笑顔で答えた。

「で、でもなぁ…。」

くそっ!こんなにかわいい顔で言われたら俺は…俺はぁッ…!!自分の女子への耐性をこれほど恨んだことはない。…それでも俺は声を絞り出して言った。

「でも…おま…蹴る必要、あった、か?」

こいつはいつもそうだ。事あるごとに俺の事を蹴とばしてきやがる。

――思えば出会ったときもそうだったな


5年前、俺は高卒ニートまっしぐらだった。高校を卒業してからもう数ヶ月は引き籠っていて生きるのも嫌になっていた。

そんなある日、俺は窓を開いて部屋を換気していた。窓を開けているときにふと何も考えずに空を見ていた。すると、気のせいだろうか?空をとんでいるはずの鳩がだんだんこちらへとむかってくるのだ。

――鳩?いや、だんだんと姿を変え、気が付けばその鳩は可愛らしい少女へと化していた。

(当時の俺の心境)

ってうぉおおおおおい!?なんだこのシチュエーションは!?はぁぁああ!?いやいや落ち着け俺、落ちつけ!?…いや、もしかしたらこのかわいい鳩は俺を卒業(♡)させにきてくれたのか…?

その後鳩は加速を続け遂に俺の胸に飛び込んできた。

ぶぎゃっっ!!!!

そして――俺はその衝撃でぶっ飛ばされた。

俺…このまま死ぬのかな…まだアニメ…最後まで見てないのに…うぅ…。

しばらくの間項垂うなだれていた俺には1つの疑問が浮かんだ。

(でも、こいつの目的はなんなんだ?)

人が換気で窓を開けている間に窓から侵入するというスタイリッシュ不法侵入をした割にはその後は乱暴な様子をみせない。

それどころか鳩は「今日からお前と同居する」「お前を救いに来た」「早く職につけ」といった風に、「なるほど、わからん!」な話を次々とし始め、気が付いたら同居することになってしまったorz…。


とは言えなんだかんだで今の仕事を持って来てくれたのも鳩なので感謝はしなきゃいけないんだよな…。

...が、どんな理由があれど蹴るのは別問題だろう。はぁ…なんでこんな鳥に育ってしまったかねー…。

「私は気持ち悪いから蹴っただけだ。」

「な、なにを…!」

アニメを見ているだけで気持ち悪いと言われるのはとても心外だ。推しキャラに癒されながらアニメを見ることが気持ち悪いというならば、今鳩は全ヲタクを敵に回したも同然である。もちろん狼狽うろたえながらも俺は反論した。

「お、俺はアニメを見てただけだぞ!お前に迷惑かけてないじゃねぇか!」

「ふーん…。」

鳩は唐揚げにかけるレモン汁を絞ったあとのレモンの皮を捨てるような眼でこちらを見ていた。そして「はぁ…。」と溜め息を一つした後に鳩は、

「...自分の格好見てから言えよ。」

はぁ?こいつ何言ってんの?と思い俺は自分の格好を見た。見た後に俺の頬はライチ色に染まっていった。

「あのねぇ…全裸の男がPCに向かって『可愛いよぉ…むふふ…』って鼻の下伸ばしながら言ってるのよ?」

「うっ…うぅ…。」

しまった。

俺は大事なことを忘れていた。

そうなのだ。そうだったのだ。


説明しよう!松山秋がアニメを見るとき、松山は独りで、そして全裸で視聴することがスタンダードなのだ!


くそっ…。アニメに熱中し過ぎたことと鳩が飛び蹴りしてきたことに怒っていたで俺が今全裸体ネイキッドであることをすっかり忘れていた…。完全に俺は劣勢ッ…!

――いや、まてよ…?これってそういう感じの漫画だと俺が逆上して襲っちゃうやつだよな…。そしたら俺は今卒業(♡)することができるじゃないか!

そうと決まれば早速作戦に取り掛かろう。

俺は鳩の顔に迫りながら言った

「鳩、俺…もう我慢できないよ…。」

「しゅ、秋?」

「五年前からずっと、好k」

「モシモシケイサツノカタデスカセクハラサレテイルノデイマスグキテクダサイ」

俺氏渾身の愛の告白が終わる前に鳩はスマホ片手に110番通報していた。

「うわああああああ!」

「イマスグキテクダサイセクハラノイキヲコエテイマス」

まずいまずいまずいまずい…。俺は頭を抱えた

「お、俺が悪かったから勘弁してくれ…。」

鳩は幼子に穴をあけられた障子を見るような眼をこちらに向けていた。

「ホントサイテーだよな秋って。」

「ごめん…。」

今はただ謝り倒すしかない。

「…こんなくだんないことしてないで、はやく幼稚園の準備いくよ。」

と言い放ち鳩は背を向けた。



「いやー今日は子供たちどんな様子だろーねー。」

「子供たちに会う前に俺を消し去ってくれ。」

…先ほどの醜態!失言!愚行!の3コンボを思い出すと死にたくなってくる。

「まぁまぁ。子供たちに早く会って癒されよーよ。」

「こんな俺が純粋で無垢な子供たちと会っていいのか!?言葉を交わしていいのか!?なぁ!?」

俺は声を荒げた。我ながら情緒不安定さが恐ろしい。

「秋。もう少しで幼稚園つくし、あのモードに入った方がいいんじゃない?」

「あ、あぁそうだな…。」

こんな俺だが実はある技を使える。そう、カワイイ女の子に変身することが出来るのだ!…男子諸君からしたら羨ましい能力なのではないだろうか。

でも俺がこの能力を手に入れた理由は決して不純なものではない。園児どもが俺の顔を見た途端に泣き出してしまうのでその対策として鳩が生み出したものだ。

俺だって最初はやましいことの1つでもしようと思ったさ。でも、このモードを作ったのが鳩だから特別疚しいことはできないようになってるらしい。

とにかく俺・鳩の変身技術は気にしたら終わりってことだな。


「ふう…変身し終わった。」

「ずっとそのモードの方が可愛くて良いんだけどなー。」

鳩がわざとらしい言い方で言う。

「この姿結構疲れるんだぞ全く…。」

とはいえ可愛い子は何しても可愛いという言葉もあるくらいなので、鳩の言うことはわからなくもない。

「お。お前らおはよー。」

と、そこで1人の男性に声をかけられた。

「あ、ドリーさん!おはよーございます。」

声をかけてきたのは、同じ幼稚園のドリーさん。この人は子供とは触れ合わずに事務の仕事をしている。俺よりはかなり年上らしい。なんでも昔は瞬間接着剤界のトップに君臨していたとかいなかったとか。

「今日はお泊り会ってやつなんだろう?俺はガキとあまり関わりたくないから2人で頑張ってくれな。」

言うなりドリーさんは俺らの肩をポンポンと叩いて事務室へ向かった。この人はもとからこんな性格なので今更気にすることはないが。


「今日は、お泊り会なので、夜ご飯を作りましょうね!」

「はーい!」

何も考えるな…何も考えるな秋よ。目の前の仕事を笑顔でこなすのだ。そうすれば給料がもらえるんだ…!

「っゃませんせー、まつやませんせー、おーい!」

俺は我に返った。ああ、この子が俺に話しかけてきてるのか。

「どうしたの?」

「ちょっと来て!」

な、何事だ?とりあえず呼ばれた先へ走ってみたが、そこでは女子が泣いているようだった。

うっわめんどくさ!子供の喧嘩に大人を巻き込むなよ…。

と心の中で言いつつ俺は事情を聞いた。

「わたしがっ…グスッ…カレー作ってたらっ…ヒッ…ミコちゃんが…エッ…カレーに混ぜてきたの…!」

「まてまて落ち着こうね~。何混ぜたのか教えて?」

それ以前にミコって誰って思ったが気にしてちゃあしょうがない。

「タピオカ…ミルクティー。」

俺は凍り付いた。え、ちょ、カレーに?タピオカ?ミルクティー?…それ先生たちも食うやつだよね?たぶん。不味くない?

「ミコ、ちょっとおいで。」

と俺が言うとミコと思われる子が出てきた。

「なにか文句あんの?」

ミコは大人の俺を見下した顔をしていた。まあ大抵の人は俺のこと見下して喋るのだが。

「カレーにタピオカなんて混ぜちゃだめでしょ?どうしたの?」

「は?タピオカは映えるし!アタシに口答えする気?この超人気ビンスタグラマーの私に!」

ビンスタグラマーてなんだよ。臭いな。

「とにかく、嫌がってるんだからやめなさい。」

「嫌よ。止めようったってアタシのフォロワーたちが黙っちゃいないからね!」

はぁ?なんだよこいつ…。

「でもね、ミコちゃん。周りのこと考えないと…」

俺はミコに近づき、ミコを撫でようとした。

「触らないでよ!」

ミコは俺の手を跳ね除けた。…と同時に俺の中の何かがプツン、と途切れ、俺の体は変形した。

女モードが解除されてしまったのだ。

「まつやませんせいが!うわあぁ!」

1人の園児が言い出したのを皮切りに次々と俺への罵詈雑言が飛び交った。

「へんたいだ!」

「サイテー!」

「じょそうしてたんだ!」

「クソじゃん!」

…女モードが突然切れることなんて想定していない。

とりあえず大人の男性としては幼稚園児に罵倒されて涙目になるというのは何としても避けたい。

だが実際の俺は既に涙目だった。

ママァ…タスケテ…。

なんて考えているとミコがとんでもない一言を俺に浴びせた。

「私に二度と話しかけないで。この○○ピーが!」

グサッ…!

この一言により、俺のライフはゼロになった。

〇〇ピーの中に何が入ったかは察してくれぇ…。


「鳩ぉ~助けてくれよ~。頼むよ~。」

「どうしたんだよ急に。」

俺は先ほどの出来事を鳩に伝えた。

「そんなこと私に相談されてもね…結局自分の問題じゃないの?注意できる大人にならないと。」

「お前まで俺の敵なのかよ~。」

「味方になった覚えもねぇわ。」

「待てっておい。頼むからさぁ…」

「モシモシケイサツデスカサキホドノセクハラノケンデスガ…」

「ヒィィ…わわわ分かったよ!自分で何とかする」

全く…これじゃ暫く鳩には強がれないな…


『カチッ』

急に辺りが真っ暗になった。停電か?

「停電か?」

「秋、外見てごらん。」

俺は外の景色を見てみた。いつもと変わらない夜景だ。電気も…しっかりついてる。

「うちの建物だけみたいだな。」

「子供たちはもう消灯時刻過ぎてた思うから怖がってないと思うけど。」

そう言うと鳩は少し考えた後、

「秋、外見てきて。」

と言った。この展開で外へ行けというのは何を考えてるんだ?

「はぁ?なんで外…。」

「いいからはやく。」

いつもは急に蹴飛ばしたり罵倒したりする鳩だったが、今回はいつもとは違う真剣な目をしていた。確かに意図は読めなかったが、本能的に従うべきだと感じた。


外にでて、俺は真っ先に驚いた。

園の前には銃を構えた少女が一人立っていたのだ。

「あの、夜分に何をしているのでしょうか?」

話しかけた次の瞬間、銃の先は俺に向かった。

「ぇ…。」

「動くな。」

は?なぜ出会って数秒の少女に銃を向けられるのだろうか。また俺の武勇伝が1つ増えてしまった。

…分かることは2つ。こいつを園にいれてはいけないことと、この状況から抜け出さなければいけないということだ。

しかし、こんな大事な時でさえ、俺は女子相手だと体が硬直してしまう。

「ここに鳩という者はいるか?」

その少女が言った。

――ああ、理由はなにか分からないが鳩の命を狙っていることだけは分かった。

思えばいつも鳩には助けられてばかりだったな。それなのに俺は鳩に情けない姿ばっかり見せてしまっていた。…フフッ…。

なんだか悩むのもバカバカしいな。ここで一気に決めてしまおうか。

「ああ。鳩はここにいるよ。でも君みたいなやつに鳩は渡せないんでね。代わりに俺をその銃で撃ち抜けばいいさ。さぁ、やってくれ。」

俺は少女の前に立ち塞がった。

少女は少し考えた後、

「今回はお前の命だけで済ませてやろう。」

と言った。

「おうおうそれは有難いことで。」

「覚悟は出来たか?」

「あぁ。こんな可愛い子にやられるなんて光栄だ。君の好きなタイミングで撃ってくれ。」

俺は目を瞑り、歯を食いしばった。

…ところが数十秒経っても銃弾は俺を貫かない。疑問に思った俺は目を開けた。するとそこには、銃を構えたまま顔を真っ赤にする少女の姿があった。

「えぇ…?」

俺は困惑した。一方の少女は俺が声をあげたことによってハッと我に返ったようだった。

少女は頬を赤らめながら強がり、

「今回は大目に見てやるわ…任務失敗…。」

というとどこかへ消えてしまった。


これは…俺が、勝ったんだよな。幼稚園を、鳩を、俺が守ったんだ!帰ったらあいつに言うこと聞かせてやる。ハハハハ…。


なぜ内気でコミュ障の俺があの場面であんなことを言えたのか。それは自分でも分からないのだった。



続く

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