第63話 どうしたものか

 篝との婚約の話が本人との間でに落ち着き、舞花は彼と共に帰る必要性を失った。

 あの後1度教室に戻ったところ、すでに生徒はほとんどいなく、舞花の荷物だけ取って、今は彼女と一緒に是清は下校していた。


(うむ……)


 そして頭を悩ませていた。

 無理もない。

 先ほどの会話が脳裏をよぎる。


(来るなら俺の家、ね……)


 当然だが是清は女子の家に行ったこと(舞花という美少女は除く)はもちろん、家に家族以外の女子を入れたこと(柚莉愛という美少女は除く)もない。……気になるところがあるのは気のせいだ。

 そんな是清がいきなり舞花を引き取る。

 どうにも考えづらい。

 舞花を姫路家に置いたままにできないのは事実だが、問題はその後。

 面倒を見てくれそうな人物は何人か挙げたが、全て難しいときた。

 それ以前に、是清の家がいいというのは舞花たっての希望なのだ。


「なあ姫路」


 とりあえず黙っていても仕方なかったので、横を歩く少女に声をかけた。


「なんでしょうか?」

「さ、さっきの話なんだけど」

「! そ、それがどうかしましたか?」


 分かりやすく動揺する舞花。

 さっきの会話で彼女にも思うところがあったのだろう。


「結構今後に関わる大事なことだから聞いておきたいんだけど、なんで俺の家がいいんだ?」

「それは……」

「それは?」

「わ、私がそうしたかった、から……」

「っ!」


 是清は頬を赤らめる。


(なんだこれ。普通に恥ずかしいぞ……)


 そうしたい。そういう個人的な感情というものは論理とは違う。立派な理由の1つだ。

 そもそも舞花が「そうしたくない」ということで篝の婚約を嫌がっていたのだ。

 是清が何も言わずにいると、舞花がさらに付け加えるように口を開いた。


「そ、それにですよ。私がここまで来れたのは高坂さんの力あってのことじゃないですか。だったら最後まで面倒を見てもらっても、い、いいんじゃないかと……」


 舞花が指をもじもじさせながら躊躇ためらいがちに言う。仕草が妙に様になっていた。


「最後まで、か……」


 そっと呟く是清。

 舞花からこの手の言葉が聞けるとは、珍しいこともあったものだ。

 仮に今彼女が対面しているのが、天野晴香や富士宮琴音だったら、どうなっていただろうか。

 自分の面倒を見て最後まで責任を取れ、と舞花が自分を第1に考えた、そんな発言をしただろうか。

 おそらく答えは否だ。

 相手が是清だからこう言えたのだ。

 舞花の方にチラッと視線を向ける。

 目が合った。

 慌てて視線を逸らしそうになるが、ここでそんなことはしなかった。

 これはしっかりと向き合わなければならない問題だからだ。


「姫路」


 声をかけて、1度歩みを止める。舞花もまた同じように足を止めた。


「は、はい」

「まず最初に言っておくぞ。俺は場の空気に左右されない人間だ」


 言葉に不安を感じ取ったのか、舞花が表情を変える。

 しかしこれはただの建前。

 是清は続ける。


「その上で、だ!」


 語気を強める。

 もう逃げられない。

 是清は1度息を吐き、呼吸を整えてから聞いた。


「──俺の家に来るか?」


 舞花は大きく目を見開いた。

 それから、


「はい! よろしくお願いします!」


 嬉しそうにそう答えた。

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