第43話 再び
圭成にアドバイスをもらって1週間。状況にまだ変化はない。朝学校に着けば、例の彼女を横目でチラッと捉え、昼休みになれば彼女を待つ。今はそんな日が続いている状態だ。
今日も朝からそれは変わらなかった。
教室に着くと、クラスメイトの姫路舞花に目を向け、すぐに視線を逸らして自分の席へ。
何をするでもなく、だらけた姿勢で時が経つのを待つ。
そのうちにチャイムが鳴ると、姿勢を正し、なるべく目立たぬようにそっとホームルームをやり過ごす。
それが終わると次は授業だ。
是清は赤点回避ができればよしとするタイプの人間なので、そこまで集中はしない。
たまにクラスでも陽気な類の生徒が授業中にふざけた発言などをして笑いを取っていたが、今の是清には全く笑えなかった。
半ば放心状態のまま午前中の授業が終わり、やって来たのは昼休み。
購買で買った昼食とほとんど自分のために持ってきているような漫画本を持っていつもの場所へ。
(まあ、多分今日も来ないよな……)
半ば諦めた状態で是清は腰を下す。
「いただきます」
そのまま昼食を口に運ぶ。
舞花がこの学校に来る前からずっとこうしているのに、今はどこか虚しさのようなものが残る。
(姫路と食べた焼き鳥は特別美味かったんだけどな……)
他人と共に食べたからはその理由になり得ない。是清は毎日家族と一緒にご飯を食べている。
純粋に是清が幸せだったのだろうか。
疑問が浮かんだところで、1人で解決はできない。
そうそうに考えるのは諦めた。
「ごちそうさま」
しばらくして昼食を終えると、選択肢は2つ残った。
寝るか漫画を読むかだ。戻るという選択肢はない。
結局是清は後者を選んだ。
パラパラと流すようにページをめくる。
是清の持つ漫画のうちの1つで、持ってきたのはその第1巻。
漫画はストーリーも楽しんでこそだ。
中途半端な巻を持ってきたら、その楽しみが半減くらいにはなりそうなものだ。
そのため是清が持ってくる漫画は基本的に第1巻。
もう何度も読み返したせいで、内容はほとんど頭に入っているが、暇つぶしにはなる。
(つまらないのに変わりはないけどな……)
これなら舞花と一緒にいる方が何倍も楽しい。
普通の人がするようなことでも、彼女がするとそれは全て新鮮で、彼女なら漫画1つにも大いに感激するだろう。
そんなちょっとおかしいが、それでも普通な日常というものを是清はいつしか望んでいた。
そのためには舞花にもう1度会うべきなのだ。
思案を巡らせるが、所詮陰キャは陰キャ。できることは限られている。
やっぱり是清はただ待つことしかできない。
いつしか考えるのにも疲れた。手に持つ漫画も読んでいたところで退屈が消え去るわけじゃない。
(今日も来ないな。寝るか……)
漫画を無雑作に横に投げ、腕を枕にして横になる。
今日は天候も気温も最高だ。
「ふあ〜」
大きな欠伸が1つ出る。
こんな中で眠るのも気持ちが良い。そう思った是清はゆっくりと目蓋を閉じ……
「──高坂さんッ!!」
……続く一瞬で飛び起きた。
透き通る綺麗な声。その高さから女子生徒が発したものだと分かる。
嫌な話だが、是清は女子に呼ばれる機会そのものが少ない。
でもそれが幸いした。
彼女が誰なのか、すぐに分かったから。
加えて今の状況。以前にも似たような状況があった。デジャヴというやつだろうか。
そんなことは今はどうでもいい。
彼女が膝に手を置いて、肩で息をしている。
それでもなんとか言葉を絞り出した。
「遅く……なりました…………!」
是清は自然と口端を軽く吊り上げていた。
「待ちくたびれたぞ、姫路……」
ついに姫路舞花と再開した。
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