第36話 それなりのピンチ
あれからどうでもいい談笑に花を咲かせていると、ちょうどいい時間になっていた。
時刻は6時を過ぎたところ。
帰り道を考慮すると、この辺で切り上げるのが無難だろう。
「姫路。そろそろ時間だ」
「もうですか。早いものですね」
残念そうにする舞花。
時間が経つのが早かったということは楽しめていたのだろう。
ベンチから立ち上がり、身体を伸ばす。
舞花も身体が凝ったのか、似たような行動に出る。
「……さて、帰り道は分かりますか?」
「ああ。なんとかな。最悪、通学路に行ければ、屋敷には着けるだろ」
「はい」
出るなら早い方がいい。
是清は貰い物の焼き鳥を片手に、舞花と共にそこをあとにした。
それから15分。
6時を過ぎていることもあり、辺りは暗かった。
そのせいかは分からない。
だが1つだけたしかなことがある。
「高坂さん。きっとこっちですよ」
「ちょっと待て。それでさっきは失敗しただろ」
「それもそうですね。じゃああっち……でしょうか?」
「なんで疑問形なんだよ」
是清は額に手を置く。
2人は迷子になっていた。それ以上に適切な言葉がないくらいの迷子だ。
どこで間違えたのか、今となっては知る由もない。
そんなことよりも、今は急いで帰り道を見つけることが大切だ。
元々展望台の場所については是清は知っていた。
落ち着けば必ず帰り道は分かるはずだ。
ちなみに携帯は充電が切れているので、使えない。
携帯なんて時間の確認と本当にたまに家族と連絡を取るくらいにしか使わないので、完全に油断していた是清のミスだ。
それにもし仮に携帯の充電があったとして、是清にマップ機能やらを使いこなせるとは限らない。今まで1度も地図関係で携帯を使ったことはないのだ。
「いったん落ち着こう。急がないとなのは分かるが、まだそこまで焦る時じゃない」
「そうですね。まずは深呼吸です」
すると我先にと言わんばかりに舞花が深呼吸した。
「ヒッヒッフー」
よく漫画とかで見るあれだ。
わざとやっているようにしか見えない。
「ラマーズ法か。よくそんなこと知っているな………………じゃねぇよ!」
見事なノリツッコミだった。
自分でもよくラマーズ法なんて言葉知っていたな、と感心する。
「天野さんに教えてもらいまして」
聞いてもないのに、答える舞花。
(あいつかよ。余計なことしか教えないな)
是清は肩を落とす。
しかし今はそんなことをしている暇はない。
気持ちを切り替え、帰り道を見つけるため頭を回す。
「誰かに駅の場所でも聞ければ手っ取り早いんだけどな……」
「誰もいませんけどね。なんでこんな時に限って……」
ここは決して人が少ない場所ではない。
なのに今に限って人影が見当たらないのはどうしてなのか? という疑問を頭の片隅に追いやり、解決策を見つけようとする。
だが是清は考えれば考えるほど泥沼にハマっていってる気がした。
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