これは青春じゃない

Ley

第1話

 世の中じゃ高校時代は青春であって、17歳は華のセブンティーンらしくて、如何にもそう過ごさなくてはならないかのように皆画期的に動く。私はそれを彼女らと共にしてみるけどやっぱりそんな感情にはならない。実は皆、冷めきってるけど周りが楽しそうだからそれに合わせて楽しんでるだけなんじゃないかって疑ったりもする。


            *     *     *


 今年も桜は散ってしまったようだ。関東の桜なんてそんなもんだ。卒業式には間に合わず、入学式には散っている。それを見ながら毎年、散ってしまったな、なんて思うのがここ数年の流れで、自分の誕生日に思うことだ。

 今年は中学から同じ学校だった子がハンドクリームをくれた。桜の香りのやつ。それっきりだ。特に期待もしてない。仲良くしてた彼女らは、私と離れて寂しい、なんて言ってきたけどさっき新しいクラスの数人含めて仲良く下駄箱に向かうのを見た。新しいグループがもう出来ている。同じクラスではなかったけど学年でも有名な子達だ。インスタを見る限りこれからプリクラを取りにでも行くのだろう。下校中のバカ騒ぎの写真にご丁寧にハートをつけてアプリを閉じた。

 私とて友達がいないわけではない。恐らくあの写真のコメントに、『可愛いw 私も混ぜてよ』なんて言えばあとから普通に合流できたのだろうし、新しいクラスで馴染めなかった訳でもない。クラスは違えどSNS経由や、他の友人からの関係で知ってる人や仲のいい人は居る。単純に今日は欲しい本があったので一人で帰ろうと思っただけだ。スマホをカバンにしまうついでに、折角だからさっきのハンドクリームをつけてみようと思うが、ポーチを教室に忘れてきた。貴重品がはいってる訳でもないが、なんとなく貰ったばかりのものを忘れるのもあれなので引き返すことにした。

 今日はどの部活も休みのようで校舎は静かだった。時折先生方の話し声が届く程度で、なんとなく心地よさを感じる。新しいフロアで感じる新学期特有の違和感から進級したのだと再認識する。今年はお手洗いが遠いのか、不便だな。そんなことを思うのも最初のうちだけだろう。


教室のドアを開けると先客がいた。クラスを間違えたのだろうかとドア上のクラスを確認するが間違ってはいない。先客はこちらを向くと柔らかそうな笑顔を浮かべてこちらを向いた。見たことない顔。


 「何組?」

 「2組、君と同じ。今年一年よろしくね。」

 「よろしく」


 ポーチはすぐに見つかった。中にはしっかりとハンドクリームが入っている。手に付けると桜の香料特有の香りがした。今まで使ってたものをゴミ箱に捨てる。まだ結構残ってたのだが仕方がない。

 

 「捨てちゃうの?」

 「捨てないと溜まってくからね」

 

 そう。こうやってどんどん捨ててしまわないと溜まっていく一方なのだ。コウコウセイのプレゼントは文房具かメイク用品が定番。くれた人には申し訳ないがそもそも私自身そんなに乾燥する方ではないし、ハンドクリームをよく使っているのは消費するためだ。もっと仲が良ければ貰うものももっと変わってくるのかもしれないが、部活にも所属せず、中学からの友人もほとんどいない、しかもクラスは一年ごとにがらっと変わるとくればそう仲良くなる機会なんていない。

 再度スマホを見て重要な通知がないことを確認して仕舞った。帰ろうとふとアイツの方を見ると、アイツは私がちょうど教室に入った時のように、窓側の席に座って外を眺めていた。


 「なに、してんの?」

 「外みてる」

 「そうじゃなくて」

 「セイシュン、してる」

 「どういうこと?」

 「セイシュンってね……」


 アイツはそこで言葉を切った。一度視線を私から外に移してそのまま手招きした。なにか面白い物でもあるのかとアイツの視線の先を見てみるけど特に何もない。地面を疾走する小鳥がいるわけでもなければ、歌う鈴があるわけでもない。そもそも3階から見える景色なんてちょっとした木ぐらいだ。ただの教室からの景色。


 「なんにもないじゃん」

 「ほら、葉桜綺麗じゃない?」

 「満開の方が好き」


 確かに、もうこれっぽちしか花がない桜の木はあった。ただこれがセイシュンとどう結びつくのか見当がつかない。

 「セイシュンを知らないんだね」

 アイツが小馬鹿にしたように言う。こんな陰キャに何が判るもんかとムッとすると、アイツはぽつりと呟く。

 「こんなに色んなところに落ちているのに」

 そう言うとアイツは机横のカバンを取りながら、それじゃ帰りますかと立ち上がった。アイツはそのままこっちも見ずに教室を出た。

 私は座ったら何か見えるのかもしれないと思い、アイツの席に座ってみたものの、何も変わらない。本当に何を見ていたのか、まったく謎なやつだ。まあこれから別に深く関わるわけでもあるまいし、とスマホを取り出し適当に開く。プリクラを無事に撮り終えたようでインスタには大層盛れた画像が上がっていた。個人的に加工がない彼女らの顔の方が好きなのだが、ジョシコウコウセイという生き物にそれを言ったところでだ。そしてグループの一人からラインが届いているのを確認する。あの後、カラオケに行ったらしい。一緒に来ないかという誘いだった。行く、とスタンプを送り席を立つ。

 アイツとは違って友達もいるし、ちゃんとセイシュンしているんだ。私は自分に言い聞かせ教室を出た。

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