71.あまいあやかし その4
《View ; Syuko》
南大川から帰宅しましたが――引き続き、色々と調べ物をしています。
寄誓家ですが、目立った活躍は少ない者の、優秀な人材を輩出する家系として一部では有名なようです。
特定のジャンルに特化した天才よりも、色んな範囲でマルチに活躍できる秀才が多いのも、目立たない理由かもしれません。
小依子さんも同様のようですね。
普段はアパレルショップで働いていますが、休日にはその才能を利用してピアノ演奏や、お絵かき配信のような動画を公開しているようです。
また上手く顔を隠した裏アカウントも持っているようですね。
かなり大胆に胸やお尻をはだけさせているのですが、その画像もまた加工というか視線誘導が巧みな感じです。
ただ本物ではないからか、あるいはあの場にいた
こちらは画像は基本
ちなみにWarblerとは鳥のさえずり。登録者が好き勝手に百四十文字でさえずるSNSです。
小依子さん自身は、裏アカウントに目を瞑るにしても、表アカウントだって結構ヘビーなワーブランのようです。
だからこそ、さえずる内容は弁えているのが伺えます。動画配信をやっている
ただ問題は――最近もふつうに配信しているし、さえずりもしているのですよね。
ちょうど私たちが顔を合わせた時間なんて、ピアノ演奏の生配信してますよ。
ほかの録画動画と見比べてみても、これが本人であることは間違いなさそうで……。
やっぱり、果府で会ったのは別人なんでしょうか?
私が首を傾げていると、ノックとともに女性の声が聞こえてきました。
「お嬢様、頼まれていた資料お持ちしました」
「ありがとう
私の自室へとやってきた紫江さんは、古い日記帳のようなモノをいっぱい持ってきています。
「それ、全部資料なんですか?」
「はい。意外と十柄家との関わりが深いようです。
大旦那さまからも、可能なら上手いコト解決してやって欲しいと言伝を預かりました」
「お爺さまも気にかけるほどなのですか」
これは、想定よりも責任重大そうですね。
「あ。そうだ紫江さん。お時間あります?」
「え? はい。どうかされました?」
「資料を見るのも良いのですけど、ある程度調べてくれた紫江さんからも、少しお話を聞きたいので」
「わかりました。どうぞ、聞いてください」
そうして私は紫江さんに色々聞きながら、情報を纏めていきました。
ただ、どうしても解決しない疑問などもあるんですよね。
こうなるともう調べるよりも、詳しい人に直接聞いた方が良い気がしてきます。
槍居先輩に電話して、詳しい人を教えて貰った方がいいかもしれません。
うちにこれだけ資料が残っているのですから、槍居先輩が何も知らなくても、槍居家にも色々残っているとは思いますので。
その思いつきのまま先輩に電話したところ、先輩のお婆様とお話する機会を得た結果――
とっとと、ケリを付けに行った方が良いと結論づけ、車を回すこととなるのでした。
そうして槍居先輩たちを拾った車の中――
「アマヤカシはね。人の生活するチカラを食べるの。
今の言葉で言うなら――そうね。それこそ、生活力とでも言うのかしら?」
小さめのリムジンの後部座席で、槍居先輩のお婆様――
ちなみにこのリムジン。
個人的には、ワゴンやワンボックスで良いと言ったはずなのに、何故か和泉山さんがこれを出してきました。
密談に近いことをするなら、こっちの方が良いとかなんとか。
ともあれ、依乃さんのお話です。
「人の人生に寄生し、甘やかして生活力を食らうアマヤカシだけれども――彼女たちも生き物なの。
人間の形をした、人間の姿の、人間と同じような思考をする……人間とは異なるけど、人間としても生活できる。そういう生き物」
その言い回しで、私は納得しました。
「だからこそ、変わり者やはぐれ者が生まれるコトもある。それが、槍居家と寄誓家の興りですね?」
「ええ。さすがは十柄のお嬢様ですね」
「全く持ってわかんない……」
一方で、槍居先輩はちょっとふてくされたようにほっぺたを膨らませています。
お婆様の前だからか、ちょっと子供っぽくなっているようです。
「アマヤカシは、取り憑いた人をダメにする妖怪ですが……でも、取り憑いた人に恋してしまったアマヤカシもいるというお話ですよ」
「え? うちのご先祖様に妖怪がいるってコト?」
「はい。そして、その交わりこそがドッペルゲンガーの正体です」
「十柄のお嬢様の言うとおりよ。
妖術師、
うちの一族というのは、先天性の超能力者みたいなものなのよ」
依乃さんの言葉に、ちょっと槍居先輩の目が輝きます。
実はそういうのがお好きなのかもしれません。
「今なら
「また新しい呼び方が増えたのですね」
さておき――大事なのは槍居一族は、謂わば先天性の開拓能力者ということです。
もちろん、能力が使えるかどうかは個人差があるでしょうし、それを制御できるかどうかも個人差なのでしょう。
「でもアマヤカシとドッペルゲンガーにどういう繋がりがあるの?」
「難しい話ではないわ。
槍居家におけるドッペルゲンガーというのは、アマヤカシとして生まれた場合の自分を生み出す能力だもの」
「つまり、私のドッペルゲンガーって私が知らないうちに私が作り出した存在ってコト?」
「そうなるわね」
依乃さんに首肯され、槍居先輩はちょっと微妙な顔をしました。
格好良く能力を使いこなす自分とか想像してたんでしょうか……?
「それでも、槍居家のアマヤカシは……人間を愛し子供を授かった変わり者を基準とした人格を有しているはずです。
問題は寄誓家ですね。分家だったのに槍居から独立したのは……寄誓家に生まれるアマヤカシは……本来のアマヤカシに近い人格を有しているから、ではないですか?」
「よもや、そこまで把握されているとは思いませんでした」
驚きながらその通りだとうなずく依乃さん。
把握というよりも推察の結果ですが、まぁどちらでも問題ないですね。
衣乃さんが肯定してくれたので、それなら――と、私は訊ねます。
「寄誓家の女性の多くが、マルチな才能を有する秀才が多い理由は何かありますか?」
「槍居と寄誓……それぞれアマヤカシを祖としますが、子孫に受け継がれた能力は微妙に差異があるのです。
槍居のドッペルゲンガーは、より人間社会に溶け込むコトに特化しました。その結果、言うならば『模倣』の能力を得ています。
どういった形で何を模倣するかは、ドッペルゲンガー次第なのですが」
依乃さんはそこで一度言葉を区切ってから、寄誓家について口にしました。
「寄誓家は……より、奪うコトに特化しているようなのです」
「生活力をもっと奪うってコト?」
「違うわよ、依愛ちゃん。それ以外のモノも奪えるの」
奪う能力と秀才が多いこと。
そこから導き出されるのことは――
「生活力と一緒に、その人の培ってきた経験を奪い取れるのでしょう」
「ごめん、十柄さん。もうちょっと分かりやすく」
私の答えに、先輩がすぐさまツッコむように言ってきます。
私はやや考えてから、答えました。
「ゲームで例えるなら経験値……いえ、もっと小さいところで、スキルを奪うというところでしょうか。
剣術とか魔術とか鍵開けとか、そういう能力を奪うんです。そして奪ったそのスキルは完全ではないにしろ、ドッペルゲンガーと本体に反映されます。
だからこそ、寄誓家は多方面にマルチな才能を発揮する人材が多い」
「それって……もしかしなくても――今の例えを使うなら――奪った剣術や魔術の才能を使って、実は剣も使えますとか、魔術の才能もありますとか言って仕事してるってコト?」
「そういうコトだと思います」
もともと生活力という形でまとめて奪っていたものを細分化し、栄養以外に使えそうなものを取り込むという形で進化したのでしょう。
そりゃあ槍居家と袂を分かつはずです。
人間社会に溶け込もうとする槍居と、人間を自分の才能を伸ばす便利な餌としか思っていない寄誓とでは、意見が合うはずもありません。
「まるでサキュバスじゃん」
「大筋間違ってませんね。現代のサキュバスと呼んでも差し支えはないでしょう。
そしてタチが悪いコトに……本体にアリバイがあるんですよね。スキルの略奪を行っているのはあくまでもドッペルゲンガーですから。
だから本体がそれに気づいているかどうかは分からないのが問題と言いますか……」
「それに関しては心配いりません」
私と先輩のやりとりを黙って聞いていた依乃さんが、補足するように入ってきます。
「槍居と違い、寄誓は自分のドッペルゲンガーについて把握している者がほとんどのはずです。
ドッペルゲンガーが奪った能力を本体が利用するには……本体とドッペルゲンガーがお互いに面識を持ってないといけなかったハズです」
つまり、寄誓 小依子は自覚的に人の生活力を奪っているということですか。
最終的に人が死ぬかもしれないことをしておいて、自分は平然と生活しているというのは、いささか看過できませんね。
やはり、早急に対処するべきなのでしょう。
「槍居先輩のドッペルゲンガーとは、どうにか協力を取り付けたいところですが……。
それ以上の問題として、寄誓さんの本体の対処ですね。
ドッペルゲンガーが先天性の開拓能力というのであれば、ドッペルゲンガーだけでなく本体にも何らかの対処が必要になるのですけど……。
何か良い手はありますか?」
私が槍居先輩と依乃さんに訊ねましたが、二人は首を横に振ります。
まぁ対能力者戦闘なんてそうそう経験できるものではないですしね。
さてどうしたものかと考えていると、運転席の和泉山さんが声をかけてきます。
「それに関しては良い方法があります」
「本当ですか?」
「アマヤカシにドッペルゲンガー。こんな良い釣り餌はありませんよ」
瞬間、私は和泉山さんが何をするかを理解しました。
「あくまで資料は成功報酬です。そこは徹底して交渉してください」
「もちろんです」
「あの人が協力してくれえるなら、本体の方はそこまで驚異はなさそうですね」
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草薙先生、フィッシュ・オン!
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