65.上映中はお静かに - サイレント・ライブ - その2

 エピソード的にあんまり間をあけるのもなんなので、

 今日はコレともう1話、お昼頃に公開予定です


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《View ; Syuko》



 レトロな雰囲気の売店が並ぶ区画を抜けると、左右に雑木林が広がる道へに入りました。

 道は整備されている感じですが、左右は鬱蒼としている感じで少々不気味ですね。


 ふつうに見る分には問題ないのでしょうけれど、霊園の中というシチュエーションがそう見せるのでしょうか?


 雲も分厚くなり、薄暗くなってきた上に霧がかってきたので、余計にそう感じるのかもしれません。


「お? 映画館ってこれか?」


 雑木林を抜けた先――というワケではなく、雑木林の中に作られた道の途中にありました。


「こりゃあ、風情があるな」

「風情というか、やってるのか……これは」

「まさか霊園の敷地内にあるとは思いませんでした」


 確かにこんな場所にあると、知ってる人は少ないかもしれませんね。


 そしてこの映画館――非常に風情があります。

 まさにおんぼろ映画館という感じです。


 見た目が綺麗ならば、昭和レトロとでも呼べる風情なんでしょうけれど……。

 どうにも手入れがされていない感じがして、どちらかというとお化け屋敷なのでは? と思うほど。


 ただ、チラホラと入っていく人はいるので、やってないワケはないのでしょう。


 とはいえ、死者も利用する映画館という噂話が立ってしまうのも、理解できてしまう風情ではあります。


「さて、何がやっているのかな……っと」


 物怖じせずに入っていく草薙先生を追いかけて私と和泉山さんも映画館に入っていきました。


 どこか埃っぽい空気。

 掃除がされてないワケではなさそうなのに、まるで廃墟にでもいるような気分。


 中の雰囲気も外観と大きく差異はありません。

 自動のチケット販売機などはなく、入ってすぐのところに小さなカウンターがあるだけです。


 カウンターに人がいるようですが、影になっていてよく分かりません。

 声の感じとしては、年配の女性っぽい気もしますが……。


「……いらっしゃいませ……」

「ここ初めてて、システムがよく分かんないんだけど教えて貰えません?」


 うーん……。

 カウンターの方、声がくぐもってる気が……。


 いえ。いけませんね。

 雰囲気に飲まれてしまっているのか、無駄に怖い方向に物事を受け止めてしまっているようです。


「ここで入場券買って中に入って、自分が見たいのが上映している部屋を選んで入るんですね。了解です。

 じゃあ、大人三人分で。九百円でいいの? 安いですね」


 私と和泉山さんが恐る恐る歩くなか、草薙先生はとっととカウンターでチケットを買っていました。

 その物怖じの無さ、ある意味すごいです。


「ん? 冥銭メイセン六文銭ロクモンセンでも支払えるの?

 さすが墓地にあるだけのコトありますね。でも、ふつうの現金でお願いします」


 いや、さすがにそれで払う人はいないのでは?

 聞こえてくるやりとりに思わず胸中でツッコミを入れます。


「お嬢様」

「はい?」

「あの、無知で申し訳ないのですが……冥銭や六文銭というのは何なのでしょう?」


 そうか。人によっては聞きなじみのない人もいるのですね。


「言ってしまえば、故人と一緒に埋葬するお金ですよ。

 日本以外でも、そういう風習のある国は少なからずあるそうです」

「なぜわざわざお金を?」

「日本において死者は、三途の川を渡ると言われておりまして――その川の渡り賃が六文だと言われてるんです。

 そして故人が三途の川にお金を持っていけるように、一緒に埋葬するんです」


 ほかにも古代ギリシャのアケローン川の渡し守カロンなど類似の話はありますね。


「そうでなくても、死後の世界でお金に困らないようとに、供養の際に一緒に燃やしたりする風習は結構あちこちに存在するようですよ」

「硬貨などは燃えないのではありませんか?」

「そうですね。加えて、今の日本では故意に貨幣を破損させるのは犯罪にあたります。

 なので、現在では木製や紙製のお金を模したモノを一緒に燃やすようになってるんですよ」

「なるほど」


 和泉山さんは一つうなずいてから、続けて小首を傾げました。


「そんなもので支払っても良いというのも不思議な話ですね」

「噂に便乗したそれっぽいジョークなのかもしれませんね」


 さすがに本気なワケではないと思いますが――


「二人で何を話してたんだ?」

「和泉山さんがあまり冥銭に詳しくないというコトだったので、少し解説を」

「ああ。最近は全くやらないところもあるみたいだし。知らない人も結構いるって聞くしね」


 私の答えに草薙先生はそう笑って、こちらへチケットを二枚差し出してきました。


「ほい、二人の分。

 あたしが付き合わせてるからさ、支払いは持つよ」

「ありがとうございます」

「そうか。なら遠慮なく」


 私たちがチケットを受け取ると、草薙先生は何がやってるのかな~♪ と鼻歌交じりで進んでいきます。


 奥へ進むと、小さめの上映室が四部屋ありました。


 やっている映画は――

 白黒の西部劇。

 古い恋愛モノの名作洋画。

 平成初期のマンガまつり。

 五年ほど前の大ヒットアニメ映画。


「二人は希望ある?」

「白瀬が選んでいいぞ」

「私たちはあくまで先生の取材に付き合ってるだけですから」

「そう?」


 そんなワケで先生が選んだのは五年前のアニメです。


「実はこれ、観よう観ようと思ってて見そびれててさ」


 三百円で劇場鑑賞できるなら安いモンだ――と言って、劇場の奥に入っていきます。


 劇場も劇場で何とも古風な感じです。

 座席の数は三十席くらいでしょうか。

 椅子は何とも堅そうで、肘掛けにドリンクホルダーとかはありません。


 4DXやMX4Dなんてシステムもないのに、音によって椅子が揺れたり、天井から埃が落ちてきたりしそうな古風さというべきか……。


「自由席らしいから、真ん中でいいか」

「ちょうど空いてますしね」


 席は疎らに埋まってますけど、不思議と中央付近は空いています。

 特に私たちも異論はないので席に着きました。


 ただ和泉山さんは、やっぱりどこか落ち着かない様子。

 常に冷静な人なだけに、珍しいですね。


 数分ほどの待ち時間。

 そのあと、背面の扉が閉まり、ジリリリリリというベルが鳴り響きます。


 モニターを隠していたカーテンが開き、映像が流れ始めます。


『映画鑑賞の注意事項』


 お約束のやつですね。


『映画中のおしゃべりは禁止です』


 愛らしい幽霊のマスコットのようなものが出てくると、指先を口元に当ててシーっとやります。

 この映画館のマスコットでしょうか?

 グッズがあればちょっと欲しい感じの可愛らしいデザインです。


『前の席を蹴ったりしない』


 ゾンビ風のマスコットが前の席をゲシゲシ蹴って、前の席に座っていたスケルトンが怒る映像が流れます。


『上映中は明かりを付けないように』


 幽霊のマスコットが自分の周囲に浮かぶ鬼火を指さされて、慌てて息を吹きかけて消しています。


 よくある注意動画ですけど、出てくるお化けや人魂などのアニメ絵が可愛くてちょっと楽しいのは良いですね。

 これに限らず退屈させない注意動画を考え出した人、天才だと思います。


『最後の注意だよ☆』


 今までの注意動画に出てきたマスコットたちが勢ぞろい。

 そして最初の幽霊が代表するように、その注意を口にしました。


『上映中、生きていることは禁止です』


 ……え?


『心臓の鼓動の音は、上映中は大変なノイズになります。

 携帯電話の電源を切るのと同じように、止めておきましょう』


 瞬間、劇場内の温度が急激に下がりました。

 音もなく、気配もなく、だけど何かが私たちに一斉に注目しているような空気。


 その謎の注意と、不気味な空気に、私たち三人が顔を見合わせた直後――


「お前らのコトだぞ!!

 とっとと、心臓を止めろッ!!」


 場内に疎らに入っていたお客さんの一人が立ち上がり私たちを指します。その声は男性の声ながら、どこかゴポゴポとくぐもっているようで……。

 

 そしてその男性の声を受けて、ほかのお客さんたちも一斉に私たちの方を見ました。


 そこで、私たちはようやく、周囲のお客さんの姿に気づきます。

 映画のスクリーンの明かりに照らされた彼らの姿は――


「こッ、この人たちは――……ッ!」


 明らかに死んでいるような土色の顔をした人。

 身体が腐っているゾンビのような人。


「白瀬ッ! ここはッ、この映画館は……ッ! 死者が見に来る映画館なんかじゃあない……ッ!」


 それこそスケルトンのような骨だけの人。

 身体が透けて半透明な人。


「そういうコトかよ……! ここは……ッ、この映画館は――ッ!!」


 ここは、死者の為の映画館……ッ!


「早く心臓の鼓動を止めろって言ってんだろォォォォ――……!!」



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【--DELETED--】

 禁則事項に抵触していた為、

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