57.その紳士たちの姿を暴け その3


【View ; Syuko】


 思い付いたアイデアを秘密にしておきたがる花道さんから、その内容を無理矢理吐かせたところ、そのネタは悪くはないものでした。


 そこで私たちは、次の日曜日に決行ということにして、解散。


 その際に、花道さんは細かいところは任せて欲しいと自信満々に言いました。それに対して本当に任せて良いのか、みんなで色々悩んだ結果、大丈夫だろうと判断。任せることにしたのです。


 不安がないかと言われると、まぁゼロとは言いません。


 ともあれ、予定の日曜日となりました。

 十三時くらいに濡那原神社に来てくれと花道さんに言われたので、私たちは集まっています。


 そして、今回の作戦を実行するにあたり、倉宮先輩と陽太郎君、そして花道さんには、モノさんを紹介するすることとしました。


「おじさんの認知度上がりすぎるのも困るんじゃがネ」


 庵颯軒あんさつけんのチーズカレーまんを大量に抱えながら、嬉しそうな顔でそんなことを言っても、説得力がありません。


 さすがは庵颯軒あんさつけんのチーズカレーまんで懐柔できるチョロ神様。


「しかし、容疑者まとめてこの神社に呼び出すと言っていたが、可能なのか?」


 陽太郎君も不安がるのはわかります。


「もー! 新堂パイセンは疑い深すぎるって~!」


 でも、花道さんの人当たりの良さというかコミュニケーション能力の高さみたいなものは、信用できると思います。


 なんてやりとりをしていると、モノさんが何かに気づきました。


「ふむ……来おったぞ。

 主らは隠れているんじゃろう?」


 それにうなずくと、私たちは境内の裏手へと隠れます。

 ついでに、モノさんもチーズカレーまん諸共姿を消しました。




 私たちは影からこっそりと様子を伺います。


 ガタイの良い寺の坊主こと梅塔バイトウ 雨史アメフミ先輩。

 そして美少女好きを公言するヅカ系美人の安芸津アキツ 柚梨ユリ先輩。


 何故か二人が一緒に境内の前までやってきました。


「……つまり、梅塔くんも花道さんに呼び出された、と」

「あんな可愛い子から先輩にどうしても言いたいコトがある――って、上目使いで誘われたら断れなくて……」

「まぁ、分かるわ……」


 そんなやりとりを聞きながら、私たちは一緒にいる花道さんへと視線を向けます。

 すると彼女はテヘペロっとやりながら、白状しました。


「ちなみに安芸津パイセンには、『先輩、えっちな罵倒、好きなんですよね?』って最後に耳打ちしてきました!」


 たぶん、それぞれの人たちのツボに刺さるような仕草で誘ってきたのでしょう。

 とんでもない魔性の女ムーブしてません??


 自覚があるかどうかはわかりませんが。

 ともあれ、やってきた先輩たちの様子を見ていると、さして間をおかず二人組がやってきます。


 その片方がバスケ部の富蔵フグラ 露定ロテイ先輩。

 もう一人が、先日富蔵先輩のところへやってきた三年生ですね。

 あの感じからして二人は仲が良いのでしょう。


 余分な方はいますが、これで容疑者三人が揃いました。


 私の目配せに陽太郎君はうなずくと、四人に気づかれないよう、参道の脇で雑木林のようになっているところを抜けて、神社の入り口の方へと移動していきます。


「あれ、梅塔と安芸津じゃん? 何やってんのー?」


 動き出した陽太郎君には気づかないまま、富蔵先輩は先に来ていた二人に声を掛けました。


「もしかしてお前も呼び出された口か? 一年の可愛い子」

「お前もって、お前らも?」

「そうよ。どうなってんのよ……何かのイタズラ?」


 三人で首を傾げている横で、メガネの先輩が青ざめていきます。


「なぁ、呼び出されたって、なんて名前の子にだ?」

「あれ? イっくんには言ってなかったっけ?

 花道だよ、花道。一年の花道ハナミチ 華燐カリンちゃんだったかな?」


 富蔵先輩が名前を口にした瞬間、メガネの先輩は叫びました。


「クソッタレ! 完全に罠だぞこれッ! 露っち!!」

「罠? 何言ってんの?」

「分からないなら勝手にしろッ、オレは逃げるぞッ!」


 顔を真っ青にして踵を返そうとするメガネの先輩。

 しかし、それを遮る声がありました。


「そうは問屋は下ろさねぇぜ!」


 いつの間にやら境内の屋根に登っていた花道さんです。

 いやほんと、いつの間に登ってたんです?


 屋根の上で腕を組んで仁王立ち。

 ……角度的に、皆さんにスカートの中、丸見えっぽいんですけど、いいんですか?


「花道ッ、燐華ッ!」

「いえす! あいあむ、華燐ッ!!」


 ノリノリですねぇ……。


「とうっ!」


 そして屋根の上からヒーロージャンプ! からのヒーロー着地! 見事に決まりました。


「花道さん、見えちゃってたわよ」

「魅せパンなので問題なし」

「そう。ならいいわ」


 いいんでしょうか?

 そこはもう少しツッコミをがんばるべきでは安芸津先輩。


「そこのメガネのパイセンッ! あたしと十柄さんの秘密の組んず解れつなを覗き見てたのはあなただな!?」


 ビシっと指を付けて格好良く告げますけど、もうちょっとこう言い方とか考えて欲しいといいますか……。

 安芸津先輩も「まぁ!」とか顔を輝かせて食いつかないでください。


「言い方ッ! 格闘技の組み手だろあれッ!」

「やっぱ見てたんじゃん!」

「しまった! 思わず!」


 なんでしょう。すごいグダってきた気がします。


「ラクガキ魔を捕まえるために容疑者集めて一人一人殴って吐かせようと思ってたけど、先に透明人間が尻尾みせるとか、これは幸先ラッキーじゃん!」

「え? 殴る?」

「容疑者全員?」

「オレ殴られるのッ!?」


 出て行くタイミングを逸してしまったんでどうしようかと思いましたが――何か、このまま見てても良い気がしてきました。


 判断が付かず、思わず一緒にいる雨羽先輩や倉宮先輩に視線を向けると、二人も困ったような顔で見守っています。

 ……うん。私も困った顔をしたまま見守ることにします。


「っていうか富蔵……お前、今……」

「へぇ……アンタが例のラクガキ魔か」


 勢いで白状した富蔵先輩に、梅塔先輩が戸惑ったようなことを口にし、安芸津先輩が殺気を漲らせ始めました。


 美少女が好きと公言していてもそこは女性なのでしょう。

 ラクガキ騒動を聞き及び、犯人へ腹を立てていた一人なのかもしれませんね。


「ほうほう。ここの神主さんにトリック明かして貰う前に自白とは殊勝な心がけッ! あたしからは鉄拳制裁だけで勘弁してやるぜー!」

あたしから・・・・・?」


 それって単に花道さんが殴りたいだけなのでは?

 意外と冷静に言葉を聞いているのか、梅塔先輩が首を傾げると、花道さんはその名前のように可憐に咲いた花のような笑顔でうなずきました。


「神とあたしが許しても、あたし以外の女の子や司法組織が許すと思うなよ? みたいな?」


 爽やかに言い切った花道さんに梅塔先輩は顔をひきつらせますが、安芸津先輩は力強く首肯します。


「そりゃそうだ。少なくとも私は許さない」


 眼光を鋭く光らせる安芸津先輩を見て、富蔵先輩とメガネの先輩は顔を見合わせました。

 それからどちらともなくうなずくと、メガネ先輩は自分の背後にタキシードにシルクハットのミイラ男を呼び出します。


「――開拓フロンティア能力ッ! 鷲子ちゃんッ!」

「はいッ、出ましょうッ!!」


 私と雨羽先輩が慌てて境内の影から飛び出そうとした時――


姿無き紳士インビジブル・マナーッ!」


 ミイラ男は全身の包帯を広げ、メガネ先輩と富蔵先輩の二人を包みはじめました。


 ですが――


「遅ェッ!!」


 低音の良い声で、花道さんが叫ぶと、すごい速度で駆け抜け、その両手でそれぞれの顔を鷲掴みにします。


 そのまま腕を交差させるように振り下ろし、二人を地面に叩きつけました。

 その時点で二人の姿は透明化し、気配が希薄になっていましたが、花道さんはお構いなしに、恐らくは重なり合って倒れているだろう二人の上に片足を乗せます。


「マジすごいよね、その能力。

 どっちかのお腹か股の上あたりを踏みつけてるんだろなー……くらいの漠然とした感じは何となくあるけど、なんだろう……まったく手応え感じないじゃん。

 間違いなくそこに何かあるのに、あたしの足は空気の上に乗ってるみたいっていうの?

 実際、透明だからあたしの足がどっちのどこに乗ってるか知らないけど、まぁ二人が重なってはいるよね?」


 重なってなければ、どっちかが逃げているのでしょうけど、注意深く探ればあそこに二人いるのだと、漠然と感じ取れます。


「ほ、本当に透明になった……」

「透明人間もすごいけど、花道さんもすごくない……?」


 そういえば――完全に無関係な二人に開拓能力を見られてますね。どうやって誤魔化しましょうか。


「踏んでる感触がないし、声とか鼻息とかも聞こえないから、どのくらい苦しんでるか分からないんだけど……まぁ、いいよね?

 解除しないなら、どんどんチカラ強くするから。顔色も声も何一つ分からないから加減が難しいんだよね。

 踏みつぶしちゃったり、骨とか砕けちゃったらゴメンね?」


 その口調はいつもの通り。

 だけど、結構残酷というか残忍というか、サラリと言ってのけてます。

 言外に最悪死んだらゴメンネも含まれてそうです。


「それで、これからどういう抵抗する?

 透明人間パイセンの能力って、何かを透明にする能力でしょ?

 ラクガキ魔パイセンの能力って、手を触れずにラクガキするだけっしょ?

 二人はこの状況を、その能力でどうやって脱出するのかなー?」


 そう告げてから、花道さんはチラリと陽太郎君が隠れているあたりに視線を向けてから、悪意たっぷりに笑ってみせました。


 すると、彼女の衣服が透明になっていき、その身体に卑猥なラクガキが描かれていきますが――


「まぁそういう手を取るよね」


 花道さんは平然としています。

 いや、平然としているフリでしょうか。ちょっと顔が赤くなっているので羞恥ゼロってワケではなさそうですが……。

 どちらであれ、羞恥心を理由に手を緩める気はないようです。


「梅塔、お前、後ろ向け」

「いやでも安芸津、ここで背を向けるのは男が廃る……」

「その機能を廃らせて欲しくなきゃ後ろ向けつってんの」

「……はい」


 こっちはこっちで安芸津先輩がそれはもうドスの聞いた声で梅塔先輩を脅してました。


「透明化は透明化だよねぇ……。

 ラクガキもラクガキだし。描かれた絵や文字は何のチカラも持たない。

 つまり、チカラを緩めないなら、二人は抜け出せないワケじゃん?」


 そうなんですよね。

 透明化の能力――それって捕らえるのは大変なんですが、捕らえてしまえばそこまで脅威ではないんですよ。


 彼の能力は存在感まで透明にしますが、でもそれは別に質量まで無くしているわけではありません。透明になった物質は依然としてそこにあるのです。

 だから、たとえ感触が空気のようでだろうと、今の花道さんのように、そこに何かあるという手応えそのもは感じられるワケです。


「それにさぁ……」


 二人に説明しながら、花道さんは指をパチンと鳴らしてみせます。

 すると、参道の石畳から大きな壁がせり出してきて、入り口へ向かう道を塞ぎました。


 陽太郎君の能力ですね。

 花道さんの合図に合わせて発動させたのでしょう。


立ちふさウォール・オがるものブ・フェイト


 それを示しながら、花道さんは自信たっぷりに堂々と告げました。


「知らなかったかな? いかれるあたしちゃんからは逃げられないのだ」


 さもそれが、自分の能力であるかあるかのような態度で。

 それを見て観念したのか、メガネ先輩は観念したように透明化を解除するのでした。


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【TIPS】

 花道 華燐……

 ここまで勝手に動き回る子になるとは作者も想定外だったらしいぞ。

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