5.お散歩の目的地が決まりました
この町――
その中央部分には、
もちろん、川には数カ所に橋が架かってますので、行き来ができないわけではありません。
私が今から向かうのは、東部で一番大きな駅である
そこを渡ってすぐのところに広がる雑木林です。
その雑木林にある寂れた神社――
フロンティアアクターズにおいては、主人公達の活動拠点となる神社なのです。
繁華街である桜谷駅前を経由して、そこへ向かおうと思います。
まずは桜谷山中の住宅街から坂を下って降りていき、桜谷駅を目指しましょう。
有名なアニメ映画の舞台となった、連続ヘアピンカーブを下ります。
もっとも、車や自転車だとヘアピンカーブを進まなければなりませんが、徒歩なら重なり合うヘアピンの真ん中に歩道と階段が通ってるので、ショートカットできるのですけどね。
もちろん、わたしはショートカットを使います。
そんなショートカット用の階段を下りている時、スマホが着信を告げる音を発したのて取り出しました。
コミュニケーションアプリ――
ぶっちゃけてしまいますと、前世で言うところのLINEみたいなモノです。
正直、お父様と藤枝さんと、あとは家の管理を手伝ってくれてる方達数名くらいしか登録してないので、基本的にスパムや広告ばかりなのですが……
そんなことを思いながら、アプリを起動してみると――
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平素より、コミュニケーションアプリ『Linker』をご利用いただきありがとうございます。
本メッセージは、
現在、府中野市におきまして、連続婦女子暴行事件が発生しております。
被害者の共通点としまして
・若い女性
・髪が肩口からそれより長くい
・髪を染めてはいない
以上のことが挙げられております。
該当される皆様は、お一人での外出を極力お控えください。
夜間の外出におきましては特に注意してください。
『降門 路人 市長からのメッセージ』
市内で起きている事件において、市民の皆様を不安にさせてしまっておりますこと、大変申し訳なく思っております。
ですが府中野市警察署は、現在全力を持って事件解決に尽力しております。
事件解決までは市民の皆様には大変不安な思いをさせてしまうかとおもいますが、今しばらくの辛抱をしていただければと思います。
また、もし犯人の方がこのメッセージを見ておりましたなら、自首することをお勧めします。
これ以上の無用な行いは、貴方自身を不幸にしてしまうことでしょう。
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無用な広告メッセージかと思ったら、
こういう面においてこの世界の警察は、前世の警察よりもフットワークが軽いかもしれません。
ともあれ、出かける前に藤枝さんにも心配されていましたからね。気を付けてお散歩することにしましょう。
私はスマホをしまうと、改めて階段を降り始めました。
ショートカットの階段を降り終わり、そのまま十分ほど歩けば、駅前の繁華街になります。
あとはここを越えて、栗摩川の土手へ出る裏道へと向かうわけなのですが――
「ねぇねぇ君」
「……? 私ですか?」
駅の改札の前を通り過ぎるかどうかといったところで、見知らぬ男性に声を掛けられました。
なかなかのイケメンだとは思いますが、どうにも、ホストっぽさがにじみ出ています。
この駅前はそれなりに栄えてますが、それでも地方都市の大きな駅というだけのこと。
スポーツ用品店や、釣り具、アニメ等のファンショップなどの専門店には事欠かないのですが、娯楽施設は乏しく、むしろこの駅から都心に遊びに行く人の方が多いくらいです。
それに、比較的年輩の方が多い土地柄もあって、この手のナンパというのはあまり多くはないのですが――
「そうそう。
オレ、美容師なんだけどさ。カットモデルとか興味ない?
君みたいな可愛い子だと、見栄えするからさ、お願いしたいんだけど」
そういえば、その手の学校へ向かうスクールバスとかも、すぐそばのバスターミナルにありましたね――そんなことを思いながらも、私は当然、お断りします。
「ごめんなさい。興味ありませんので、他を当たって頂けますか」
ですが、男性は食い下がってきました。
「そう言わないでさー……」
それどころか、馴れ馴れしく私の髪に触れてきます。
「こんな綺麗な髪、オレに切られないと勿体ないって」
ペチリと、私はその手を振り払い、目を眇めました。
「親しくもないのに、些か馴れ馴れしいのではありませんか?」
「そうかな? これから親しくなればいいんじゃないかと思うけど」
「なる気はありませんし、カットモデルもお断りだと言ったはずです」
「そう連れないコト言わないでさー」
イラっとした私は、少しだけイタズラをすることにします。
本当は、あまりこういう使い方は良くないかもしれませんが――
(
振り払っても再び髪の毛に触ってくる男性の手を払いながら、能力を使います。
「やめてくださいと、言ったはずですが?」
目を
女の子に凄まれたって怖くないと思っているのでしょう。
ならば、仕方がありません。
開拓能力だけではなく、武道家の気というものも一緒に使うことにしましょう。
「次にやったら、そのサルスベリのような細腕を握り砕きますよ?」
お父様をマネして、目に殺気を込めて睨みつけながら。
「はははは。君のその可愛い手に握ってもらえるなら、大歓迎だよ?」
鈍いのかやせ我慢なのかは分かりませんが、わりと平然と笑っています。
「そうですか?
まぁ、その手でもう一度私の髪に触れるかはわかりませんが」
そう告げて、私は
「ちょっと待って……え?」
立ち去る私を捕まえる為、左手を伸ばした際にようやく気づいたようですね。
自分の左腕――肘から指先に掛けて、本当にサルスベリの枝になってしまっていることに。
「木ィ……ッ!? オレのッ、どうなってんだ……ッ、オレの左手が、木になって……ッ!?!?」
彼がパニックになっているうちに、さっさとここを去るとしましょう。
数分すれば元に戻りますしね。
……余計なコトして、折れたり傷ついてたりする場合、完全復旧するかはわかりませんが。
それにしても、前世の記憶の影響か、ちょっと荒っぽい思考が混ざってしまいます。
今回はそれに助けられましたけど、状況によっては気を付けないと、場を悪化させてしまうかもしれません。
それに今までと違い、前世の記憶のおかげで開拓能力に後ろめたいものを感じなくなったので、ついつい便利使いしてしまいそうなところも、よろしくありません。
――色々と、自重をしないといけないかもしれませんね。はい。反省反省。
=====
【TIPS】
開拓能力――
自分の身体の一部、あるいは鷲子が手で触れたモノを植物化する能力。
触れたモノを変化させる場合、鷲子との距離が開くor一定時間の経過で解除される。
どんな植物にでも変えられるわけではなく、鷲子が知識として持っている植物にしか変化させるコトができない。
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