第2話 そして伝説は生まれた。
最初に代表者を決める事になり、男性陣からは最初に喧嘩を売ってきた男が、女性陣からは背の小さい方が名乗り出た。
公平を期す為に、男がすでに飲んでいた分のアルコールを摂取する。
飲み終えたところで、女性がマスターに声をかける。
「マスター。ディザスターお願い♪」
ほんの少しマスターの片眉が上がる。
しばらくして出てきたのは、色鮮やかなブルーのカクテル。
対決する二人の前に置かれ、スタートの合図と共に、二人はカクテルグラスを手に取った。
── 三分後 ──
男は、飲み干したグラスを握りしめたまま、カウンターに突っ伏した。ピクリとも動かない男の様子に一緒にいた男達が慌てて近寄る。
「大丈夫か!?」
「おい!! 何飲ませた!!」
「普通のカクテルだけど? 別に変なもの入ってないわよ」
飲み干したカクテルグラスを弄びながら、涼しい顔で言い放った。
「つまんないなー、一杯で堕ちるとはねー。まあ、なんにせよ約束は守ってね」
「ふざけんじゃねー!!」
怒りに任せて殴りかかってきた拳を隣に座っていた大きい女が片手で受け止め、そのまま手を捻るようにして床へ薙ぎ倒す。
もう一人の男も負けじと拳を繰り出したが、その拳は虚しく宙を切るはめになった。
「お・そ・い」
いつの間にか男の背後に立っていた女が男の首に手刀を落とす。
軽く打っただけに見えたが、男は声もなく床へ崩れ落ちた。
大きい方が二人、小さい方が一人担ぎ上げると、マスターにちょっと棄ててくる、と告げて店を出ていった。
おそらく路地へ投げ出しただけだったのだろう。
瞬きする間もなく戻って来た二人を迎えたのは溢れんばかりの歓声と拍手だった。
「ネーチャンら強ぇーのな!」
「酒も喧嘩も強ぇーとかすげーな!」
「バカ! 知らねーのか。数年前でよく来てた常連じゃねーか!」
「久しぶりだなあ! 元気してたか?」
口々に声をかけられ、二人の周りにはあっという間に人が集まった。
奥のカウンターに引っ込むのは無粋だと思ったのか、二人は手近な空きテーブルに腰を下ろし、一人一人に言葉を返していく。
見計らったように酒と料理を運んできたマスターにお礼を言い、荒くれ者達との大宴会がスタートした。
東の空が少し白んで来た頃。
「はいはい! もう閉店時間だよー! 起きてー」
「店に迷惑かけるもんじゃないぞ」
しっかりした足取りで酔い潰れた男共を起こしてまわり、小さい方の女性がマスターに小さな巾着を渡した。
「これで足りそう?」
中身を確認したマスターが笑顔を向ける。
「はい、いつもありがとうございます」
「それはこっちのセリフ! いつも美味しいお酒ありがとね」
笑顔で返し、また来るねー! と手振りながら、二人は静かに店を出て行った。
すっかり酔いの冷めた男の一人が、マスターに話しかける。
「あの二人、一体何者だい?」
「詳しいことは存じ上げませんが、時折ふらっと訪れる非常にお酒に強い方々です」
「飲み比べで飲んでた酒、ディザスターだっけ?あれ一体何なんだ?」
「世界一アルコール度数の高いウォッカをベースにしたカクテルです。なかなか一般のお客様に出せる代物ではないのですが…」
アルコール度数を聞いた男は、目を剥いた。
「…人間じゃねえな」
マスターは曖昧に笑うだけでコメントを控えた。
男もつられて笑い、懐から財布を出そうとしたところで、マスターにやんわりと止められた。
「お代は頂いております」
「さっきのネーチャン達か?」
「はい」
「はー…何から何まで規格外のネーチャン達だな」
ごちそーさん、男はマスターにそう言うと、まだ潰れている奴らを引きずるように店を出て行った。
以来、この裏路地の小さな店は、いつ来るかわからない二人組の女性を目当てに訪れる酒に強い客が増加したそうだ。
二人に逢えると幸せになれるというジンクスまで飛び交い、その店は、連日たくさんの人で賑わった。
〜fin〜
Heavy Drinker 丹波このみ @tannbakonomi
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