魔法少女めぐるの日常

田中葵

第1話 魔法少女めぐるここに誕生

あれは、中学2年の夏期講習の帰りのこと、その日は、ソフトクリームが瞬時に液体と化してしまうのではないかというくらいの猛暑日であった。帰り道にある公園を目前に、そこに、アイスクリームの自動販売機があるのを思い出したものの、同時に家にソーダ味の氷菓子があるのを思い出し、公園に寄るべきか、そのまま帰路に着くべきか考えあぐねていた。その時、公園の砂場の近くの一本の広葉樹の下に、見慣れた幼い男の子の姿を認めた。来年から小学生になる弟である。名前は健二、健一が居るのではなく、私に次いで、二番目に生まれたから健二らしい。声をかけようと近づこうとしたら、どうやら、弟の後ろには、泣いてうずくまっている女の子、弟の前には、立ち塞がる小学生2年くらいの体格のいい男子2人がいることに気がついた。彼ら2人と弟は何やら言い争っているようであったので、少し様子を見ることにした。すると弟が公園中に響き渡るような大きな声で叫んだ。

「ミカちゃんの大事なペットを虐めるな」

そうか、あの子の名前はミカっていうのかなどと考えていると、男子2人組が、

「ははは、笑わせるぜ、お前のペットキモいんだよ、虐めてるんじゃないぜ、生き物ていうのはな、犬も猫もみんな地面で暮らしてるんだ、だから砂場の砂をかけてもいいんだぜ、だってそいつら生き物にとっては砂は友達だ、わかったか?そこをどけよ」

それなら、お前たち人間も地面で暮らしてるから砂をかけてもいいことになるなあ、と小学生の謎の理論に笑いを堪えつつ、弟とミカちゃんがあまりにもかわいそうで、意地悪男子2人組をちょっと懲らしめてやろうと思い、彼らのもとに駆け足で向かった

「ちょっとやり過ぎじゃないの!」

「あ?なんだお前、お前もこいつらの仲間か?」

「私はこの子の姉よ、話を聞いていれば、ペットに砂をかけるなんて一体どういう神経してるわけ。」

「なにがペットだ、名前なんだっけ、あ、そうそうジュリエットか、面白すぎ、よくあんなキモい顔してるのにそんな名前付けられるな。もういい、こんなのこうしてやる」

すると、男子2人組はペットに石を投げつけた。

遂に、堪忍袋の尾が切れた私は、彼らに向かって、足でその場の砂を蹴り上げた。

「うわ、なんだこれ、目に砂が、助けて」

そう言いながら、2人組は逃げていった。

「大丈夫、健二、ミカちゃん」

「僕は大丈夫だよ、ミカちゃん大丈夫」

弟がそう言い終わってすぐ、弟よりも年下と思われるミカちゃんが

「けんじくんのおねえちゃんってまほーしょーじょなの?」

「魔法少女?」

「うん。おねえちゃんってキュアサンドだったんだね!ミカ知ってるよ、さっきもジュリエットよりもずーっとずーっとおおきいすなあらしおこしてたもん。さっきのキュアウェーブだよね、まほーしょーじょにあったのはじめて」

「え、うそ、姉ちゃん魔法少女だったの?テレビでたまに見るけど、めっちゃすごいじゃん。」

私は幼い頃、魔法少女もののアニメに全くと言っていいほど、興味を持たない子どもだったので、今でも魔法少女がどのようなものなのかかいまいちわかっていない。

「私が魔法少女?そんなわけ」

と言いかけたところで、ミカちゃんの夢を弟の夢を壊しかねないと考え、

「そうよ、バレてしまったなら仕方がないね。私は魔法少女だよ」

そう、答えてしまった。


帰宅後、魔法少女もののアニメの動画がネットにたくさん上がっていたので、試しに一つ見てみることにした。するとあまりにも面白く、何故かどハマりしてしまって、夏期講習がちょうど終わり、宿題も終わっており、やることがなかったこともあり、食べて寝る以外はほとんど魔法少女の動画を見たり、魔法少女についての記事を読んだりしていた。

夏休みが最終日になる頃には、私は自分には、魔法少女の素質があるんだと思うようになっていた。あの時、意地悪2人組を懲らしめた時、ミカちゃんの言うように、たしかに彼女のペットのジュリエットの50、いや100倍以上の高さまで砂を巻き上げたのは事実である。だからこそ、私は自分が魔法少女になるべき人間であることを疑わなかった。

明日から、学校が始まる。私は魔法少女として困っている人を救い、悪を正せるのだろうか。そう考えると、その日の夜はなかなか寝付けなかった。



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