二千年の恋の行方
第142話 A.D.4021.ビックバーン
ナインがブルーノヴァからセブンスに、諦めに似た表情で語りかける。
「戦いなさいセブンス。蟲毒プログラムは、最後に相手を食らいつくした者が生き残る。この戦いは避けられないのです。愛する人を生かしたいなら、私を倒しなさい」
セブンスの左目が輝く、二千年の時を越えた愛が、銀河の行方を決めようとささやく、セブンスにも七海の想いが伝わった。
光の機神の右手にビックバーン、宇宙創成の力を持つ大剣スバルが握られた。
先にナインが動く、揺らめく黒い炎を纏った真理の剣を右に払うと、空間と時間が削りとられ、剣の軌道上のものは消滅する。
回避するホワイトノヴァへ切り込む青き機神に、セブンスは数度の接近と回避が行われていた。
攻撃を仕掛けたブルーノヴァに、回避を図ったホワイトノヴァ、その周りに削られた空間が出来ていき、ついにセブンスは、見えない壁に邪魔され動きが止まった。
剣先を返し、セブンスの乗る光の機神のコクピットを突く青き機神に、セブンスが初めて剣を振るう、二本の究極の力がぶつかる。
全てを消し去る真理の剣と、創成の力を持つ昴。
生と死の力が漆黒の宇宙を輝かせる。
真理の剣の通った空間は何もない空間に変わる。そこは時間も物体も存在できない、ナインはセブンスの動きを読み、周りの空間を削って、動きを制限していく。
ブルーノヴァが剣を振るたびに、徐々に動ける範囲が狭まり、追い詰められていくセブンスが乗る光の機神。
「さあ逃げ場は無くなりました。これで決着がつきます」
ナインが勢いをつけてセブンスに向かう。
削られた空間に邪魔されて動けない光の機神に、ブルーノヴァの剣が胸の大きなダイヤモンドを貫通して、コクピットへと刺し込まれた。
ホワイトノヴァの亀裂が入った胸から、差し込まれた剣の勢いは止まらず、そのままセブンスのコクピットへと進む。
「なにかおかしいです。この球体は……まさか!?」
剣を差し込んだナインが、セブンス――七海の、エイト――沙耶の、意図をこの時初めて知る。
「わざと動けないふりをして、正確にコクピットを突かせたのですか!?」
激しい光の輝き。
ナインの剣がセブンスの機体のコクピット、小さな球体に触れた時、ビックバーン――宇宙開闢が起こった。
剣を抜こうとするブルーノヴァだが、剣、腕、身体と、徐々に強い光に包まれる。
騎乗するナインにも光が上がってくる。首を必死で振り、否定しようとする。
「こんなのはまやかしです……宇宙は静寂に包まれるべきなのです。ビックバーンが終わった時には、世界は冷え始めて、すべての生き物は消えてしまう。そんなうたかたの幻を追ってどうなるっていうんです! セブンス!」
産まれた光が漆黒の闇を消していく中でセブンスが笑顔を見せる。
「いいの。全てうたかたでもね。消えてしまったら、また始めればいい。あなたの剣で新しい宇宙が始まったようにね」
広がり続ける光にナインは肩を落とす。
「なぜ? 始まらなければ、終わりもないのよ。神になるために造られた者には自由など必要ない。二千年の愛なんか……望む事もゆるされない。それなら……始め
からなにもない方が悲しみはないのです」
セブンスは初めて自我を見せたナインに手を伸ばす。
「ナイン……いいの。ワガママで。女はそんなものよ。自分の好きなように生きて、愛しなさい心中の人を。それで世界が滅びてもいいじゃない。だって、二千年前に七海は哲士を助ける為に、世界を消すかもしれないワガママを押し通したのよ。ナインも言っちゃいなさい、自分の本当の気持ちを」
ナインの身体はビックバーンの光に包まれていた。
美しい顔を伏せて青い瞳は涙に零れた。
「私は神になるもの、ワガママなんて……でも、忘れられないの、シルバと一緒にいたい……の」
セブンスの胸で起こったビックバーンに、ナインの心が影を加えていく。
「創成と破滅は一つ……今それが分かりました」
ナインが呟き、もう一度セブンスに問う。
「本当に……私は……愛していいのですか? 神にならなくてもいいの?」
セブンスが大きく頷いた。
「神様なんかやめちゃえ! 普通の女の子に戻ります! どっかで聞いたセリフだけど、それでいいよ……でもね、やりたいことがあるの」
ナインが顔を上げた、セブンスは遠くを見つめていた。
「このビックバーンと無の影が作る宇宙が消えてしまうまで時間がない。この高次元の宇宙が存在している間に、やるべきことがある。それが私とナインを呪縛から解き放つ……手伝ってナイン」
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