第99話 A.D.4021.フィフスへの予言

 フェニックスの抱える巨大なカノンの内部に青い光の渦が出来ていく。

「カノンのライフルリング発生。別次元から反物質装填……ドーラカノン使用可能」


 ファルコンの報告に照準をフィフスドールに向けたセブンス。

 操縦桿から手を離し、目の前に立つフェニックスに満足感を見せるフィフス。

「セブンスそれでいい。絶望を知る為に今は怒りで立ちあがれ。それが未来の希望を産むんだよ」

 その時に通信が入った。

「なにしてんの? フィフス逃げて、早く、急いで! あれはただごとじゃないでしょ?」

 上空に待機中のリンからの声。フィフスは自分の髪をかき上げながら答えた。


「もう十分見学しただろう? あんたたちこそ早く逃げな。セブンスドール・フェニックスは本物だ。銀河一の破壊兵器の最強の一撃は、あんたたちも巻き込まれる」

 リンはフィフスの言葉を聞かない。

「いやだ、なんで、一人で行こうとするの。死ぬときは家族で。アイアンサンドと私といっしょでしょ! こんな死に方なんの意味があるのよ!」


 ふぅ、とため息をついたフィフスが、ディスプレイに映る二人に穏やかな姿を送った。

「別に悲しい事じゃない。私には世界を変える力などない。ただの戦士だからセブンスに託す。怒りで力を得たあの子には、この後に訪れる絶望の中で光を見いだす。されば勝てる、最後の番号を与えられたアイツに。少ない可能性だがな」

 リンが泣き出し、声を荒げる。

「ばかぁ! なに言ってるの!? 誰に勝ってというの? 世界が救われたってフィフスがいない世界なんて、いやだよ私は……うぇーん」


 沈黙を守るアイアンサンドに向かったフィフス。

「駄々っ子は仕方ないとして、おまえには分るよな。アイアンサンド」

 メモリケースを右手に乗せ、フィフスに見せたアイアンサンド。

「ああ、フィフス。これがセブンスの光。希望が入っているのだろう。それが宇宙に必要なのは分かっている……だがな」


 ディスプレイのアイアンサンドの反論を右手で制したフィフス。

「今まで一緒にいてくれてありがとう。最後にお前の髪を触りたかった。リンの愚痴を聞きながらな。さあ、行け! ここで、さよならだ」


 フェニックスはフィフスの黒きマシンに狙いを付けていた。

 ドーラカノンは次元から反物質を転送し、その反作用で巨大な力を産み出す武器。


「……フィフス。なぜ逃げないの? あなたの事だから、まだ作戦でもあるの?」

 カノンの発射の準備は整っている、パワーの放出はあまりため込む時間がない。

 強力なゆえ、カノン自体、フェニックス自身が反物質のパワーに負ける為だ。


「セブンス、時間がありません、これ以上発射を遅らせるのは」

 ファルコンの言葉に促されながらも、トリガーを引けないセブンスは目の前の敵に問いかける。

「どうしたの? 何かあるんでしょ? でも無駄だからね。フェニックスに敵う兵器はこの銀河にはない」

 セブンスにしばらく無言を通していたフィフスが口を開く。

「おまえが無理と言うなら、何をやっても無駄だろう。さすがに神の機体に勝てるとは思わんさ」


「そんな」首を振り指示というより哀願に変わったセブンス。

「フィフス……もう時間がない。早く脱出して。この武器の威力は私自身も想定がつかないの」

 しかし動きを見せないフィフス、叫びに変わるセブンスの願い。

「フィフス! どうしてあなたまで、殺さなければならないの? 逃げて……姉さんお願い」


 懇願するセブンスにフィフスは穏やかな顔でフェニックスを見ていた。

 その瞳は満足をたたえ澄み切っていた。


「セブンス。もうこれ以上カノン砲を保留できません。五秒後に安全装置が働き、自動で発射されます」

 左手で両目を覆い、右手のトリガーを絞るセブンスに、満足そうなフィフス。

「それでいい。機械タイマーに殺されるのは好きじゃない。お前の手で私を……この後に訪れる絶望に……打ち勝てセブンス……私の可愛い妹よ」


 トリガーが引かれ、ライフルラインの青いビームーがフィフスドールへと延びていく、強烈な閃光がドーラカノン、反物質キャノンから打ち出された。


 光の渦は空中に浮かぶ、空中戦車フィフスドールを直撃して、原子レベルでの破壊が始まった。そのエネルギーはすぐに黒き機体を消滅させ、瞬く間にセブンスドールの立つ位置に達して、なお破壊のエネルギーは広がり続けた。


 消えゆく操縦席、その中で充足を得たフィフスの目に、不思議なメッセージが飛び込んできた。

『フィフスは……砂の惑星でセブンスに敗れ…命を失った』

 空中に書き込まれたフィフスへの予言のような記述。そして予言は消えて別の文字が浮かび上がる。

『フィフスは、砂の惑星でセブンスと戦い、その後……』

 空中に上書きされた文字を見てフィフスは青ざめた。

「これがあいつの力なのか? もし、そうなら、セブンスは……」

 強い光の中、フィフスの言葉は、ドーラキャノンのビームの中に消えた。




  

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