第22話 テストのちメロンパン
中間考査の初日となった。
初日の教科は数Ⅱと現代文B。心愛との勉強の甲斐あって、試験はそう苦戦することもなかった。当然、忘れていた箇所や解けなかった問題もあるが、想定内といったところである。
一限目の後、風間が話しかけてきた。
「くくっ、余裕そうだったじゃねえか」
「なんだよその話し方。テストがピンチすぎておかしくなってしまったか?」
「はっ、ピンチだからおかしくなる? 確かにそうかもな。今俺は、テストの返却が楽しみすぎて、武者震いってやつが止まらねえんだ」
「……もしかして風間、実は成績がいいのか?」
そういえば、風間と同じクラスになったのは二年になってからだ。
俺が知らないだけで、実はこいつは成績がよかったりするのか……?
「ちげえよ、成績は底辺だ。だが、そのヤバイ自分と向き合う瞬間っつーかさ、それで先公に叱られたり、進学がピンチって現実を突きつけられたりした瞬間に、オレは
「マゾなのか?」
「この間喧嘩してる最中に気付いたね。オレは殴るより、殴られる方が好きかもしれないと」
「以前からやばい奴かもと思ってたけど、やっぱりやばい奴だった。付き合い方を考えた方がいいかもしれない」
「心の声が口に出てるぞ」
「聞かせてるんだよ。言わせんな、恥ずかしい」
皮肉でもなんでもない素直な言葉を返すと、席を立ち上がり、教室を出てトイレに向かう。次の試験に備えて、用を足しておかないと。
と、その途中――こちらの教室に向かってくる心愛に出くわした。
「あ……」
心愛が足を止める。
「どうしたんだ? 誰かに用事でもあるのか?」
心愛の教室と女子トイレは、今俺が向かっている方向にある。
試験の合間の休み時間、心愛がこちらに向かって歩いてくる用事なんて、普通はないはずだった。
「い、いえ、気分転換になんとなく散歩してただけです。そんなことよりも、試験はちゃんとやれましたか?」
「あ、ああ。もしかして、心配してくれてたのか?」
「……心配ってわけじゃないですよ。でも、せっかく勉強を教えたのに、無様な結果だったら許せませんからね」
「まあ、ありがとう。おかげで頑張れてるよ、心愛のためにも気を引き締めていかないとな。教えてくれた先生の顔に泥を塗るわけにはいかないし」
「ならいいんです。精々私の努力に報いてくださいね」
心愛はそう言うと、くるりと踵を返して来た道を戻って行った。
結局、あいつはなんでこっちに歩いてきていたんだ?
心配で俺の顔を見に……いや、流石にそこまでは
俺はトイレに行くと、用を済ませて次のテストに挑んだ。
初日、すべての試験が終了する。試験期間中は午前上がりで半休だ。
ホームルームを終え、校門前にやってくると、
テスト期間中も一緒にご飯を食べて、勉強することになっていた。
「さて、お昼はどうします? どこかに寄って帰りますか? ハンバーガーとか」
「んー……このあたりのファーストフードって試験期間中はうちの生徒がいっぱいだからな。混んでる店に入るのはイヤだな」
「相変わらずの人間嫌いですね。だったら、コンビニにしますか。明日の朝食や夕食も買って帰れますし」
「賛成だ」
近場のコンビニに入る。
いくつかカップ麺と冷食を籠に入れて、いよいよ昼食でも買うかと弁当の並んだ棚とパンの並んだ棚に両脇を挟まれた通路までやってくると、心愛がいくつかのパンを前に品定めを始めた。
「バターが香るメロンパンと、サクサクメロンパン、どっちがいいと思いますか?」
「メロンパン以外に選択肢はないのか?」
「ありません。メロンパンは至高ですから」
そういえば、心愛は昔からメロンパンを目にすると人が変わるようなやつだった。
「パン屋やコンビニに入ると必ず買ってしまうので、あまり見ないことにしているんです。スーパーだったら気にせず通り過ぎるんですけど、コンビニは店内が狭いですから、どうしても対峙してしまうので」
「そんなに好きなら食べればいいのに」
「メロンパンのカロリーって相当ですよ。一食で三個も四個も食べていると太ってしまいます」
「一食でメロンパンをそんなに食べてしまうのかよ……いや、食べてたな。今思い出した」
そういえば、中学の頃に一緒にパン屋に入ったことがあった。
あの時心愛が買ったのは三個。分けて食べるのかと思えば一食で食べてしまい、うっかり「太るぞ」と言ってしまったことを思いだす。
あれ以降、心愛は俺と一緒にいる時、二度とあのパン屋に入ることはなかったのだが……。
「で、どっちがいいと思います?」
「どうせいくつも食べるなら両方買えばいいだろう。二つで済ませばそんなに太らないぞ?」
「三個だと奇数になってしまいますから、今日は片方にしようと言っているのです。明日もう片方を食べればいいでしょう?」
「太る気満々じゃないか」
「勉強で糖分を使いますから問題ありません!」
そういうものなのだろうか。まあ、本人が納得してるならいいのだろう。
「メロンパンって、ちょっとだけ悠に似てますよね」
「どういう理由でだよ」
「皮は硬いのに、内面は脆い」
「メンタルが豆腐って言いたいのか」
「強がりとも言ってます」
追い打ちかよ。
会計を済ましてコンビニを出る。部屋に戻った後、勉強の前に昼食を食べた。
「一口食べますか? 美味しいですよ?」
「メロンパンの味なんて、わざわざ口にしなくてもわかる。どれも似たような味だろ」
「最近のやつは商品研究も進んでて、美味しくなってるんですから」
そこまでいうならと、心愛のメロンパンを一口だけ食べさせてもらう。なるほど確かに、最近のコンビニのメロンパンは、生地がサクっとしていて高級感があった。
それにしても……俺がメロンパンに似てる、ねえ。
いやいや、似てないだろ。
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