第4話

 痛い!

 苦しい!

 助けて!

 誰か助けて!


「死ぬな!

 死ぬんじゃない!

 私を残して死なないでくれ!

 お願いだから死なないでくれ!」


 なにを言っているのですか?

 ずっと放り出しておいて、今さら死なないでくれなんて。

 人目を気にした芝居など腹立たしいだけです!

 こんな人気取りの芝居に負けてたまるものですか!

 私が死んでしまったら、子供を好き勝手にされてしまいます。

 私の子供を後継者にできるなら、キャスバルはもう偽装結婚や政略結婚をしなくてすむのです。


 そんな事は嫌です!

 私の子供を好き勝手にはさせません。

 私の子供を賢女が抱くと考えると、心に怒りの炎が燃え上がります。

 今も内臓が焼けるような痛みを感じます!


「落ち着いてくれ。

 心を冷静にしてくれ。

 このままでは死んでしまう!

 何を怒っているのか分からないが、冷静になってくれ!

 生まれてくる子供を無事に産む事だけを考えてくれ!」


 キャスバルが何を言っているのか全然わかりません。

 私を怒らせているのは貴男の芝居ではありませんか。

 他に愛する女がいるというのに、体面を気にして私を愛している振りをするなんて、不誠実極まりありません。

 私をバカにするにもほどがあります!

 それで落ち着けとか冷静なれなんて、よく口にできるものです。


 自分でも驚くほど生に執着してしまいました。

 恨みと憎しみが、私を死の淵から脱出させたのです。

 そうでなければ死んでいたと断言できます。

 ですが、生死の境を彷徨うほどの難産です。

 どれほど強力な治癒魔法を使っても、失った血を元通りにはできません。

 ただベットで療養するしかありませんでした。

 もっとも、出産の途中で意識を失った私には、後で聞かされた事です。


「よく、よく死なないでくれた。

 私を残して死なないでくれてありがとう!

 アルフィンが助かってくれて本当によかった!

 子供は元気にしているよ。

 ああ、名前は一緒に考えたくて、まだ名付けていないんだよ」


「若奥様。

 殿様はずっと若奥様のお目覚めを願っておられたのですよ。

 毎日朝から夜まで、若奥様の手を握って祈り続けておられたのですよ!」


 この侍女は何を言っているのですか?

 それではまるでキャスバルが私の事を愛しているかのようではありませんか!

 そんな大嘘が通用すると思っているのですか?

 キャスバルが愛しているのは賢女ではありませんか!

 貴方たちも、キャスバルの私への仕打ちを側で見ていたではありませんか!

 それでよくそんな事を口にできますね!

 キャスバルは社交会での評判を気にして演技しているだけだと、なぜ気がつかないのですか!

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