EX6 可愛い妻とゲームの日

「ゆうぅぅぅ」


「どうした?」



 リビングのカーペットでうつ伏せになって寛いでいたところ、むぎゅむぎゅと凶悪な爆弾を押し付けながら、覆い被さって来た由季が俺の名前を呼んだ。



「今日は何の日か知ってる?」


「11月23日、勤労感謝の日だ」


「違います」


「由季が俺に見惚れた日」


「それは毎日♡ 正解はゲームの日だよ」


「ゲームの日か……」



 幼少から今の関係夫婦に至るまで、由季に構いまくってた為に、遊びという遊びをしてこなかった。ゲーム機を買ったこともない。ゲームとは呼べないがせめて、株の動向を見るのがそれに近いか?



「どうせ、ゆうのことだから私に構いっきりで遊んだこと、ほとんどないでしょ」


「おぉぅ……心が読まれた」


「だから、これからはいっぱい遊んで良いからね」


「遊ぶって言ってもなぁ……。由季の顔見てたら良いか? 見てると幸せだなぁって思えてくるからさ」


「そんなことされたら私、気絶しちゃう」


「優しく起こしてあげる」


「もぅ……」


「「んっ……」」



 何度もキスしているがこのドキドキは慣れない。

 柔らかい唇に、少し火照った顔、甘い香り。その全てが俺を虜にさせていく。限界を知らないとばかりに由季をもっと好きになっていく。



「言っておくけど、これはゲームじゃないからね……?」


「愛情表現だよ」



 そうしてゆっくりと顔を離すと、由季は俺の肩に顎を乗せた。



「あ、良いこと考えた」


「どんな良いことだ?」


「ゆうとイチャイチャしながらゲームする方法」


「神ゲーか?」


「それは実際にやってからのお楽しみ〜」



 **** ****



 由季は俺の背から離れると、台所にある冷蔵庫の中を開けて何かを取り出して戻ってきた。



「じゃーん。お菓子〜」



 それは棒状のチョコのお菓子であるポッキー。


 それで何をしようと言うのだ。まさか、目の前で食って自慢するのか? なんて、酷いことをするんだ。


 その酷いことを阻止するべく、姿勢を正す。由季は箱を開けて小包から一本、ポッキーを取り出す。



「先に咥えて」


「先に食べて良いのか?」


「食べるんじゃなくて咥えて待ってて」


「分かった」



 チョコの部分を咥えると、その反対側を由季が咥え込んだ。由季との距離が非常に近い。キスまであと一歩である。



「このまま食べ進めていくゲームなんだけど、これは……」


「分かった。そこまで言えば流石に分かった」


「そう? じゃあ、ゲーム開始」



 と由季が言った瞬間に俺は勢い良く食べ進めていく。


 その行為に驚く由季だが、俺は止まらない。


 これは素晴らしいゲームだ。ゲーム開始から勢い良く食べ始めて、如何に素早くキスできるのかを競うゲームである。


 なるほど……これは神ゲーだ。


 そうして俺は由季の唇に辿り着き、そのまま由季を押し倒してディープキスをする。


 チョコレートが混じり合った非常に甘いキス。なんていう最高のゲームなんだ……。



 **** ****



 そうして、一通りディープキスを堪能した俺は口を離す。そこには頬を赤く染めた由季が呼吸を荒くしていた。



「良いゲームだな、由季……」


「はぁはぁ……ちがっ、違うよ、ゆう……」


「違ったのか? でも……」



 と言った瞬間に俺は金縛りにあった。由季が俺を捕食するような目で睨みつけてきたからだ。



「……本当は先にキスした方が負けなの」


「……」


「でも、あなたのおかげで新しい遊びができた。私とあなたにぴったりなゲームが」


「……」


「もう一回……いや、ここにあるポッキーの本数分だけいっぱいキスしようね……あなた……」



 迫って来る由季を最後に俺の記憶は存在しなかった。その後、意識が戻った俺はベッドの上にいた。

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