Scene16 -2-

 ロイドが小型ロボや潜入部隊を行動不能に追いやったとき、上空から六機の機動兵器と思しき機体が降下してきた。闇夜に紛れるためなのか、そのボディーは黒く、装飾やディテールもないシンプルを通り越した特徴のないデザイン。


「世界軍事同盟に同型機動兵器の登録なし」


(ロボタウンへの襲撃は世界軍事同盟またはどこかの国の仕業ではないのか?)


 そういった可能性をロイドが考えていたところで、地下格納庫からGOTが誇る機動重機が発進した。


「潜入者はPR部隊が対処します。機動重機部隊は未確認機動兵器を殲滅。可能な限りコックピットブロックを避けて攻撃してください。ですが、敵パイロットを庇うばかりに負けることは許されません。そうなれば我が社の従業員や財産が失われることになります。あなたたちが人と同じ心を持つというならば、その矛盾に打ち勝ってください」


 そう告げるのはGOTの司令官である神王寺翔子。


 突然の襲撃に対して早々に従業員の避難誘導の指示を出し、ガーディアンズのPRG部隊の出動を要請。そして、機動兵器が投入されることを考慮して地下格納庫に武装した機動部隊をスタンバらせていた。


「人の家に勝手に踏み込みやがって! 五体満足で帰れると思うな!」


 機動重機シェンダーの叫びと共に砲撃が始まった。


「物騒なことを。これは守るための戦いだぞ」


 落ち着いた物言いでシェンダーを戒めるナグラックは機動力が重視された特性を使って接近し、黒い機動兵器を殴りつける。


 言葉とは真逆の全力の攻撃は、彼の心に燃える感情が漏れ出したようだった。


「まだ従業員の避難は完了していない。気持ちはわかるがあまり派手に戦えば避難中の人たちや地下のシェルターにも被害が出るぞ」


 歴代の隊長たちとは違い慎重派のガードロンがはやるふたりをコントロールする。ガトリングボットと連結して近接戦闘をするナグラックを援護するガードロン。その後ろから精密射撃で応戦するシェンダー。三体の機動重機は六機の機動兵器との戦闘を開始した。


 GOTの本部研究所に到着したアクトとルーク。ルークが地下深くにあるガーディアンズ基地に戻ろうとしたが、アクトは足を止めていた。


「どうしたんだ? 念のため俺たちも合身して待機しようぜ」


「あぁ、でもその前に確認したいことがあるんだ」


 アクトは研究所に避難してきた人たちを見回した。


「わかった、先に行くぜ。リンちゃんの安否を確認したらすぐ来いよ」


 アクトが言うまでもなくルークは察し、ガーディアンズ基地へ向かった。


 アクトは本部の人事ルームに飛び込んで急ぎ端末を操作した。それは現在の従業員の居場所を管理するシステムによって、リンの現在地を確認するためだ。


 ロボタウンに残っている従業員の七割は本部に避難を完了し、二割ほどがここに向かって避難中。そして残り一割程度は所属部署のビルや工場の地下シェルターだった。


「まだ重機技総じゅうきぎそうだ。長谷川さんも一緒か」


 重機技総じゅうきぎそう周辺は戦いの真っただ中だ。本部に次ぐ重要施設でもあることからか、アクトは敵がそこを制圧しようと集まっているのではないかと考えた。


「おいロイド」


 アクトは通信機からロイドを呼び出す。


重機技総じゅうきぎそうの地下にリンがいる。長谷川さんもだ。本部に避難させられないか?」


 重機技総じゅうきぎそうの建物の近くで機動重機たちの戦いを観察していたロイドは、アクトの早口な言葉から彼の心情を察っした。その心情に極力配慮しつつ、現状をアクトに伝える。


「その重機技総じゅうきぎそうですが、黒い機動兵器部隊によって半壊。地下施設への影響は軽微と推測されますが。ライフラインが断たれた可能性48%。現状なら4時間は安全は確保されている状況です」


「戦闘が続いているなら現状の確保は難しいってことだろ!」


 アクトはそう言いながらガーディアンズ基地に向かった。


 アクトは基地に向かいながらリンへ電話する。ファイブコールで出たリン。安堵したアクトは早口で安否の確認をした。


「リン、怪我はないか? どんな状況だ?」 早口の質問にリンは一呼吸おいて答えた。


「私は大丈夫。でも長谷川部長が」


「長谷川さんがどうした?!」


 リンの不穏な声にアクトがさらに問い返す。


「外の爆発の影響で崩れた壁が頭に当たって」


「壁が崩れた? シェルターに影響が出たのか?」


「違うの、長谷川さんと本部に避難しようってシェルターを出たら爆発があって。出血は少なくないからハンカチで傷口を押さえているけど……、どうしよう」


 リンの泣きそうな声。


「まずはシェルターにもどれ、そこならまだ安全だ」


「ダメなの。シェルターの入り口が埋まっちゃってもう入れないの」


 アクトの乗っていたエレベーターが止まった。


「待ってろ! 今から助けに行く」


「わかった、待ってる」


 アクトはそのままガイファルドのハンガーへ向かった。


「セイバー!」


「はい」


 心を震わせるような声で名を呼ばれたセイバーは、アクトに言われるまでもなく彼の思いを察していた。


「合身!」


 床に片膝をつきアクトに手を伸ばすと、アクトはその手を踏み台にして膝に飛び上がり、すでに開いていた胸部の中のソウルリアクターに飛び込んだ。


「おい、アクト?」


 先に到着していたルークとアーロンの指示を待っていたエマ。声を掛ける時間もないままアクトはセイバーとの合身を済ませた。


「どうしたのアクト?」


 エマがそう言ったときはセイバーはイカロスが格納されている階へ行く昇降機に向かっていた。


「アクト、まだ発進の命令は出てない。待って」


 エマの言葉にも振り向かず、セイバーは昇降機に乗り込む。


「時間がない。リンが危ないんだ」


 ルークは立ち上がってレオンを呼んだ。


「エマ、行こうぜ」


 レオンとルークに続いてエマとノエルも昇降機へ。アーロンの指令を受けぬままに共鳴者と共命体はイカロスの格納庫に降りていく。


 イカロスに乗り込んだはいいがイカロスは発進準備の最中であり、まだ博士も剛田も搭乗していなかった。

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