Scene16 -1-
「1万年前の人間も核エネルギーを利用していたのだろう。ただ、放射能汚染や広域破壊が自分たちにも甚大な被害をもたらすことから、核の力を封殺する技術を用意した。それは当然セガロイドも同じということだ」
現在ガーディアンズ首脳陣は、対機械虫世界軍事同盟軍のF国奪還作戦について話し合っていた。
人類最強最悪の兵器である核を搭載した攻撃手段はムー帝国には通用しない。もし通用しても放射能によって戦地が次々に汚染されていけば、地球に人類が住める場所がなくなってしまうのだ。
「ソウルリアクターやスピリッツリアクターは、それらを配慮して造られた技術ということでしょうか?」
ガーディアンズの司令官アーロンの秘書であるハルカが博士に質問する。
「いや、ソウルリアクターやスピリッツリアクターはたぶん兵器じゃないんだと思う。ガイファルドや機動重機を兵器であるとするならそれは兵器の動力炉となるんだけど、あれらはAIの発する意思や共命者の命があって初めて稼働する物」
「直接的な武器になる物に搭載することはできないから兵器ではないと?」
「というよりも、僕からしたら生きるためのエネルギーを発する命の源というべきモノだな」
未知のモノに触れる楽しさをその表情に表しながら、博士はハルカの質問に答えていた。
「それはともかくとして」
横で聞いていたアーロンが脱線しかけた話を戻す。
「核ミサイルと言った強硬手段は意味をなさないことはわかった。となるとやはり力による各個撃破が最良。そのためには機動重機とガイファルドの強化は必須だ」
静かに、だが力のこもった声のアーロンに、博士は眼鏡を光らせて言った。
「ふっふっふっ、その点は抜かりはない。ことは順調に運んでいる」
博士の自信満々な言葉を聞いてハルカは察した。
「では、アクト君を襲うあの副作用も?」
「うん、機甲合身による疑似神経接続調整も完了。副作用も多少の違和感が残る程度まで低減した。レオンの強行型決戦兵装も完成間近。そして、あの機動重機も……」
「問題はパイロットか」
その言葉を聞いて3人は沈黙する。
戦力アップは確実なモノだがそれが敵に通用するかはまた別の問題。
機動重機ガンバトラーをA国に奪取されたことによって姿を現したA国の独立組織Peace。そのPeaceの持つ戦力【クライシス=ストライカー】はセガロイドのバーサーカーに対抗して見せた。それは喜ばしくもガーディアンズにとっても脅威となる可能性を考えずにはいられなかった。
小さな光明が見えつつもまだまだ迷走する戦況。そんな中でまたしても事件は起こる。
***
二十三時を回った神王寺コンツェルンのロボタウン。その上空を一機の飛行機が通過する。
本来ロボタウンの上空には国内線、国際線の旅客機が通ることはない。飛行機が通り過ぎたそのあとには降下してくる人影があった。
パラシュートを開きロボタウンに下り立ったのは三十名ほどの武装集団と小型ロボット数体。前身は黒い特殊スーツに覆われ、暗視ゴーグルや重火器、刃物を所持している。
謎の集団の侵入はすでにロボタウンのセンサーによって察知されており、ガードマシンが現場に向かっていた。しかし、それらを想定している侵入者によって次々と無効化されていく。ガードマシンはより武装された第二部隊が出動した。
「ロボタウンに武装兵。ガードマシン第一部隊は全滅しました」
極力重火器を使わずにガードマシンを沈黙させた侵入者たち。研究所は防火シャッターなど出入り口が封鎖された。
元々人の少ないロボタウンであり、時間が時間なために施設に残っている従業員は二十数名ほど。その者たちは警報を受けてすでに避難を開始していた。その中にアクトの姿もあった。
「なに? アクト君はまだ地上にいるのか?」
ガーディアンズも緊急点呼がおこなわれ共命者の安全確保をおこなったところ、アクトは仕事でロボタウンに残っていた。
「ルークは? ルークも居ないぞ」
「アクト君がまだ地上にいるって知ったら迎えに向かいました」
イカロスのオペレーター八島美紀がそう告げると、
「だぁぁぁ、なんで止めないんだ」
剛田が叫んだ。
「止めましたよ、止めましたけど。そんな言葉も聞かずに走っていっちゃったんです」
ルークはアクトの戻りが遅いことを知っていたため、すぐに確認して飛び出していったのだ。
「PRG《ピラーロボットガーディアン》をスタンバイだ」
剛田の号令でガーディアンズ基地のPRG部隊の機動した。
地上ではガードマシンに護衛されながらロボタウンで勤務していた者たちが研究所に向けて移動していた。
外灯などは次々に壊され、ロボタウンは暗闇に閉ざされている。
アクトはちょうど研究所に到着したところで侵入者の情報を聞き、急いで引き返していた。その引き返した先はリンのいる
(向こうにも避難する集団がいるな。ガードマシンは足りてるのか? こいつらはいったい何者なんだ)
ときおり銃声が聞こえる。非戦闘員である従業員に対して発砲するとなると穏やかではない。これまでにロボタウンに対してハッキングや侵入はあったが、物理的な攻撃である制圧するような戦闘行為はなかった。
走りながらそんなことを考えているアクト。
アクトはそれに反応して半身になって攻撃を避け、上着のフードを深々と被った。
「おまえたちは何者だ!」
アクトの問いかけには答えず、ひとりがナイフを抜いてにじり寄る。もうひとりは素手のまま飛び掛かってきたのをアクトは受け止め、力で引き剥がして腹部に横蹴りをお見舞いした。
蹴りを受けた侵入者は腹を押さえつつもすぐに構えなおす。
(特殊装備だな)
額のダブルハートによって常人離れした力を持つアクトの蹴りを受けても怯まないことから、彼らの武装が特殊装備であることがわかった。その事実によってスイッチを切り替えたアクト。同時に襲ってくるふたりを相手に腕を取り、絡ませ、ひとりは顎をカチ上げ、もうひとりはボディーアッパーを打ち込んだ。
それなりの力を込めた攻撃によって今度こそ地面に倒れるふたり。倒れたふたりにもう一発ずつ入れて完全に落とすと、武装していた武器を取り上げて遠くに投げ捨てた。
「リン、長谷川さん!」
施設に向かって足を踏み出したアクトは何かを察して横に飛びのいた。
遠方から銃撃をしながら走り寄ってくる侵入者。今度は五人だ。建物の影に隠れたアクトを銃撃しながら接近してくる者たちに、一台の車が突っ込んでいく。その車を避けた侵入者が、車から飛び降りた者に蹴り飛ばされた。それはアクトを助けるために駆けつけたルーク。
アクトは車が突進していった段階で建物から飛び出して侵入者をひとり無力化していた。
残りの三人はアクトとルークの超人的な動きに翻弄され、銃を乱射している。
弾薬が切れ、マガジンを交換させる間を与えず、アクトとルークは接近し、格闘戦へと移行。特殊装備で守られている侵入者たちを打撃で沈めていくふたり。どんなに厳しい戦闘訓練を積んだ特殊部隊の精鋭であっても、人の限界を超えた反射神経と運動能力を持つ共命者に勝てるはずもない。
苦戦を強いられた侵入者は戦いながら無線で援軍を呼んだ。
「こいつ仲間を呼びやがった」
「リンたちを連れて早く逃げないと」
「ならばそれはワタシにまかせてください」
五人目を倒したところで現れたのは共命者の護衛を任されたロイドだった。
「奴らはここに集まってきます。リンさんたちを連れて逃げているところで戦いになればあなたたちふたりの異常性を知られてしまいかねませんし、万が一があれば死者も出る可能性も考えられます。それが共命者であったなら、セガロイドに対抗する力を失うことになってしまいます」
「任せていいんだな?」
アクトが確認する。
「はい。施設に残っているリンさんや長谷川さんたちは建物の地下シェルターに避難しています。下手に逃げるより安全です。それに、この侵入者騒動だけで済まなければ、次の手は機動兵器の投入が考えられます。だから早く」
機動兵器が登場してしまえば、さすがに生身ではどうにもならない。ルークとアクトは急いで研究所に向かった。
「任せたぞ!」
車で立ち去りながら叫ぶアクト。その彼に手を上げながらロイドは首を少し倒した。その倒した場所に弾丸が通り抜ける。
彼の前には七人の侵入者と五機の小型ロボット。そして三台の柱型のロボットだった。
「アクトがこれを見たら逆上するのか恐怖で卒倒するのか。ともかく、こんな状況で顔を合わせない方が賢明ですからね」
まさしくその柱型のロボットは、アクトを殺しかけたPRシリーズと同系統の物。ロイドはアクトの心理を配慮して、素早くこの場を立ち去らせたのだった。
ガーディアンズ基地から出動したPRG部隊が応戦を始め、他の場所でも本格的に戦いが始まっていた。
「さて、ここまでされたら手加減はしませんよ。一万年前の遺物の力を見せてあげます」
自身の存在を『遺物』と言って、ロイドは潜入してきた特殊部隊に向かって足を進めた。
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