Scene11 -11-

 バルセイバーとウォリアーが繰り出した拳は同時に炸裂したが、重量で勝るバルセイバーが打ち勝ち数瞬早く態勢を戻す。


「おぉぉぉぉぉ」


 気合を込めて放った蹴りが横向きで踏ん張っている背中を叩いてウォリアーを前のめりに倒した。


 ウォリアーは両手を付いて前転して態勢を立て直すと、背後に迫るバルセイバーに裏拳を振り回す。それを腕でガードしたバルセイバーはガードしたその腕で殴り返した。


「凄い、あのウォリアーを力でねじ伏せてる」


「いいぞ、やっちまえ!」


 イカロスの艦橋では優勢に戦うバルセイバーを見て歓声が上がっていた。


 博士も剛田もシステムや構造的な心配はしつつも強行型決戦兵装と合身したセイバーの予想通りの性能に一安心していた。しかし、実際に戦場で戦っているノエルとレオンは厳しい目で戦況を分析している。


「あいつ本気じゃない、たぶん」


「だな。セイバーに合わせて戦っている」


 そう、ウォリアーの戦闘スタイルは高い運動性による回避からの連続攻撃。レオンたちとは能力差があったために回避はともかく攻撃一発で蹴散らされてしまっていたが、もしレオンとウォリアーが同格だった場合はレオンの方が攻撃力が高い。その分手数が多いのがウォリアーという階級だった。


 現状では正面からバルセイバーと殴り合っている。ウォリアーとバルセイバーがほぼ同格ならば、相手の得意分野で戦っているウォリアーが不利なのは当然のこと。だが、なぜかその戦い方を続けているのだった。


「(いいぞ、頭脳も機構も熱くなっていく。錆びついた体に力が漲ってくるようだ)」


 拳を叩き付けるごとに半歩ずつ後退していた古代の機械闘士は低い声で笑い始めた。その不気味さを感じながらもセイバーはこの流れを渡さないように、わずかな油断もなく新たに得た力を叩き付ける。


 右に左にと振り回されていたウォリアーだったがガードの上から叩き付けた拳の衝撃が頭部を揺らし、とうとう大地に倒れ伏した。


 以前は三対一で辛うじて撃退した黒い鎧を纏った闘士を、今度は一対一で打ち倒し見下ろしている。


 この戦いは優位に進めていたバルセイバーであったが、その共命者であるアクトには少なからず通常合身以上の負担がかかっていた。感覚の薄かった手足は痺れを感じ始め、さらにその手足を含め体が重くなっていた。


「おいセイバー、追い打ちだ! そいつはまだっ」


 レオンが叫んだときには飛び跳ねるように起き上がり着地と同時にバルセイバーに回し蹴りを放つ。


「うぉっ」


 それを左腕でブロックして後ろに三歩下がったバルセイバーが構えを作った時、ウォリアーは左の死角に回り込んでいた。


「この!」


 振り向きざまに右ストレートで迎え撃つもカウンターのパンチが腹部に突き刺さり、動きの止まったところで素早い拳が頭部を打ち抜き、今度はバルセイバーが大地を背にして倒れた。


「(さあ立て。戦いはこれからだ)」


 一歩後ろに下がりあきらかに挑発しているといった仕草で待ち構えるウォリアー。


「舐めるな!」


 バルセイバーもスラスターを使って跳び起きて、その勢いのままに攻撃を仕掛けた。


「せいっ、せやっ」


 先ほどまでとは違いバルセイバーが繰り出す攻撃の半分は空を切り、その度に的確に反撃を食らっていた。素早いフットワークと手数が増え、ウォリアーの得意とする戦闘スタイルでバルセイバーのパワーファイトに対抗する。


 二体の巨人の力は拮抗していたがバルセイバーにとって戦闘スタイルの噛み合わせが悪く、さらに自分のペースに持っていくスキルがアクトには足りていなかった。


 もしこれがレオンであったのなら相手の速さと手数を力と技で相殺できたであろう。


 他にもバルセイバーにとって不利な条件があった。それはバルサーとの機甲合身による疑似神経接続が完全ではない点とコアとなるセイバーの出力不足だった。


「強化外装の稼働効率が下がっています。このままだと最低稼動圧力を維持できなくなります」


「バルサーは本来の1500万馬力以上で最大効率を発揮する設計だ1000万足らずのセイバーでは……」


 現在のセイバーの出力は約900万であり、戦闘による消耗により少しずつ低下している。


「博士、出力が800万を切れば強化外装はただの荷物になっちまうぞ」


 開発責任者の剛田はセイバーから送られてくる情報をハラハラしながら睨んでいた。


『腕が、足が重い。手足の反応も実感できるくらい遅くなってきた。感覚は薄いのに痺れは強く感じやがる』


 タイムラグにしてコンマ二秒。アクトの動きに強化外装が遅れてしまう。これは敏捷性の高いウォリアーを相手にする上では致命的なことだ。


「プログラムを修正する。剛田さんはアレの最終チェックを」


「使えるのか?」


「きっとアクト君は使うだろう。現状はセイバー側からの起動はできない。こちらで適切にオペレートするしかない」


「わかった」


 長期戦になれば不利。そう判断した柳生と剛田は、勝利へと続く道にセイバーを導くために作業に取り掛かった。


 一時は善戦していたバルセイバーであったが、未調整の兵装とアクトの未熟さにより少しずつ押され始める。ルークとロイドの指導によって格闘能力は向上したとはいえ、その型をなぞるにはやはり思考から行動への時間が掛かる上に、強化外装への伝達ラグと合わせればウォリアーにとっては止まっているに等しい。ましてや機動格闘特化型のセガロイドはバトルモードに移行したことで最大の能力を発揮している。


 二度目のダウンを喫したバルセイバーを見たガイファルドたちは立ち上がり、残った力でソールリアクタに活を入れた。


「(そうだ、貴様らの底力を見せてみろ。三体なら前回のようにギリギリの戦いが楽しめるかもしれんからな)」


「やってやる」


 レオンにもウォリアーの挑発が伝わり、沸々と心を燃え上がらせる。ノエルも声には出さないが、自分の力の無さに苛立ちを覚えてその思いを力に変えた。


「待て、こいつはオレがやる。もう勝ちは見えているんだ」


『強がりだ』とふたりは思った。


 本来なら膝が震えて立っているのも難しいようなアクトの精神状態なのだが、それでもなおこんな言葉が出る理由。それは、以前感じたあの恐怖に比べれば大したことはないこと。それと、まだ自分は全力を出していないということ。そして、自分を支えてくれる仲間を信じていること。


 事実アクトの精神をモニターする端末には以前のような異常値は表示されてはいない。自身の戦闘スタイルもまだ定まっていない上に常に相手のペースに飲まれている。イカロスでは仲間が必死でサポートしてくれているのだった。


 そしてもうひとつ、あのとき発揮された未知の力が自分の中にあるという心の支えだった。


 あの力がどういったモノかはわからないが、神王寺ライトというヒーローに憧れるアクトにとって、自分も同じヒーローになるための特別な力があるんだと自分を高揚さてくれる。あの力はそういった妄想に乗っかるための恰好の材料になっていた。


 その妄想じみた考えから引き出される集中力がこの戦いの流れを引き戻した。これはウォリアーにとっての分析できない謎の感覚だった。


『(こ奴は今まで戦ったバドルとなにかが違う。強さとは違う力がフォースから感じる)』


 まさかその迷いとなる原因の一端が妄想力であるとは欠片も思わないだろう。例え知ることができても理解はできるはずもない。それは仲間であるルークもエマも同様だった。


「いくぞ!」


 自らに向けて放った言葉に体を後押しさせてバルセイバーは踏み出した。そしてここからの戦いは再び拮抗した乱打戦となっていく。


「強化外装バルサーの損傷率十六パーセント。さすがの新素材ですがマニピュレーターと肘のアクチュエーターへの負担が大きいです」


 予想はしていたことだったが強固な外装を導入したことで関節部への負担が増えてしまった。本来なら機動重機へ先に導入してテストをおこなうところなのだが、時間の関係でガイファルドの兵装が先になったことが原因だ。もしセイバーの出力が適正値であったなら更なる負荷がかかっていた。


 この関節部のダメージは疑似神経を通してセイバーへ、セイバーからアクトへと伝わるはずなのだが、幸か不幸か感覚の薄れと痺れの強さによって正確には伝わらず、バルセイバーは全力で腕を振り回す。


 二度、三度とウォリアーの頭が弾かれる。


『(なぜだ、俺の方が動きは早いのに、なぜこ奴は追従できる)』


 プログラムの補正によって動作の遅れをコンマ二秒からコンマ一六秒というタイムラグになったとはいえ、手数足数の半分は空を切っていたバルセイバーの攻撃がウォリアーを捉え始めた。自身の被弾の数は減ってはいないが、相打ちによってそれを相殺している。


「すごい、セイバーの反応」


「あぁ、反応なのか先読みなのか予知なのかわからねぇが、あいつの動きを確実に捉えている。戦い方も俺やロイドが教えたのとは全然違う」


「それが結果的にいい方向に出てる?」


「そうかもな」


 バルセイバーの戦い方はルークに教わっていた空手を原型にした戦闘スタイルではなく、ウォリアーと似た素早く動き回る機動格闘となっていた。運動性も機動力も劣ってはいたが、集中力が高まったことで発現したセイバーの感覚力増幅というフォース特性によってその溝を埋めるているのだ。


「(面白い……、面白いぞっ!)」


 歓喜とわかる叫びによって出力を上げたウォリアーの周りの力場が圧力を増す。


 その負荷によってセイバーの力はそがれていき、強化外装の最低稼動圧力の限界も迫っていた。それによって交互に近い打撃戦を制し始めたのはやはりウォリアーの方だった。


「セイバーのリアクター出力820万を切りました」


 八島の悲痛な叫びによる報告が艦橋に響いたそのとき、


「作業完了!」


 同時に柳生は強化外装となったバルサーへプログラムを転送する。


「(沈め! 異質なバドル)」


 今までに何度か見せた赤熱する拳を構え、トドメとばかりに踏み込んできた。


「おまえがな!」


 相手がなんと言ったのかわかったように言葉を返したバルセイバー。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 今ある力を注ぎこむために気合の咆哮を上げるバルセイバーに合わせて剛田も叫んだ。


「スピリットリアクター起動!」


 機動重機にも搭載されているAIの精神波に連動して力を発揮する動力炉であるスピリットリアクター。バルサーにも搭載していたそのリアクターがアクトの気合の心に反応してエネルギーを生み出していく。その力がウォリアーが展開する力場の中を押し進ませた。


 少しのけ反った状態から豪快に腕を振りかぶる。合身時にせり上がった右手首の装甲が元に戻り拳をナックルガードが包んだ。そのスライドしたナックルガードの根元から、手首が回転を始めた。


 「スマッシャーナックル!」


 互いの大技が互いの顔面を捉えた。


 赤熱した拳を受けたバルセイバーはヘッドギアの右頬を砕かれ、上から打ち下ろされる高速回転の拳を受けたウォリアーは右頬の外皮と削り取られ後方へたたらを踏んだ。


 態勢的に優位なバルセイバーはいち早く立て直して深く踏み込んだ。


「ハンマーニーッ!」


 膝に装備された突起が大きなダメージを負っているウォリアーの脇腹に突き刺さった。破損している鎧は完全に砕け散り、外皮を突き破って内部を破壊する。


 スピリットリアクターによって出力を上げたセイバーの膝蹴りを受けて、もんどりを打ちながら後方へ吹き飛んだウォリアーだったが、なんとか両足で着地をするとそのまま後方へ跳躍するために後ろに倒れながら膝に力を溜めた。


 右腕同様に左腕のスマッシャーナックルを構えて振るった拳は、寸でのところでかわされてしまう。


「逃がすか!」


 後方へ飛び下がったウォリアーを追いかけるさなか、先の戦闘で弾かれて地面に突き刺さっていたブレードロッドを掴み取ったバルセイバー。ありったけの推力で接近しつつ、のけ反らんばかりにブレードロッドを左肩に担ぎ上げる。


 迫るセイバーをあざ笑うかのようにその機動性と俊敏性に加え、推進システムによって距離を取ろうとする鎧の闘士は、損傷著しい脇腹を押えながらも反撃のための思考を完了していた。


『(間合いを開けて態勢を立て直し、深追いしてきたところにカウンターを叩き込む)』


 一度目の跳躍は確かにきわどい回避運動であったが、今度の跳躍は誘い込む罠であった。退避する方角にはウォリアーの武器である槍が転がっている場所で、これを回収して反撃するのが狙いだ。追いつかれるギリギリで大振りの攻撃を回避し、槍を回収して反撃する時間を作る。


 大きく振りかぶったままのセイバーがウォリアーの着地した場所に向かって飛び込んできた。


 ウォリアーは着地と同時に次の跳躍に備え膝とスラスターに溜めを作る。


「うぉぉぉぉぉ!」


「やっちまえー!」


 仲間の声援を受け、それを力に変えたバルセイバーは叫んだ。


「メガロザンバー!」


 瞬間、スラスターの噴射と同時に勢いよく後方に飛び退き、バルセイバーが振り下ろした剣は手負いのセガロイドをかすめることなく空を切った。


 それと同時にセイバーは前のめりに倒れてしまう。


 誰もが諦めの思考が頭をよぎったであろうそのとき、低空を猛スピードで飛んでいったウォリアーは、空中でふたつに分断されて槍を掴むことなく大地に転がったのだった。


 ***********************************

 続きが気になる方、面白かったと思った方、フォロー・応援・感想など、どうぞよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る