Scene10 -5-
約半月前の某国某地にて。
「いつまで奴らに大きな顔をさせておくつもりだ。小さな島国の一企業がこの世界の運命を握っているんだぞ。それをおこなうのは我が国でなければならないはずだ」
低く落ち着いた声ながら煮えたぎる感情を込めて話しをする男。
仕立ての良いオーダーメイドのスーツを着こなし、奇麗に整えられた口ひげを指でなでながら話している。三十になろうかという年齢で精悍な容姿をしていながら上に立つ者の圧を持っていた。
「はい、それは私もそう思っております。しかし、いまだ奴らの技術を手に入れることができず……申し訳ございません」
対して、がっしりとした体を小さくし、腰を九十度に曲げて頭を下げるその男は、五十歳を超える政界の大物。いや、大物という言葉では足りない。この国のトップに立つ男だ。
「諜報員は多数送り込んでいるのではないのか?」
「はい、しかし行動を開始すると連絡が途絶えてしまいまして……申し訳ございません」
かいた冷や汗を拭くこともせずにその者は終始謝り続けていた。
「あれを使うには現代の技術だけではどうしても足りん。なんとしても奴らの技術を手に入れて我が国の力を示して見せろ。そうすればくだらん仲良しごっこに付き合う必要などなくなるのだからな」
「おっしゃる通りです」
これまでにこの国が手に入れたオーバーテクノロジーは低級機械虫のコアだけだ。だが、それはどの国も同じであり、他国を出し抜いたわけではない。あとはそのコアからどれほどの技術を解析して再現と応用できるかが各国の腕の見せどころだった。
もちろんそれだけで満足するほどどの国も謙虚ではない。お互い出し抜くために水面下ではいろいろと動いてはいる。その第一の標的がGOTが誇る対機械虫防衛機動重機だったのだ。
AI技術を筆頭に強固な装甲材、柔軟で強靭なフレームとその連結機構。耐久性の高い駆動部と人間に近いスムーズに連動する制御システムなどなど。
「可能であればあの巨人たちを手に入れたいところだが、さすがにそれをお前に期待するのは高望みだと理解している。今はな……」
「もうしわけありません、今しばらくお待ちください。近いうちに必ず手に入れて例の物を完成させてみせます」
「良い報告を待っているぞ」
そこまで言うと深々と椅子に座っていた男は一瞬にして姿を消した。
それを確認した初老の男はそこでようやく噴き出た汗をハンカチで拭う。
今の権力の座と共に寿命までも削られるのではないかと思うほどの圧から解放され、コップに冷水を注いで一気に飲み干した。
トントン
一息ついたところで扉をノックする音がし、衣服を整えてから返事をする。
「失礼します」
部屋に入って来た女性はその男に一礼をしてから要件を伝えた。
「先日の機械虫群との交戦地帯を探索した結果、特殊な金属片を回収することに成功しました」
「本当か?!」
先ほどまでの息苦しさが嘘のように男は覇気のある表情で確認する。
「はい、大分劣化が激しいようですが、停滞した今の状態から脱却する足しにはなるかと……」
「よし、すぐに解析を開始するんだ」
「かしこまりました」
男の指示を受けて女は部屋を出ていく。
部屋に残った男は安堵の吐息を漏らしたあとにいやらしく笑った。
「まだ終わらん。私は必ずこの上に進んで見せる」
世界平和には似つかわしくない笑みを漏らす男は、この国の大統領ラリー=ヘイズだ。
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