Scene8 -6-
レオンは機械虫の周辺を覆う濃密な力場を押し広げて進んでいた。自分の強さの芯となっている打撃術が反撃するまでもないという扱いをされたことに激しい怒りを覚え、その機械虫を睨み付ける。
それが作用してか、ソールリアクターの出力は最大値を更新し、目には見えないがレオンの体をフォースフィールドが取り巻いている。
「落ち着け、怒れば強くなるわけじゃない。確かに出力は上がっているが、それだけ倒せる相手じゃないだろ。もうすぐノエルが到着する。一緒に戦うんだ」
博士がなだめるのだがその言葉はレオンの耳には入っても頭までは届いていなかった。
「ぜあっ!」
レオンの感情を乗せた拳が無防備な頭部を揺らす。右、左と凶器と化した両手両足に狂気とも取れる気勢を乗せて乱打していた。
イカロスの到着まであと四分。レオンが乱打を続けていると、大型機械虫の背中で爆発が起こった。数秒の間隔を空けて二発、三発。徐々にその時間は短くなり、本格的な砲撃爆撃が始まった。その攻撃はS国の援軍として集結した世界軍事同盟軍のモノだった。
直下にS国の重要施設があることで一時攻撃を制されていたが、エネルギーを吸収されているという事態の緊急性を鑑みて、機械虫の脅威度が上回り、攻撃を開始した次第だった。
動かない大きな標的に対して膨大な火力が集中する。レオンはそんなことは気にもせずに全ての攻撃に一撃必殺の思いを込めて打ち込んでいた。
同盟軍の攻撃から一分と少々経った頃、機械虫がグラグラと動き出した。一見激しさの増す同盟軍の攻撃にとうとう根を上げたように見えなくもなかったが、そうではではない。
そのとき、今まで無言で打撃を打ち込んでいたレオンが後ろに跳び下がって左腕を振り払った。
一瞬、着弾したミサイルの爆炎が全て拭き払われた。それは機械虫のエアロバズーカとも言える攻撃をレオンが弾いたからだ。
「ギルギルギルギル」
どういった意味があるのか不明だが、機械虫が音を発する。
「どうした蜘蛛もどき。俺の攻撃は効かないんだろ!」
レオンの攻撃はとうとう分厚く強固な機械虫の装甲を割り砕いた。
怒りを込めて打撃を繰り返していたレオンの体は一回り大きく変化していた。
たまらず片方の触覚を引き抜き攻防一体の鞭を振るいだし、八つ当たりのように上空を旋回していたヘリが三機撃墜された。
「もう一本の触覚も使わせてやるぅ」
巻き舌ぎみに吠えるレオンは衝撃波に耐えながら最小限の動きで鞭を回避しつつ右手にフォースを集約しはじめた。
「さんざん邪魔しやがて」
溜まりに溜まったフラストレーションが形になったようにその右手が激しく光る。
打ち放ったエアロバズーカをかざした右手で受け止めたレオンは、咆哮を発して殺気をはらんだ凄絶な右手を突き出した。
目玉に叩き込まれた機械虫の頭部の一部が内側からはじけ飛ぶと、機械虫は残るもう一本の触覚を地面から引き抜いてのけ反った。
こんなに早く動けたのかと思うほど、バタバタと暴れる機械虫は無茶苦茶に触覚を振り回して暴れ狂う。触覚が巻き起こす衝撃が接近してきていた同盟軍の部隊の一部と仲間である機械虫を薙ぎ払う。
ひとしきり暴れた大型機械虫は再びその場に鎮座してエアロバズーカをレオンに撃ち出した。
さすがのレオンもそう何度もそれを防ぐ力はなく、離れすぎないように距離を取りながら回避を続けると、その攻撃がぱたりと止まる。
「撃ち疲れちまったか?」
新たな攻撃や不意の一撃を警戒して様子を見ていると、機械虫はブルブルと振動をし始める。
その動きに何事かと身構えるとズドンと何かが落ちて地面を震わせた。
よく見ると、腹部の下に腹部と二回り小さい物体が置かれている。
「ギィィィィィィィィィィ」
この叫び声に合わせて取り巻きの機械虫が動き出した。
総攻撃かとレオンが構えを取るが、機械虫はレオンではなく叫びを上げた大型の機械虫へと集まっていく。
『連結する気なのか?!』
更に強くなるのかと一瞬焦ったレオンだったが、次の行動を見て呆気に取られてしまった。
なんと機械虫たちが逃走して行くのだ。
「はぁ?」
ただし、ただ逃げていくわけではなく、大型機械虫の腹部から落とされた物を担ぎ上げてだ。
今までにない機械虫の行動パターンに柳生博士も固まっていた。
そして、十数秒の熟考の上レオンに指示を飛ばした。
「あれはたぶん吸い上げたエネルギーに違いない。あれを持って行かせるな!」
「おう!」
レオンが走りだす。前方に立ちふさがる巨体を迂回し追いかけようとすると、驚いたことに機械虫は飛び上がってレオンの前に着地した。
「うげぇ、こいつ跳びやがった」
そのままレオンに向かって襲い掛かるスピードは、速いとまでは言えないが軽やかなもので、レオンを踏みつぶそうと前脚が持ち上がる。踏み下ろされたその脚を二発蹴り込んだレオンは逃げていく機械虫を追って飛び上がった。
「待ちやがれ!」
滑空し始めた直後のレオンを機械虫は触覚を使って叩き落とし、再び回り込んでレオンの前に立ちふさがった。
「軽くなって良く動くようになったじゃねぇか。邪魔をするならお前を倒してから追いかけるまでだ」
機械虫は巨大なタマゴのような物体を切り離したことで、幾ばくかの機動性と敏捷性、それなりの運動性を手に入れた。その点で言えばレオンの方が圧倒的に有利なのだが、巨体の持つパワーと触覚の速度と合わさることで、明らかに強くなっていた。
何より強力な力場は顕在なため、消耗著しいレオンはその中を動くことにも力を費やさなければならなかった。
援護なのかレオン諸共なのか半別の難し同盟軍の攻撃が再開され、流れ弾も避けなければならないレオンは戦いに集中できない。そうこうしているうちに時間は過ぎていき、タマゴ担いだ機械虫は地平線の彼方へと消えていった。
「ったく邪魔なんだよ。お前らの攻撃が届いてないのがわからないのか」
愚痴を吐きながら動き回っているレオンに向かって踏み下ろしてきた機械虫の脚を何かが弾いた。バランスを崩し傾く機械虫に、更にミサイルの雨が注いで爆炎に飲み込んだ。
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