Scene7 -5-

  柳生博士と花田所長の許可をもらい、アクトとリンはロボタウンから自動車で十分程度の市街地にあるレストランまでやってきた。店内に入って座席に案内されると彼女はすぐにアレもコレもと適当に注文を済ませる。そして、水を一口で飲み干してから目の前に座るアクトの目をじーっと見つめた。


  「で、アクト。体の具合は本当にもう平気なの? あのあと私を逃がしたてからはどうなったの? 誰がどうやってどこの病院に運んだの? 私たちには詳しい内容が全然知らされてなかったんだよ。脳の損傷って言っていたけど後遺症は? 博士はどうしてアクトのことろに?」


  矢継ぎ早の質問におののきながら、アクトはひとつずつリンの質問に事前に用意していた答えを伝えた。なぜ準備していたのかというと、車でここに向かう途中に博士からこの事態を想定した内容のメールが飛んできたのだ。


  解答シナリオはこうだ。


  あの柱ロボに肩を撃たれたことは正直に答え、そのあとの機械虫の乱入で頭部を強打してしまい、そのまま意識を失った。巨人が現れて機械虫と戦っているところに近くに居た博士が駆け付け救出し、博士の知人である脳科学の次世代研究施設に連れて行かれ治療処置を受ける。ただし、そこは病院ではなかったため、治療と言う名目での手術はできない違法行為であったので、公に場所や名称を出すことができず、詳しい内容を伝えれなかった。


  というものだ。


 アクトは回答の最後に、このことは内密にと一言添えて締めくくった。

  話を聞き終えたリンは長らく喉につっかえていた物が取れたという緩んだ表情で一息吹いた。


  「そうだったのね。病院で意識不明って聞くまではあのロボットに殺されたんじゃないかとか、機械虫や巨人に踏み潰されたのかもしれないなんて考えたりなんかしてね。生きてるってわかったときはそのまま目を覚まさないかもとも思っちゃったりしたしさ」


  先ほどまでとは違い、彼女は瞳を潤ませることなく笑顔で話す。


  「確かに死ぬかもって思ったけど、それ以上に死ぬもんかって思ったよ。なんせオレは機械虫を根絶やしにする男だからな。こんな目にあったけど奴らと戦う力を手に入れられた」


  「戦う力?」


  リンの聞き返しによって口を滑らしたことに気が付き、


  「いや、ほら。博士の助手ってことだから機動重機たちの戦力アップに大きく貢献できるってことじゃん」


  「そうね、パイロットより安全だし、私的にもその方がいいと思うな」


  目をそらしながら少しうつむいて発した彼女の言葉だったが、アクトが思ったのは、


  『機動重機パイロットよりもっと危険なんだけど、これは絶対に言えないな』


  というものだった。

  その後は、アクトの欠勤中の仕事の進捗状況や今後の研究計画についての話し、食事をしながら趣味や世間話といった他愛のないことで談笑した。

  楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、アクトはリンに送られて本部研究所に到着する。


  「本部の仕事は大変だと思うけど頑張って。たまにはこっちにも来てよね」


  「もちろん。そっちも研究実験頑張れ、いい結果が出ればすぐに見に行くからさ」


  お互い手を振って別れ、アクトは戻って行くリンを見送った。

  少しの寂しさを感じつつ立っているとブレスから呼び出しのベルが鳴り、応答すると博士から本部研究所のミーティングルームに来るよう言い渡された。すでに本部の入り口に来ていると伝えてからピラミッド型の本部研究所に入ってエレベーターで指定されたミーティングルームまで上がる。

  ブレスのキーで扉を開けると中には博士と剛田の姿があった。


  「あれ? 剛田さん」


  「デートは楽しんできたのか?」


  「いや、デートってわけじゃないですけど、まぁ楽しんでは来ましたよ。それよりなんで剛田さんが?」


  「何でって、それはお前、俺がここの従業員だからに決まってるだろ」


  「あっ、剛田さんもなんですか」


  博士もルークもそうなのだから剛田がここで働いていても不思議ではない。なんといっても神王寺財閥はガーディアンズの言わばスポンサー企業なのだから。

  棚に置いてある珈琲メーカーで珈琲を注いだカップを三つテーブルに置いた博士は、プロジェクターのスイッチを入れる。そこに映し出されていた物を見てアクトは思わず「おーー」と声を漏らした。


  「君の初出撃の前に一緒に話した新兵装を図面にした。一部はもう試作を終えて試験に入っている」


  ひとつめは前回の闘いでも使用したガン・スタイル。

  ハンドガン、サブマシンガン、ライフルと可変するバリアブルガンで質量弾とエネルギー弾を撃ち分けられる。バックパックに積まれたバッテリーで作ったエネルギー弾をガイファルドのフォースによってコーティングして射出できるようになる予定だ。

  高エネルギーを無理やり高圧縮したフルバーストを使うと射出機構も砲身もその力に耐えられず使用不能になってしまう欠点を持つ。

  現状では機動重機の動力でエネルギー弾を使うと本体の稼働効率が落ちてしまうため、エネルギー弾はガイファルド専用機能となっている。


  ふたつめはヘビーアームズ・スタイル。

  ガトリングガン、ロケットランチャー、ホーミングミサイル、マシンキャノン、グレネードランチャーなどなどを搭載した兵装なのだが、あまりの重量に開発が難航していた。それを先日アクトのアイディアで一部改修がおこなわれ、現在実験機が製作中だという。


  三つめはジェットスタイル。

  空中戦用の兵装でマイクロミサイルとマシンキャノンと誘導弾を装備しているが重量の関係から装弾数は少ない。現段階では自由に飛び回る空中戦用というよりは移動手段程度の性能でまだまだ思案中の代物だ。もし空を飛ぶ機械虫が現れたらという事態に備えて開発をしている。


  そして、四つめはシューティング・スタイル。

  ロングバレルの狙撃専用兵装。セイバーが初陣で使った試作型のスナイパーライフルの実験型で、これも質量弾だけでなくフォースでコーティングしたエネルギー弾を発射できるようにするという構想している未製作品。ガン・スタイルとの併用も検討中だ。


  五つめはブレード・スタイル。

  刀剣類は現状ダガーだけであるが、理想としてはロングソードやランスといった長物も用意したいと考えられている。だが、ソードのように十メートル近い刀身は強度的に問題があり、強打すれば簡単に折れてしまう。そういった実状により太く短いダガーしか製造できないでいるのだった。


  最後はアーマード・スタイル。

  接近格闘用の重装甲兵装なのだが、当然重すぎて運動性が落ちては意味がないので、一番開発が難航しており、半ば放置状態となっていた。

  ここでチーフメカニックである剛田がヘビーアームズ・スタイルを指して鼻息荒く解説した。


  「アクトが出したアイディアを元に重装甲を前面に集中させて背面は武装弾倉とすることで三十二%の軽量化することができたぜ。今後はシューティング・スタイル同様にフォースを使ったビームガトリングの開発をしていく予定で、完成すれば装弾による荷重はなくなる。そのためにはバッテリーバックパックよりも軽量なジェネレーターの開発が必要になってくる点と撃つたびに共命者に負担は掛かる点をクリアする必要がある。改善点はあるが最低限の機動力は確保したし、後方支援がメインならこれで十分だろう。軽量化と装甲材に関しては今後も研究を続けていく。これはアーマード・スタイルの製作を再開するにあたっても必須事項だからな」


  「そうだね、実際活用するガイファルドのバージョンアップも考えていかないと。現状では背面スラスターくらいしかデフォルトから変更点はないし。プログラムがとんでもなく大変な上に共命体ごとに作らないといけないからそれを考えると頭が痛いよ」


  博士はボリボリと頭をかきながらも言葉とは裏腹に笑みを見せていた。


  「プログラムってどういうことですか?」


  「うん、まだ話してなかったね」


  アクトは急遽ガイファルドの共命者となったので、それらの知識を教わる順番がバラバラなのだった。そのため、その都度思いついたときに教わるという非効率な事態になってしまった。ここでようやくレオンとノエルの背面スラスターはプログラムをインストールして生成されたのだと知った。


  「そんなことが可能なんですね」


  驚き顔のアクトに「セイバーが自力で作り出したことの方がよっぽど驚きだぞ」と博士と剛田は言うのだが、自覚がないのでなんとも言えない複雑な気分のアクトだった。

  だが、今のバックパックスラスターは不完全なため再度修正パッチを当てて出力のアップと高効率化をするとのことだ。やはりアクトの知識で急増した物では完成度がいまいちらしい。


  「と、現状ではこんな感じだ」


  「んじゃ俺からひとつ。ジェット・スタイルについてなんだが、このままだと機動重機のライトブースターと同じ物になっちまうんだわな。あれはゼインのスラスターとライトブースターのスラスターを使うことで瞬間的な加速をおこなう出力を稼ぎ出したんだが、飛行という面に関してはロケットエンジンを使っていた」


  つまり始動に時間が掛かり重量もかさむ。あくまで移動用であって戦闘に使えるような代物ではなかった。現状のジェット・スタイルのジェットパックはそれを若干の小型化といった程度に留まっていた。現在研究中なのがプラズマインパルスドライブの縮小化であるが難航している。


  「道のりは遠そうですね。でも、このブレード・スタイルは形だけはなんとかなりそうな気がするんですけど」


  何気ないアクトの言葉にふたりは眉根を寄せた。


  「ブレードの素材は装甲素材よりも難題なんだぞ。漫画やアニメのように剣同士で打ち合うなんてことをしたらあっという間にボロボロになって折れちまう」


  剛田の言うことはもっともなことでアクトもそれは承知している。だが、アクトは機動重機パイロットになったあかつきには是非剣を振るってみたく、いろいろ考えていたのだ。


  「我々の持つ技術で最高の強度を金属は君も知っている通り機動重機の装甲材に使っているビルバボル合金αⅡだ。しなやかさを持つ強度のある装甲材だが、剣のように薄く刃に形成するには向いていないし、鉄のように鍛える物でもない。それと局所的に装甲を覆ている硬度の高いインパシブール合金Kはノエルが愛用するダガーにも使われているが、分厚く短くすることでなんとか実用性を保っているんだ」


  「なので、オレが考えたのはですねぇ……」


  とアクトの説明を聞いたふたりは「え?」と声を揃えた。


  「実用的という点ではそれでいいと思うんですよ。あくまでオレがそれでいいと思っているだけで、ふたりが思い描く完成品ではないでしょうけど」


  ふたりは少し思案してリズミカルに首を縦に揺らした。


  「確かにそれはそれで一理ある。面白い着想だ」


  博士は思案し続けながらつぶやく。


  「有りっちゃ有りだが、それって名前負けしてるよな」


  とイメージ的にしっくりこないところを気にする剛田だった。しかし、結局正義のロボットに剣は必要不可欠だ! という三人の総意によって試作してみることが決まった。


  「じゃぁその製作は俺に任せてくれ。構造はシンプルだからそれほど時間はかからんだろう」


  こうしてその後もあれやこれやと楽しく話しながら、アクトを交えた第二回新兵装企画会議は二時間あまり続いたのだった。

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