Scene6 -4-

  「現在確認されている侵入者は一名。全身黒い特殊なスーツに身を包んでいます。PRG部隊第一号から第八号を出動させました。共命者は自身の安全を最優先して、急ぎハンガーへと向かってください」


  PRG

ピラー・ロボット・ガードマシン

の出動が宣言される。けたたましい警報と点灯する黄色いライトが緊張感をより高める。


  『侵入者? 確かここは数百メートルもの深さの秘密の地下基地だろ』


  「アクト、トレーニングルームのエマと合流してハンガーに向かうぞ」


  「侵入者ってなんだよ、こんなところに侵入してくる目的ってなんだってんだ?!」


  アクトは思考の続きを言葉に出した。


  「知らねぇよ。知らねぇけど考えられるヤバい目的は俺たちの命だろ。狙いはダブルハート」


  それはアクトもそうではないかと心の片隅で思っていたことだ。あの殺人ピラーロボットの仲間が基地に潜入してきたに違いない。アクトの脳裏にあのときのことが蘇る。命を狙われる。ピラーロボットに、機械虫に。そして今度は侵入者に。急に手足の力入らなくなって転びそうになった彼の腕をルークが掴み上げた。


  「アクトいそげ!」


  後ろから襲われるのではないかという恐怖に駆られ、ふらふらしながらルークのあとを必死で追いかけた。通路を右に曲がった先のドアにルークが入り、続けてアクトも飛び込む。


  「おまえは?!」


  トレーニングルームに入ったその場所に立ち止まり叫ぶルークが向ける視線の先には、黒いマスクとスーツを纏った者とエマが戦っていた。

  すぐさまエマの加勢に駆け出すルーク。それを確認した黒い侵入者はエマが持つ訓練用の二本のダガーを巧みにかわし、エマを蹴って壁に叩き付けた。


  「野郎!」


  後ろからルークが攻撃を仕掛けるも、まるで背中に目があるかのように攻撃を捌いて反撃する。その動きだけで侵入者の強さが超人的だということがわかる。

  格闘術ではエマを上回るルークだったが侵入者は互角に渡り合っている。その戦いは訓練で見たものよりも更に速くて力強かった。


  「アクト、今のうちにエマをっ」


  ルークは戦いを見入っていたアクトに指示を飛ばす。その言葉に反応して力の入らない膝に活を入れてエマのもとに走った。

  そんなアクトに向かって侵入者はナイフを投げつけ、倒れながら滑り込むとナイフは深々と壁に突き刺さる。


  「おいエマ!」


  見た目に大きな外傷はなさそうだが壁に叩きつけられたときに後頭部を強く打って気を失ったようだ。肩を担ぎ連れていこうとしたところでルークの攻撃をかいくぐって侵入者はアクトとエマに向かってくる。

  突き出された蹴りを腕でガードするがエマを担いだまま再び壁際へ押し戻された。その蹴りは腕の骨を砕かんばかりの威力でアクトの命と心にわずかな傷を負わせた。その傷がまたしてもアクトの恐怖心を煽り、呼吸を乱し心拍を乱す。

  格闘の達人であるルークを物ともせずに、アクトとエマを狙うほどの強さを持った侵入者はおおよそ人間とは到底思えない。既にアクトは逃げる力さえ失っていた。

  激しい戦いを繰り広げるふたりに変化が起こったのはルークが苦し紛れに落ちている訓練用の剣を拾い振り回したときだった。


  「よけろ!」


  アクトは思わず叫び、ルークはその声を聞いて弾けるように後ろに跳び退く。

  侵入者が背中から引き抜いた大型のダガーがルークの前髪と制服の胸元をほんの少し切り裂いた。

  「こいつ、なんて強さだ」

  侵入者は一瞬アクトを一瞥した。その隙を見逃さずルークが攻撃を仕掛けるも、武器を用いた同士の闘いでは圧倒的にルークが不利であり、容易に弾かれた剣がアクトの前に落ちて転がる。


  「くそ!」


  ルークは悪態を付きながら大型ダガーの一閃を跳び避けて、散らばっていた訓練用の手甲に腕を突っ込ん直後、キーンという甲高い音を発して侵入者の攻撃を十字受けによって防ぐ。


  「せやー!」


  格闘スタイルに戻ったことで戦況を押し戻のだが、本来は不用意に飛び込んではならない凶器を使用する相手に対してしてルークは果敢に前に出ていた。

  腰を落としてどっしりと構えるのがルークの本来の戦い方なはず。その違和感にアクトが気が付くのはルークが息吹によって乱れた精神を整え気の流れを高めたときだった。

  それを隙だと判断したか、侵入者はルークではなくアクトに向かって踏み込んだ。


  「しまっ!」


  遅れてルークも踏み出すが一歩及ばない。侵入者が振り上げた凶悪な輝きを放つダガーはアクトの脳天へと落とされる。すくみ上がるアクトはそれがハッキリと見えていたが動けない。手を伸ばすルークにも絶望が走り抜けたとき、金属音と共に侵入者は押し戻され膝を付いた。

  この危機的状況からアクトを救ったのはPR3だった。

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