第466話 大人の事情

一ヶ月間、静かに過ごして居ると、その平穏を打ち消すかの如く皇帝君から連絡が入った。


「よう、兄弟! 塩採取工場出来たぜ!」と嬉しげな皇帝君の声が通信機から聞こえて来る。


「そうか、おめでとう。って、工場?? 普通に露天掘りじゃないの?」と素直な疑問をぶつけてみると、

「まあ、それはそうなんだけど、地面から拾った物をそのままって言うのも拾い食いみたいで厭じゃん? だから、雨対策も込みで、レールを敷いて稼働式の屋根を付けてみたんだよ。」と皇帝君が教えてくれた。


そうか、雨か。確かに雨が降ったりすると、塩の結晶の地面はズブズブになりそうだな。


拠点の建物も完成したとの事で、是非来てくれとのご招待だったので、どんな風になったのか興味本位で訪問する事にしたのだった。


「こんちは~。おう、これはなかなかに力入ってるね!」とゲートの横に新設された白亜の建物を見て絶賛すると、出迎えてくれた皇帝君が内部を軽く案内してくれた。


「凄いね。でもさ、作業員用の暫定的な宿舎とかならここまでゴージャスにする必要無かったんじゃ無いの?」と用途にしては豪華な設備や内装に疑問を投げ掛けると、


「まあそうなんだけど、ほら俺もここに遊びに来るつもりだし、大人の隠れ家的な感じで良くない?」と。


豪華な設備と言っても、俺が使ってる従業員用宿舎と似たり寄ったりか。


特に気合いの入った部屋は、自分用だった・・・と。 ふふふ。


それにしても、変だな。従業員の宿舎とばかり思っていた部分は作業員用と言うには部屋数が少ないし、奥の方に巨大な倉庫っぽい空間ありそうだし、何だろ?・・・と俺が不思議に思って居るとその奥の空間の扉を開けて見せてくれた。


「あ!魔力充填装置!!」と俺が見慣れたそれを発見して口にすると、ニヤリとする皇帝君。


「ああ、なるほどなぁ~、最初からゴーレムにやらせる気だったのか!?」と察した俺が皇帝君に聞くと、頷きながら事情を話し始めた。


「うん、まあ色々と国内というか、周囲というか、大人の事情って奴もあってね・・・。」と歯切れが悪い感じで苦い顔で切々と語る皇帝君。


まあ、簡素に纏めると、(ゴーレム製造等で)職人を巻き込んで遊び過ぎた為、各方面からの突き上げが厳しく、更に各離村等に配備したゴーレムや魔力充填装置とその設置等の諸経費の問題もあって、針の筵状態らしく、何とかここらで起死回生の一発を!と思っていた所に

今回のこの塩だったと。

もし、ゴーレム使って塩を自動で採取出来れば、そう言う諸経費や周囲の突き上げの回避策になると言う事だ。

しかも国外処か、大陸外の地に国民を作業にやるって事も無いので、安全で安心と。


「なーる程、良く理解出来たよ。 まあ、そうだよなぁ~ゴーレム1機の値段って地球のジェット戦闘機より高いよね? 具体的な値段知らんけど。」と俺が言うと、皇帝君が頷いていた。


「まあ、戦闘機は空中しか飛べないが、その点、俺達の作ったゴーレムは万能だからな。塩の採取もバッチリだし。」と皇帝君。


一応、最初の内は管理者の人間を日帰りで此方に派遣するらしい。


「まあ、(お金儲けに)役立つ事を証明しとけば、静かになるさ。今回の塩採取が軌道に乗れば、この先10年は自由にやっても文句は言われんさ!」と側近が聞いたら卒倒しそうな事を呟いていた。


悪い奴である。


話によると、過去には工作機器を開発したり、数年おきに新しいお金になりそうな物を開発して、それなりに結果を出し続けてて居たのだそうで。


飛行船や戦車は、アルメニダ王国との紛争で大活躍した事で、研究開発・製造で掛かった莫大なな出費も有耶無耶になったそうで。

しかし、『ジェットパック』を軍に投入する際の費用でかなり揉めたらしいが、押し切ったそうな。


で、今回のゴーレムで、以前の積み上げた功績分が無くなり、負担のみが目立ってしまって、突き上げで悩んで居たらしい。


しかし、今回の塩の安定供給(一応見かけ上は人件費無し)で一発逆転ホームランだ!と。


「何か、俺、帝国の側近や首脳陣に敵視されてないかな? 彼奴が現れてから、皇帝陛下がご乱心されたとかって・・・」と不意に心配になって聞いて見たら、何故か目を逸らされたのだった。


「別に俺が悪の道に誘ってる訳じゃないのだがなぁ~。 皇帝君が勝手にグレて積み木を崩してるだけなのに!!納得いかないなぁ。」と呟くと、「大丈夫大丈夫!」と呟きながら、塩の保管庫へと案内してくれた。


「一旦篩に掛けてゴミ等を取り除いた物はここに一旦保管する様にしてるんだ。」と説明されたが、本国へ移動するのも面倒だから、何か良い案ないと聞いて来た。


「うーん、それなら、良い製品ありまっせ、旦那!じゃじゃーん!『時空間共有倉庫』」と何処かの猫型のロボットの様な口調で宣言したが、元々作り込んで設置する様な物なので、マジックバッグの様にすぐに出せる物ではない。


「今ここで直ぐに出せる物じゃないけど、ここの倉庫と帝国側の倉庫を時空間で共有する感じの倉庫にすれば、運ぶ必要も無いしリアルタイムに共有出来るよ。」と説明すると、ガッツリ食い付いて直ぐに作ってと懇願された。


しょうがないので、まずは帝国へとゲートで飛んで、指定された場所に『時空間共有倉庫』の扉を設置して、塩工場の拠点にある塩倉庫の扉にその『時空間共有倉庫』とシンクロさせた。


「旦那!毎度あり~、出来やした! お代は現金で?」と俺が一仕事を終えてフゥ~と息をつきながら言うと、

「ありがとう兄弟! 支払いは出世払いで!」と言ってきやがった。

「すいません、お客さん、父の遺言で、ツケはやってないので・・・。ニコニコ現金で!」と返してやった。

「ていうか、皇帝が更に出世って、何になるんだろ?」と素で質問すると

「近い内にそれっぽい役職考えて置くよ。」と笑っていた。

どうやら、そもそも答え(皇帝の上の位)がなかったらしい。

まあ、冗談抜きで、本国への塩の運搬が面倒だったらしく、非常に感謝されたので一応、『貸し1つ』にしておいた。


今回の塩工場の一件は来週ぐらいに一段落着くとの事で、『新生スノーマン大陸』の巡回の続きは来週以降に再開と約束をして、王宮へと戻るのであった。


ゴーレムを何かの製産に利用するとなると、我が国では何があるか?と考えると、真っ先に思い浮かぶのは、農業か?

雑草取りとか腰に来そうだが、ゴーレムなら、ノープロブレムである。

細かい地味な単純作業でも、文句も言わないし。

俺の方も皇帝君に見習って、何か人員不足の業種に限定してゴーレムで参入させとくかな?と、有効活用の方法等を考えるのであった。


下手な業種にゴーレムを突っ込んじゃうと、食い扶持の無くなる人が出るかも知れないので、慎重に選ばねばならない。

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