第304話 5カ国の繋がり
春になった。
3月中旬からクーデリアを除く2カ国の工事が始まる。
冬の間に各国の作業員達の訓練は無事に済んでいて、各国から集まった作業員達の士気も上々である。
2カ国はこちらの提示した条件に反する事無く、ちゃんと約束を守ってくれている。
各枝線の両端から中間地点に向かい、3月20日から一斉に工事を開始したのだった。
3月になってもクーデリア側からの返答が無く、黙り状態である。
せっかく、マックスさんの縁で……と優遇していたのだが、こうも纏まりが取れない相手とはね。
確かに国によって方針や運営のルールとか違うんだろうけど、王国だから、王が一番偉いって事じゃないんだろうか? それとも何処かに私利私欲に凝り固まった有力者が多数居て、強気に出られないのだろうか?
「もう、俺は知らん。」
実際、今から始めるとなったって、作業員の訓練も何もしてないからねぇ。
まずは訓練から始めて、2ヵ月ぐらい掛かるでしょ? で、そこから着工したら……まあ、年内には間に合うだろうってぐらいか。
何にしても、俺がヤキモキする話じゃないから、知らんよ。
それに夏には子供も産まれるだ! そんな工事とか余計な事をやってる暇ないからな!
新米パパは忙しいんだからな!
そして、月日はアッと言う間に過ぎて行く――
2カ国の工事は順調に進み、やっと終わりが明確に見えて来た。
進行具合は2カ国ともほぼ同等で、距離の違いで、若干ズレがあるが、大体6月の20日前後に終わる予定である。
つまり、後15日ぐらいって事だ。
俺としては7月にズレ込まなくて、心底ホッとしたよ。
だって、アケミさんの出産がおそらく7月だからね。
流石に、出産に立ち会うのは……ちょっと怖いから、遠慮させて貰うけど、でも直ぐ傍には居たいからね。
気を紛らわす様に意味も無く工事現場を彷徨ったり、工房に顔を出したりしているんだけど、日が経つにつれて、ドンドンと精神状態が怪しくなって来てる。
ソワソワが止まらないというか、地に足が着かないというか、心ここにあらずというか、何か妙な気分なんだよね。
毎日、最低1時間はアケミさんのお腹にソッと耳を当てて、音を聞いたり、話掛けたりしてるんだよ。
するとさ、お腹の中から、ポコポコと蹴られたりして、時々耳に当たるんだよね。フフフ。
ああ、待ち遠しいぞ!
そして、6月18日にマスティア線の最後のレールが接合されて、完成した。
2日後の6月20日にはイメルダ線も接合されて開通。
これでこの大陸の5カ国が一気身近な隣国同然の距離となったのだった。
6月22日には両方の王都で華々しい式典が催され,俺も立場上、渋々とその式典に参加した。
まあ、両方同時には幾ら俺でも参加出来ないから、両方10分程度の『ちょい顔見せ』程度なんだけど、待ち構えていた両方の王様に捕まり、2分程度の当たり障りの無いスピーチを披露して、もう片方のステージへとゲートで飛んだのだった。
両方の式典を熟した後は、速攻でアケミさんの待つ城の部屋へと戻った。
「パパ、帰って来たよぉ~♪」
「フフフ、あなたお疲れ様! あ、動いたわ!! フフフ、この子もパパが帰って来たのが嬉しいのね?」
アケミさんがソファーで寛ぎながらお腹を優しく撫でている。
「しかし、女性って凄いよなぁ! 人をもう1人お腹で作り上げる力があるんだもんなぁ。いやぁ~生命の神秘だよねぇ。」
と言いながら何時もの定位置に腰掛けて、お腹に耳を当てつつ、「ただいまー、良い子にしてたかなぁ?」と話掛けるのであった。
ポコポコとお腹の中で動く小さな命――俺はもうすぐこの子に抱く事が出来るのである。
妊娠が判った際に慌てて、城中を駆け回り、「産婦人科医を探さなきゃ!」とか口走って居たらしいが、俺は覚えて居ない。
この世界では、お産は産婆が担当するそうで、産婦人科なんて存在しないのである。
幸いな事に、ここ王都にも、ベテランのカリスマ産婆?のアリスさんって可愛い名前のお婆ちゃんが居るらしく、早速お願いしたが、城にお越し頂いて、応接室でお願いしたら、大笑いされてしまった。
「で、お産寸前の妊婦は何処じゃ? え? この子? いや、全然早過ぎじゃろ! 気が早いわ!」
そして、散々笑った後、「じゃあ、あと7ヵ月後にまたなぁ~」と風の様に去って行ったのだった。
アニーさんのお母さん、ジョニスさんはそんな健二の姿を見たアニーさんが、『健二の』精神的負担を軽減する意味でアケミさんの専属になったという隠れエピソードがあったりするが、健二本人は知らない。
そうそう、ライゾウさんだが、今年の4月に店ごと移転して来て、今ではここの名物の1つになっている。
決め手は何と言っても、アケミさんのご懐妊だったみたい。 やっぱりライゾウさんにとってアケミさんは娘の様な者だからね。
そう言う意味でもこの子は、お腹の中に居る時から、親孝行者だな。
「さあ、もうヤル事はやったし、暫く働かないぞー!」
俺は、高らかに宣言し、やっとユッタリと2日程過ごしていたんだよ。
何かホンワカした空気でさ、幸せを噛み締める様な一時をね。
だけど、そんな幸せな空気を読まないクラッシャーが連絡して来たんだよ。
それも今頃になって。
俺はステファン君が気を利かせ、
「あぁ~、その件ですが、今年はもう一杯で、無理ですねぇ。 まあ、一度良くそちらで今後も含めご検討してみて下さい。では失礼致します。」
と塩対応してマギフォンを切っていたらしい。 流石だね!
それに今は作業員達に、1ヵ月半の休暇を与えたんだよね。
その後には、次の計画も始まるしね~。
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