第303話 冬の間のサプライズ

それから数日すると、初雪が降り、本格的な冬が始まった。

心配していた、雪の中での高速モノレールの運用であったが、その心配は無用であった。

エアー・シールドが良い仕事をしてくれて、レール上の除雪も含め、車両を守ってくれていたからである。


雪の中で馬車による交通網が遮断されていても、問題無く運行するう鉄道に、世間は驚いていたらしい。


地上から離れた所にレールがあるので、周囲の積雪も問題にならない。 我ながら、ナイスなチョイスだったと言っておこう。




さて、最近の事だが、アケミさんが何やら若干変なのである。

何が変って? そう、毎日の様に求め合っていたのに、最近は体調を理由に『ごめんなさい』されている。

あれ? もしかして? って思っていたら、夕食後に部屋に戻ってソファーで寛いでいると、アケミさんが改まって背筋を伸ばし、少し赤い顔をして話し始めたのだった。


「あのぉ~、あなた。 ちょっとご相談というか、話したい事がありまして………」と。


「どうしたんだい? 何か、困った事でもあった? 最近少し前と調子が違う様だけど、何かあったら、何でも相談してね? アケミは、俺の大事な奥さんなんだからね?」


「ええ、ありがとうございます。 何かご心配をお掛けしてしまったようで。 じ、実はですねぇ…… 私、どうやら、赤ちゃんを授かった様なんです。」

と嬉し気にモジモジしながら告白して来た。


「や、やっぱりか!! そうか! あ、ありがとう! 身体の調子はどうなの? つ、悪阻は? 何か欲しい物ある? あー、えっと何ヶ月なんだ? 安定期までは無理をしちゃ駄目だからね?

そっかぁ~、子供かぁ! そっかぁ~、俺、パパになるんだな! ワハッハッハッハ!! そっっかーーーー!」


もうね、嬉しいったら無いよね。 俺、やっと、やっと! 我が子を抱けるんだよ? ああ、こんな素晴らしい事は無い。 

偶然だろうけど、今日は12月25日。 正に最高のクリスマスプレゼントである。

嬉しさで弾けそうだ!


そんな俺の様子を見て、アケミさんが心配そうに聞いて来た。


「あ、あなた? だ、大丈夫? 大丈夫よね?」


どうやら、俺は嬉しさのあまり、笑顔のまま泣いていたらしい――



「ご、ゴメン、心配させちゃった? いや、余りの嬉しさにさ。 そうか、俺がパパになるんだな。 本当にありがとう。」


俺は、アケミさんの横に座り、そっと頭を横から抱いて、片方の手を優しくお腹の上に当てて、撫で撫でして居た。


「元気に生まれて来るんだぞ!」と言いながら……。



このニュースは瞬く間に冬の街へと広がった。

街のみんなも雪を溶かさんばかりの熱狂振りで、大いに喜んでくれた。



俺達は浮かれていたが、それとは真逆にアケミさんの悪阻は、日増しに酷くなって行く様で、その影響は、真っ先に食べ物に現れた。

脂っこい物が食べられなくなり、焼き魚や大根おろし、冷や奴等、サッパリした物を好む様になる。


俺は、何も仕事が手に付かなくなり、一日中出来るだけ、アケミさんの傍に居る様になった。



新年を迎えると、お雑煮である。

俺は腕によりを掛けて、お雑煮や黒豆を作り、アケミさんに出してみたら、美味しい美味しいと言いながら、3杯もお代わりしてくれた。




1月が終わる頃になると、お腹も目立ち始め、アケミさんが優しく自分のお腹を撫でて居る姿をよく目にする様になった。

そうすると、俺も負けじと、横に座り、一緒にお腹を撫でてしまう。 2人で見つめ合いながら、笑い合って居る事が多くなった。



そんな幸福感に浸る最中、懲りもせずクーデリア側から、またボツ案が提出され、俺のイライラがピークに達した。

だってさ、最初のボツ案で、直線距離の約2.5倍の総延長、第2案で来たのが約2.1倍ぐらい。

今回のボツ案が、1.9倍だよ?

総延長が長いって事はそれだけ工期も掛かるし、どれだけクネクネと寄り道してるか想像出来るだろ?

しかも、難所とされる様な場所が多過ぎるんだよね。

明らかに、別の意図をヒシヒシと感じてしまうんだよ。

必要の無い寄り道で難所を越えるってさ、それはつまり、俺達にその区間の交通インフラ(道路とか橋とかトンネルとか)を遣らせて、それを流用しようって感じなんだよね。

工事費用の話に戻るが、橋脚とかホームとかの施設を含み、鉄道に関わる物は、全部俺の所が負担する事になっていて、向こう側は作業員に関わる物しか負担が無い。

つまり、俺達に俺達の技術や材料で橋やトンネルを掘らせて、ただ乗りしたいって事なんだろうね。


俺は、最後通告と題した書簡と、こちらで設定したルート図を添え、これ以外では着工しないという旨を伝えたのであった。

ちなみに、こちらが提示したルート図だと総延長は1.2倍くらいだ。 まあ、これが常識的なところなんじゃないか?と。



 ◇◇◇◇



2月後半に入ると、アケミさんのお腹の中で、赤ちゃんが動くのが判る様になってきた。

フフフ、なかなかに元気の良い子だ。

おそらく、推定5ヵ月ぐらいだろうか? つまり出産は7月辺りになるのかな?


一応、アニーさんのお母さん、ジョニスさんがアケミさんの専属となって、気に掛けてくれているので、安心である。


こう言う事に関しては、男に出来る事って少ないからね。経験者が傍に居るのは実に頼りになるのである。


ジョニスさん曰く、安定期に入ったらしいので、助言に従って徐々にアケミさんは軽い運動?をしたりして、健康を維持する様になった。


運動中のアケミさんを見ていると、ハラハラしちゃうので、なるべく遠くから眺めるぐらいにしている。



そうそう、子供達だが、サチちゃんはエリックを従えて毎日お腹を擦りに来るんだよね。

「どっちかなぁ? 男の子かな? 女の子かな? 楽しみだね。 兄妹が出来るみたいで。」


「そっか、兄妹か? うーん、甥か姪? 微妙だな。 ハッハッハ。 どっちだろうな? まあ、俺は男でも女でも、元気に生まれて来てくれればそれで良いや。来年の夏頃には、6人家族になるな!」


ただ、時折エリックが見せる悲しい顔で凄く気掛かりなんだよね。 おそらく、自分の母親を思い出しているんだろうと思うんだ。


だから、そんな時は、エリックを後ろから抱きしめてやったり、頭を撫でてやったりする様にしている。

口に出さないだけに、何か不憫でなぁ……。


リックは、成長して、男女の違いを意識する様になったらしく、少し照れがあるのか、あまり顔を出さないんだよね。

コルトガさんやサスケさん曰く、かなり腕が上がって来たらしい。

俺も時々スポットで訓練に参加しているが、確かに以前と見違える様に動ける様になっている。



こうして穏やかな冬が終わりを告げ、春が到来するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る