第297話 お揃いの2人

結局、『立ってる者は親でも使え』ではないが、目覚めのついで……に軽く一試合を終えて、ベッドの上でモーニングコーヒーと、軽い朝食を取り、2人で朝風呂に入って洗いっこした。


「なぁ、あ、アケミ。 何かまだ言い慣れないなぁ。 やっぱり『さん』付けで呼んじゃだめ?」


「えー!? もう私はあなたの物なのだから、呼び捨てが嬉しいのです。 何か身も心もあなたの物!って気持ちがして。『さん』付けなんて、何か余所余所しいです。」

とアケミさん。


「うーん、そっか。 判った。 さん付けが長かったからなぁ。 呼び捨て出来る様に、努力するよ。 まあ、そんな事より、言いたかったのはさ、俺、何かもの凄く幸せだよ! って事なんだ。

色々ありがとうね。 ずっと一緒に居ようね。」


「もう、幸せなのは、私の方ですよ? いっぱい愛して貰えて、アケミは溺れそうです!」


そう言いながら、湯船の中で俺の膝の上に座って居たアケミさんが、身体を180度回転させて、キスをしてきたのだった――




健二とアケミさんの言葉に出来ない程の濃厚な引き篭もり生活は、この後更に3日間続いた。

お互いの枯渇した心を補い合う様に愛し合い、与え合い、一つになった。


そして5日目の朝、何時もの様に乱れきったベッドで目覚め、おはようのキスをして、それから続く軽いイチャイチャを愉しんだ後、朝食を取った。


「いやぁ~、何かこう言う生活って言うのも堪らなく良いもんだね。 こう言う生活が一生続くってのも悪く無いな。」


「フフフ、死ぬまでこのままこの生活に溺れますか! 確かにそれはそれで魅力的ですが、でも、サチちゃん達が寂しがりますよ? そ、それに、私もあなたとの赤ちゃんも欲しいし。」


「ハハハ、死ぬまでこのままは流石に無理だよね。 そうか、子供か! それ良いね。 子供かぁ!!」

と俺も微笑みながら言ったところで、ハッと気付いてしまった。


「あ!!!! あーー! どうしよう!? 大丈夫なのか? ハーフエルフとかも居るぐらいだしなぁ。 あれ、ああーー! 寿命!?」

突然騒ぎ始めた俺を心配そうな顔のアケミさんが見つめている。


俺は、一番重要な事を見落としていた。 そう、俺の種族名である。

この一番重要な情報を、アケミさんに伝え忘れていたのである。

しかも、確か寿命が人族より長いらしいという話だった気がする………。 ヤバい、これは全面的にヤバい!


「あ、アケミ! すまない。 大事な事を言い忘れていた。 お、落ち着いて聞いてくれ!」


俺が土下座せんばかりの勢いで話始める。


アケミさんはキョトンとした顔をしたが、真剣に聞き始めた。


「あのさ、俺もスッカリ忘れてたんだけどね、俺、途中で何か種族が変わっちゃったらしくてね、今、『人族』から『ハイパーヒューマン』になっちゃったんだよ。

それでさ、もしかするとなんだけど、人族とハイパーヒューマンとだと、寿命も違ってね、子供が出来ないかも知れないんだ。 よく知らないんだけどね。」


そう焦りながら説明すると、今度はアケミさんが「あーー!!!」と叫び声を上げ、俺はビクッと身体を震わせてしまった。


「あーー! そ、それです!! それをあなたに聞きたいと思ってて、ズッと毎日凄かったから、忘れてました!!

あのぉ~、今更なんですが、私、そのあなたと結ばれて、2日ぐらいした頃、何か頭に音と声が聞こえてですね…… えっと、その私もその『ハイパーヒューマン』に種族が変わっちゃったみたいなんです。」


とモジモジしながらアケミさんが告白して来た。


「え?」


「エヘヘ。」


「マジ!? マジで!?」


「ええ。 お揃いですね!」


俺は一気にドッと椅子に崩れ落ちてしまった。


「よ、良かったぁ~。 どうしようかと思っちゃって、焦ったぁーー!」


「ウフフ、同じ種族だから、子供も大丈夫ですよね? あれ? でもそうなると、子供も『ハイパーヒューマン』になるのかしら?」


「あー、どうなんだろうか? 俺も良く判らないんだよね。」


「まあ、なる様になるんじゃないですか? 起きても無い事でクヨクヨしても始まらないですし。」


そう言いながら、アケミさんが微笑んでいた。


「そうだな。 2人で居れば後は何とかなるか。 ハッハッハ! そうだな!!」


しかし、俺と結婚したから、進化したんだろうか? 何か条件があるんだろうなぁ~。 まあ、細かい事は、どうでも良いか。


「ちなみに、寿命ってどれくらいなんですか?」


「うーん、良く判らないけど、一説ではハイエルフ並って言う話もあるね。」


「え? エルフではなく、ハイエルフですか!!」


「うん、そう言う話っぽいけど、実際どうなのかは良く判らないね。 成長も一番最適な姿になったら、その後は老化が遅くなるって話っぽいから、アケミさん、今の若くて美しい状態が続く事になるね。

エヘヘ、これからも毎日ずーっと長い間、一杯イチャイチャ出来るよね。」


「もぅ~、あなたったらぁ~♪ ウフフ 大好き!」


――――――

――――

――



ああ~ 人生って最高だ! ありがとう、女神様………



 ◇◇◇◇



ちょくちょく、ステファン君には定期連絡を入れて居るのだが、スッカリ忘れていた、ややこしい人が残っていた。

ステファン君から伝え聞いた話では、俺と話をするまでは、帰らないと言っているらしい。

相手が他国の者であったり、無法者なら、サクッと排除も出来るのだが、流石に神殿関係者となると、そうもいかない訳である。


それ以外にも山手線計画の方でも色々と決める事があるとかで、帰って来いよ~♪コールが日増しに激しくなって行く。


「アケミ、折角の楽しい新婚旅行だけど、何かステファン君に半分泣きが出始めてるから、そろそろ帰らないといけないみたい。」


「あらら、そうですか。 それはしょうが無いですねぇ~。 じゃあ帰りますか。 ここにはまた何時でも来られますし。 ね? あなた!」


「ああ、そうだね。 またゆっくり来ようね。 フフフ。」


という事で、長らく籠もりっきりであったテントを収納して、ゲートで城へ戻るのであった。



やっと戻って来た2人を前にして、ステファン君が泣きながら出迎えてくれたのは言うまでもない。

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