第280話 アケミさんとの1日

 お盆の私事で、アップが遅くなり、申し訳ありません。

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ゲートを抜けると直ぐに潮風と波の音が聞こえる。

そう、ここはアケミさんの生まれ故郷の横にある丘の上である。

もうすぐ秋が終わる季節の為、海からの風が肌寒い。


「あ、ここは! ケンジさん、ありがとうございます。 久しぶりにまた両親に報告出来ます。」

と微笑むアケミさん。


「うん、折角時間があるんだから、お墓参りもしておかないとね。 折角行ける場所にお墓あるんだし。」


俺も、行ける事ならお墓参りに行きたいしな。

あ、そう言えば向こう側の俺のお骨ってどう言う扱いになったんだろうか? やっぱり無縁仏って扱いになったのだろうか?

そう考えると、何か微妙な気持ちになるなぁ。

両親のお墓参りが出来るなら、ついでに是非とも、溜まった家賃のお支払いをして、大家さんにお詫びをしたいところなんだけど、無理だよなぁ。

日本のお金は持ってないけど、今ならそれに換金出来る様な宝石や金は持って居るんだけどなぁ。


一度、ゲートが使える様になった際、ダメ元で日本のあのアパートの辺りへ繋いでみようと試した事があったのだが、無理だったのだ。

何でダメなのかは判らないが、一度行った場所なのに、空間を特定出来なかったのである。

もしかして、やはり前世とは世界が違うからだろうか? それとも魔力が足り無いのかも知れない。

もしかすると、この先レベルが上がって、魔力が増えれば日本に行く事が出来るのかも知れないが……。


前回お墓参りに来た際、確か花の種を蒔いたと思ったが、秋になったからか、お墓の周囲は寂しい雰囲気になっていた。


アケミさんのご両親のお墓をまずは綺麗にして、切り花とお供え物を巾着袋から取り出して、お墓の前にお供えした後、俺もアケミさんの隣にしゃがんで手を合わせた。


『アケミさんのお義父さん、お義母さん。 健二です。 アケミさんはうちで元気に暮らして居ます。

なかなか、ハッキリとした状態に出来ず申し訳ありません。 でも――――』


俺は心の中でご両親にお祈りしてから、一歩下がってアケミさんのお祈りが終わるのを静かに待つのであった。


「お待たせしました。」


ちょっと涙目のアケミさんが無理矢理笑顔にして振り返って告げる。


「大丈夫? もう少しここに居ても良いんだよ? 焦らなくても時間はタップリあるし。」


「あ、いえ、大丈夫ですよ? ちゃんとユックリお話出来ましたし。」


「そう? じゃあ、どうしようか? ランドフィッシュ村は?」

と俺が聞くと、


「フフフ、またおばちゃん達の口撃に遇いますよ?」

と笑っていた。


「うむ、確かにあの口撃はキツいな。」


「でしょ?」



結局、おばちゃん達のノンブレス口撃はそれなりに俺の精神を削るので、今回はパスする事にし、マーラックの別荘に移動したのであった。


マーラックでは8歳になったサヨちゃんや、母親のヨーコさんが出迎えてくれた。

他の子達は、既に屋台の方で頑張っているらしい。


「ケンジ兄ちゃん、久しぶりー!」


「こ、コラ! ケンジ陛下でしょ!? 申し訳ありません、陛下!」

とヨーコさんが慌ててサヨちゃんを叱りつつ、俺に平謝りしている。


「いや、そう言う堅苦しいのは止めて! お願いだから今まで通りで。 お願いします!

サヨちゃんも、今まで通りのこの感じでよろしくね!」


「うん、判ったよ、ケンジ兄ちゃん!」

と可愛い笑顔で答えてくれたのであった。


多分この世界の常識ではアウトなんだろうけどね。



俺とアケミさんは、街を散策しつつ、ライゾウさんの雷寿司に行き、ちょっと早めの昼食を取る事にした。


「何か、サヨちゃん、大きくなりましたねぇ~。 ハハハ、私も歳を取る訳だわ……」


その何気無い発言は、かなり俺の心の奥に潜んでいた罪悪感を揺さぶった……。

この世界では、21歳以上だと行き遅れ認定されるらしいからね。

俺が彼女を縛る(つもりはないが)事で、彼女の女性としての幸せを奪っているのでは無いだろうか? と。


「そ、そうだね、大きくなってたね。 ちょっとビックリしたよ。 子供の成長って日々見てると判りにくいけど、暫く離れて居る間にグンと成長してたりするからね。」


何とか心の焦りを隠しつつ、俺にとってのアケミさんは、どう言う存在なのか? 再度自問自答をするのであった。

今朝、アケミさんのご両親のお墓の前では、近い内に答えを出します……と心の中で語りかけたのだが……。


あの時、ドワースで一度は心臓が止まった血だらけのアケミさんを見た時の気持ちが甦る。

ああ……心臓がドキリと音を立てた。


やはり、アケミさんがこのまま何処かに去って行くのは……     嫌だな。


出来れば、このまま傍に居て欲しいと思うのだが、だが、果たしてそれはアケミさんの幸せと結びつくのだろうか?

単純に俺の我が儘で縛り付けるのは、拙いだろう。





「ねえ、これからさ、ちょっと別の場所に寄って良いかな? まだ誰も連れて行った事が無い場所なんだけどね。」


俺が立ち止まり、アケミさんの目を見ながら尋ねてみると、


「はい! 勿論喜んで!」

と嬉し気に応えてくれたのであった。


そして、俺達は一度別荘に戻り、サヨちゃんとヨーコさんに挨拶をして、ゲートでマーラックから出発するのであった。

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