第273話 お姉ちゃん風
「どうしたんですか? 何かブツブツ独り言が聞こえましたけど?」
「おお、お帰りなさい。 ちょっとね……クーデリア王宮から面談のお願いが来たからさ。 なんだろう?って推測してたんだよ。 それより、どうだった? 凄く人だらけで疲れなかった?」
「ええ、余りにも人混みが凄かったので、切り上げて来ました。 はぁ~。やっぱり人混みは苦手です。 サチちゃんも少しはぐれたりしたし……」
アケミさんがバラすと、サチちゃんが真っ赤な顔をして反論して来た。
「サチ、はぐれたんじゃないもん! 迷子になんてなってないんだもん!!! ただね、お腹が減ってそうな子が居たから、おやつを分けてあげてただけなんだもん!!」
「そうか、サチちゃんは偉いなぁ。 で、その子は大丈夫だったの?」
とアケミさんの方に問いかけると、首を横に振っていた。
「それが、どうやらストリートチルドレンらしくて。 2日前から何も食べて無いって言っていたので、取りあえずこっちに連れて来ました。
今、お風呂に入れて貰ってます。」
「ナイス判断だな。 しかし、冬前で良かったな。」
苦い顔のアケミさんから話を聞くと、どうやら5歳の男の子らしいのだが、一緒に出て来た母親とはぐれたらしい。
というか、はぐれたと本人は思って居る様だが、実際の状況を聞くと捨てられたとしか思えなかった。
「だって、2日前に母親が『ここで待っててね!』と言って足早に人混みに消えてから全く音沙汰無いなんておかしいですよね。」
とプンスカ怒っていた。
風呂に入って居る間に、その子が唯一持っていた肩掛けバッグの中身を調べると、母親が書いたらしいメモが残っていて、『もう育てられなくなりました。申し訳ありませんが宜しくお願いします。』とだけ書かれていたのだった。
風呂から上がり、小綺麗な子供服に着替えさせてやり、サンドイッチとミルク、それにフルーツを食べさせてやった。
「し、親切にして下さって、ありがとうございます。 だけど僕、母さんに待つ様に言われているので、さっきの場所に戻らないといけないので……。 本当にありがとうございました。」
食べ終わった少年が、早々に席を立ち、ちゃんと頭を下げてお礼を言って、部屋を出て行こうとする。
この利発そうな少年の名前はエリックというらしいが、いくら賢くても5歳である。
わぁ~、これは困ったな。 幾ら何でも5歳の子に、『母親はお前を捨てたんだよ!』なんて言えないよなぁ。
俺は一瞬で考え、苦し紛れの嘘をついたのでった。
「エリック君、お兄さんがね、お母さんから頼まれてさ、えっと、もう少し迎えに来るまでに時間掛かりそうなんだって。
お仕事が見つかって、春まで抜けられなくなったらしいだよ。 エーッと、何だっけ? お母さんの名前?」
「お母さんの名前はエメリーです。」
「そうそう、エメリーさんからお願いされてさ、今日あの場所に向かえに行ったんだけど、アケミさんが先にこっちに連れて来てくれてたから、行き違いになっちゃったんだよ。
ゴメンね、昨日の内に迎えに行けなくて。 寂しかったろ? もう大丈夫だからな! お母さんが迎えに来るまでは、リック兄ちゃんとサチちゃん、それにアケミさんも俺もも居るし、他の人も居るから安心して待ってような!」
というと、暫く考え込んでいたが、
「そ、そうなんですね? そうですか。 僕邪魔じゃないですか? 何かお手伝い出来る事があれば……」
と少し悲しげな顔をしていたが、それでも健気な事を言うエリック君。
「フフフ、そうだねぇ。 じゃあ何かあったら、お手伝いお願いするかな。 俺はケンジって言うんだ。 じゃあ暫く宜しくな!」
「はい。 ケンジ様、宜しくお願いします。」
と再度頭を下げていた。
「うーん、堅いなぁ。 リックやサチちゃんと同じで、ケンジ兄ちゃんとでも呼んでくれた方が嬉しいなぁ。」
「え? け、ケンジ兄ちゃん…… ケンジ兄ちゃん……。 判りました。 ケンジ兄ちゃん、宜しくお願いします。」
と微笑んでいた。
「エリックは、5歳だから、6歳の私の弟だね! フフフ、私はお姉さんだから、サチ姉ちゃんと呼ぶのよ?」
と嬉し気なサチちゃんがお姉ちゃん風を吹かせていたのだった。
そんなサチちゃんを見て、隣でリックが苦笑いしていた。
「フフフ、じゃあ、私もアケミ姉ちゃんでお願いね。 宜しくね! エリック君。」
「宜しくお願いします、サチ姉ちゃん、アケミ姉ちゃん。 あとリック兄ちゃん…… 何かリック兄ちゃんと僕の名前似てるね。エヘヘ。」
と笑うエリック君。
そんなエリック君を見て、上手く騙されてくれた事にホッと胸をなで下ろすのであった。
もしかすると、実は気付いて騙されてくれているんじゃないだろうか? とも思えるが、そこは敢えて突っ込まない事にしたのであった。
部屋割だが、リックとサチちゃんが同じ部屋で面倒を見ると言い張るので、3人で同じ部屋になった。
まあ、子供同士の方が寂しくなくて良いかもしれないしな。
夕食の時間になり、全員で食堂に行き、出て来る料理に驚きの表情を見せるエリック君。
食べ始めると、満面の笑みを見せながら美味しい美味しいと何度も呟いている。
そして、「あー、お母さんにも食べさせてやりたいなぁ」と時折漏らすのである。 ――切ない。
サチちゃんは判って無さそうだけど、リックは何となく事情を理解しているっぽい。
「フフフ、美味しいでしょ? ケンジ兄ちゃんの所はね、ご飯がすっごく美味しいだよ! お母さんが迎えに来たら、みんなで一緒に食べようね。」
と言うサチちゃんの台詞を聞いて、リックは複雑そうな顔をしていたのだった。
◇◇◇◇
一夜明け、翌朝である。
朝ご飯を全員で食べていると、またもや美味しいを連発するエリック君。
「ねえ、サチ姉ちゃん。 これ何? 卵??」
と初めて見る半熟ゆで卵をどうやって食べるのか判らずにサチちゃんに聞いている。
「フフフ、これはね、半熟ゆで卵って言うんだよ。 ここの上の部分の殻を割って少しだけ剥くの。 サチ姉ちゃんがやってあげるね。」
と言いながら嬉し気に世話を焼くサチちゃん。
給仕をしてくれているメイドさん達も、ニマニマしながら微笑ましく見て居る。
「こうやってね、で、まずはここの上の部分をスプーンで少し掬って、食べるの。 で塩か醤油を掛けて食べるんだけど、サチ姉ちゃんは、お醤油派だね。
こうやって、ポタンと数滴だけ垂らすだよ。 ほら食べてごらん。」
「美味しい!! 美味しいよ! サチ姉ちゃん」
「でしょ! 何でもサチ姉ちゃんに聞いてねぇ~!」
とサチちゃんは、終始ご満悦であった。
「さて、俺はこの後、嫌だけどクーデリア王宮に呼ばれてるから、行って来るよ。」
「そうですか。 じゃあ私はこの子達とまたお買い物にでも行って来ますね。 エリック君の着替えとかも必要だし。」
とアケミさん。
どうしようか、1人では行きたくないなぁ。
「あ、そうだ! コナンさんを呼ぼう! 俺、コナンさんと行って来るから!」
やっぱりこう言う時は1人では行くべきではないからね。
コナンさんに連絡して、10分でこちらの常設型ゲートを通って、コナンさんとコルトガさんがやって来たのであった。
「主君! 某を置いてきぼりは酷いでありましょう。」
顔を見るなり、コルトガさんがクレームを入れてくる。
「何言ってるの? コルトガさんデートだって言ってたから、気を利かせたのに。」
俺の指摘に、「あ!」と小さく叫んで、少し顔を赤くしていた。
そして、馬車に乗り込み、俺達3人は王宮へと出発したのであった。
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