第271話 マギカメ
その日の夕食時に、コルトガさん達に、1週間ぐらいダンジョンアタックの延期をお願いしたら、スンナリと了承された。
何時ものパターンで、ゴネられるとばかり思っていたので、拍子抜けである。
「いや、変ではありませぬぞ? 主君の命とあらば、従うのが手足たる家臣の務め故。」
と平然と言ってのけるコルトガさん。
「して、その本音は?」
と追い打ちを掛けると、
「いえ、決してその間にデート等に現を抜かす訳では……あっ!」
と顔を赤くするコルトガさん。
どうやら、収穫祭で知り合った女性とのデートがあるらしい。 ハハハ、若返ったし、第ニの青春だな。
「流石はコルトガさん。素早いと云うか凄いねぇ。」
と俺が褒めると、盛大に照れていた。
それを横目でニタニタしているサスケさんとコナンさん。
「というか、主君! 本件に関してはサスケも同じ穴の狢なのですぞ! 某だけでは無いのです!」
と暴露していた。
そうか、みんな徐々に前に進んでいるんだな。
「ハハハ、良いじゃないか。 良い事だと思うよ? みんなそれぞれ、上手く行くと良いな。」
と返すと、サスケさんも照れていたのだった。
やはりコナンさんはまだそう言うところまでは厳しいらしい。
翌朝から、コナンさんとリサさんの3人で早速カメラの作成に取り掛かった。
さて、粗方の構成は出来ているんだけど、問題は肝心の目となるレンズ部分とその光を受けて映像を認識する部分謂わば受光体部分(CCDとかMOSに相当する部分)なんだよね。
ガラスを磨いてレンズを作るとか、幾らなんでも俺には難しすぎるのである。 凸レンズ擬きぐらいは作る自信あるけど、凹レンズとかとの組み合わせを設計とか出来ないし。
そこで考えたのは、水晶の板を使ったレンズ代わりの光魔法の付与である。
付与した2枚の水晶板の角度を変える事で、ズーム機能とかを再現すれば良いんじゃないかと云う発想であった。
受光体部分にはミスリルの薄い板に付与をして魔力変換してやる感じでパーツを作って行く。
デジカメの様に、ファインダー代わりのディスプレイを作る必要があるのだが、これも光魔法を付与した薄い水晶板で液晶モニター代わりにしてやった。
それぞれを組み込んで簡易的な実験用プロトタイプを作成してテストを行うが、代用レンズ部分が上手く無いらしく、ボケた画像になってしまった。
ボケた画像が映っているという事は、ディスプレイは正常動作していると思うので、集中的にレンズの付与を変更して行く。
結局実験的な試作はなかなか上手く行かず、2日目に突入した。
「おかしいなぁ、どう考えてもレンズ部分の付与はこれで間違いない気がするんだけどな。」
頭を抱える俺に、コナンさんが、
「もしかして、この受光体の方に問題あるとか?」
とアドバイスをくれた。
「マスター! 質問なのですが、これって、ボックス内は地肌のままになってますけど、これって外からの光で反射とかしないのですかね?」
とリサさんが鋭い指摘をしてきた。
ん??? あー、そう言えばカメラの中ってつや消しの黒だった様な気がする。
「それだ!! あー、艶の無い黒に塗る必要があるな。」
早速、一回バラして、ボックス内を艶消しの黒塗りに変更し、再度組み上げてみた。
「よし、いくよー!!」
起動スイッチを入れ、モニターを見ると……
「「「おぉーー!」」」
思わず映し出された映像に声を揃える俺達3人。
「まさか、そう言う魔法の関係無い部分とは。 ナイスだよ! リサさん!!」
その後、色々な明るさの空間での撮影テストを行いつつ、微調節や変更を行った。
次に、カメラの筐体の形を決める事にする。
「将来的にはマギフォンにカメラ機能を追加するつもりだけど、今はカメラ単体を作るから、やっぱり箱型だろうか。 まあ構造的に薄くも出来るから、片手でも撮れる感じの薄い物もイケるな。」
という事で、早速3人それぞれに思い思いの物を作ってみる事にした。
タバコの箱ぐらいの一般的なデジカメと同じぐらいのサイズや、思い切った薄型、ビデオカメラの様に縦長の物等……色々実際に使って見て結局は薄型でタバコの箱と同じぐらいのサイズに収まったのであった。
早速、完成記念の一枚を撮り、フルカラーで印刷機に繋ぎ、3枚印刷してみた。
「わぁー! スゴイですよ、マスター!! こんなに綺麗に撮れるんですね! まるで絵以上で今にも動きそうじゃないですか! あれ? でも変ですよ? 何で私だけこんなにホッペが膨らんで見えるんでしょうか?」
と興奮しつつも、自分の写真の写り具合にクレームを付けるリサさん。
ああ、これ…… 俺は知って居るぞ! これどう答えても正解が無いパターンじゃん!! 危険が危ない!!
「え? そ、そうかな? コナンさん、どう思う?」
俺は、焦りながらも、丸っとコナンさんへキラーパスを投げたのであった。
「よし、俺はこれから、量産の指示を入れてくるから! 今日はありがとうね!」
と焦るコナンさんとコナンさんに写真を突き出して詰めているリサさんを残し、錬金工房から立ち去ったのであった。
ドワーフの親方と、エルフの錬金部隊を前にして、カメラ……マギカメ(と名付けた)の量産をお願いし、各部の設計図や付与等を説明した。
試しに、全員の集合写真を撮って、人数分印刷してやったら、この世界で初めてのマギカメと写真に興奮するドワーフ達とエルフ衆。
「ケンジ様ぁ~、これはスゲーな。 俺んところの家族写真ってのを撮りてぇな!」
「よっしゃ! サクッと量産して、家族の写真撮るぞー!!」
「「「「「「「「「「おぅ!」」」」」」」」」」
普段は、よく言い合いしているドワーフとエルフが一丸となった瞬間であった。
俺は、直ぐに城に戻り、アケミさん、リックにサチちゃんを呼んで、バルコニーで紅葉をバックに4人の写真を撮った。
1人1人で撮ったり、ポーズを換えたりと、何枚も撮り、フルカラー印刷した。
「「「「うわぁーー! 凄いです!!」」」
俺には経験無かったが、前世で子供を持つ親が挙って運動会等を撮る気持ちが判った様な気持ちになったのであった。
「こうなってくると、もうちょっと紙質を改善したり、フォトスタンドとか、アルバムとかも作りたいね。」
と密かに次の計画を頭で思い描く健二。
この2週間後、エーリュシオンを起点に大陸中へ、この新しい魔道具が広がって行った。
また、それに伴いフォトスタンドや額縁と云った二次的な装飾品の生産も盛んになったらしい。
今まで自画像を絵描きに頼んで飾るのは王侯貴族の特権(主に金額的な理由)であったのだが、新たに写真館と云う店が出来たりと、庶民の手に届く範囲になった事が大きい。
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