第268話 もしかして?

「ほほぉー、これは!!」


今、階段の洞穴の所にチョコンと鎮座する宝箱の目の前にしているのである。


「もしかして、一気に殲滅したからですかのぉ。 それならそれで、なかなか有用な戦い方なのかもしれませぬな。」

コルトガさんが悪い顔をしている。


「つまり、ゴブリンエリアを範囲攻撃で殲滅してサッサと抜けろと?」


俺がコルトガさんの意図を察して問いかけると、


<主ーー! 耳が痛いのは嫌ーー!>

<耳痛い、耳痛いーー! イヤー! 耳だけに!>

と一斉にピョン吉とコロのクレームが頭に響く。



「ああ、さっきのは、消音のシールドを張り忘れたのが原因だから。 今度使う時は忘れないから。

さ、そんな事より、宝箱開けようっかね。」


俺は誤魔化しつつ、宝箱を開けたのだった。


中から出て来たのは、スキルブックであった。


「今度のスキルブックは何でござるか?」


「ちょっと待ってね、エーッと……ああこれか……『射撃必中』だね。 誰か要る? 弓とか投擲とかの命中度が上がる感じだと思うよ。 魔法もかな?」


「も、持ってるんだな……」

「拙者も持ってるでござる。」

「某は投げる事がほぼないので。」


と全員要らないらしい。

女神様! 錬金神ドワルフ様! スキルブック、不評っすよ! 折角なので、もう少しレアなのが欲しいです!! と心の中で叫ぶのであった。




第7階層に降りながら素朴な疑問を投げ掛けてみた。


「ねぇ、このダンジョンなんだけどさ、何か魔物の数がおかしくないか? 普通を知らないから何とも言えないんだけど、普通は上層は初心者に毛が生えた程度から入れるんだよね?

それなのに、あの魔物の数は変だよね?」


「ふむ、言われてみれば、確かに異常な数でありますな。」


「だな。」


「つまり、主君は、異常事態が起きていると言われるのでござるな?」


「まあ、異常かどうかは微妙だけど、人が間引きしているダンジョンなら、ある程度増えると横ばい程度かもしれないけど、それでも増え続けて1000年経った状態がこれだと考えれば、何となく納得し易いかな。」


「なるほど、あり得ますな。」


そうなんだよね。 幾ら何でも、1~6階層までの魔物数が異常なんだよ。 とても初心者処か、中堅でもヤバい数だと思うし。

だから、1000年放置された事が原因で、現在魔物が溢れている状態と考えればスッキリする訳で。


という事で、第7階層は初っ端からシールドをはって、再度『ミスト・バーン』でふっ飛ばそう! という事に落ち着いた。

若干落盤の不安もあるのだが、最悪ゲートで逃げる事にしたのであった。






「よし、シールド3重展開OK。消音シールドOK。 じゃあ逝くよ!」


『ミスト・バーン』


チュッドーーーーーーン


「………」


「静かだけど、地響きが伝わって来るね。」


「何かさっきより、外が壮絶ですな。」


「ああ、広いと思ったから、さっきより、エリアを大きく広げたし。」


「うぅーー、思わず身震いしてしまうでござるな。 流石は我が主君でござる。」


「シャレにならない威力なんだな。 これまでケンジく……様に敵対した奴らが、どれだけバカか良く判るんだな。」


「ふぅ~、やっと振動が収まった。 良かったよ、落盤しなくて。」



第6階層と同じく第7階層のジャングルが消滅した。

破壊した規模は第6階層の倍近くになる。

だだっ広い荒涼として風景の中、ポツンポツンと置いてある宝箱を開けて、回収して廻るだけの簡単なお仕事に早変わりである。


4個の宝箱からは、『偽装マスクX』、『正常化神薬』、『特級ポーションx10本』、『スキルブック(狂化)』が出て来たが、色々用意してくれるのは実にありがたいのであるが、やはり微妙なラインナップであった。

まず、狂化のスキルなんか要らないよね。10分間だけ倍のパワーで暴れる事が出来るらしいけど、逆にその間はバカになるらしく、敵味方の区別が付かなくなるとか。

微妙処ではない。

「このスキルブックは要らないなぁ。 もう脳筋は十分に間に合ってるし。」

と呟きながら、コルトガさんをチラリと見る。 周囲の視線を感じたのかコルトガさんが、「え!? え?」と驚いていて。


どうやら、本人には自覚がないらしい。 もっとも狂化程、理性が無くなるわけではないけどね。


偽装マスクXは本人のイメージした顔に変装出来るという素敵アイテム。


「偽装マスクX……変装グッズだね。 じゃあ、これはサスケさんか。」


「え? また拙者ですか? も、貰い過ぎではござらぬか?」

と遠慮していたが、


「いや、これ俺達には使う機会無いとおもうよ?」

と言う一言で納得して貰った。


「で、これ、正常化神薬? ほほぉ~、これは面白いね。なるほど。 これはコナンさんだな。」


「ん? ぼ、僕?」


「そうだね。これこそ、コナンさんへのご褒美だと思うよ。」

俺がニッコリ笑いならがコナンさんに怪しい茶色の小瓶を渡し、飲む様にと急かした。


「だ、大丈夫なのかな? 苦く無いかな? に、苦いの苦手なんだな……」

暫く小瓶を光に透かしてみたりしていたが、諦めた様に栓を抜いて、グイッと一気飲みしたのだった。


「!!!」

飲み込んだ瞬間コナンさんの目がクワッと見開いて、驚いている。


全部を飲み終わったコナンさんの身体がブワッと光輝き、目を背けながら光が収まるのを待った。



光が収まったそこには、何と下半身スッポンポンの人物が立って居たのであった。


「あ! コナンさん? ズボンズボン!!」


「え!? え!?」


そこにはホッソリと痩せた絶世の美男子が下半身丸出しで立っていたのであった。


「!!!」

慌てて真っ赤な顔で足下にずり落ちたズボンを持ち上げるコナンさんらしき人物に、コルトガさんとサスケさんはポカンと口を開けたまま固まっていたのであった。


暫く呆けていたが、コルトガさんが恐る恐る話掛けている。

「も、もしかして、お主、コナンなのか?」


「ぼ、僕だよ!」


「主君、こ、この小瓶は変身の薬でござるか!? 凄いでござるな!」

サスケさんが興奮して聞いて来たが、


「いや、これは変身とかではなく、あらゆる状態異常やデバフ状態等を完全なる正常状態に戻す薬らしい。ポーション系とはまた違う系統みたいだね。

その異常状態だった『肥満』を取り除いてくれたって事らしい。」


「おおー! つまりこれが本来のコナン殿という訳でござるか!」


「ふ、服が! 服が!!」

と焦るコナンさんに、俺の服を貸してあげたのであった。

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