第255話 オープンの罠
それから、3日後にはオープン日の告知を開始し、更にその2日後を正式オープン日に決定した。
そうなると、予告からオープンまでの2日間は、王都中がバタバタしていてみんなが浮き足立っている感じであった。
これまで過疎化とスラム化が進んでいた王都であったが、噂を聞き付けた周囲の都市から、ここぞとばかりに人や物が集まりだして、正に民族の大移動って感じだった。
王都から撤退した商会までもが再度店を開こうとしていて、商業ギルドも連日ごった返し状態。
しかし、本当に商人ってドライというか、何というか……今まで放置して寄りつきもしなかった王都へ、手のひらを返したようにニコニコしながらやって来て、うちの商会へと擦り寄って来るのである。
何が嫌いって、こう言う手合いが大嫌いである。
良い時だけは擦り寄って来て、旗色が悪くなると冷酷な目で睨み掌を返すのである。
王都に人が増えるのはクーデリア側には良い事で、まあ俺自身もそれを狙って企画した訳ではあるが、厄介なのは俺が自由に王都を歩けない状況になってしまっているのである。
当初ではほぼ自由に動き回らせてくれていたコルトガさんとサスケさんだったのだが、王都に人が増え、更に俺が屋台とかで買い食いをしようとしていると、揉み手をしながら知らない商人が突撃して来るのである。
「何卒少しお話を!」と。
そうなると、もう楽しくショッピングなんて状態じゃなくなる訳で。
コルトガさんなんかは、
「有象無象のゴミの様なのが集って来ます故、片時も目を離せませぬ! 某が蹴散らしてやりましょうぞ!」
とかって気合い入っちゃうし……。
コナンさんはコナンさんで連日食い物で釣られているらしい。
まあ、これに関してはコナンさんの方が1枚も2枚も上手で、コナンさんはこの状況を実に堪能している様だ。
食うだけ食ってサクッと帰って来るという食い逃げっぷりである。
これに関しては、若干仕掛けて来る商人側に同情してしまうのであった。
そしていよいよオープン当日がやって来た。
どうやら、オープン時には、王家の方から王子様や王女様までやって来て式典とテープカットをするらしい。
「へー。結構気合い入っているね。 まあ、頑張って欲しいね。」
と俺が人事の様に思っていたら、
「何言っているんですか。 ケンジさんも出るんですよ?」
とアケミさんからジト目で言われ、「え?」と思わず返してしまったのだった。
「ああ、なるほど! だからか!! 何で今日に限って何時もの服より上等な感じを指定されるのか、不思議だったんだけど。」
俺が初めて理由に気付き、口に出すと、
「逆に何で自分の店のオープンを人任せで済むと思ってたのか聞いてみたいです。 テープカット、誰がすると思ってたんですか?」
と呆れられてしまったのであった。
スギタ・ヒルズのオープンは朝の9時、ドリーム・ランドのオープンは10時からとなっていた。
えー、両方共に9時にオープンさせれば良いのに? と不思議には思ってたのだが、あまり理由までは考えて無かった。
「まさか、こんな罠があったとは……」
と呟きながら、愕然としていたが、ハッとして慌てて聞いてみた。
「ま、まさか、式典でスピーチとかは要らないよね?」
「え? テープカットとセットですよ?」
「えー! 聞いてないよーー!」
「だって、ケンジさん、事前に予告すると、逃げそうな予感がして。テヘッ」
と舌をチロッと出していた。
うん、良い読みだよ。 今からでも逃げたい感じなんだがな。 どうする? スピーチ。
現在時刻8時45分である。 今から考えろって言われてもなぁ。
「大丈夫ですよ? 簡単なので良いんですから。 例えば、うーーん、『これが未来を先取りした新しい商業施設ですぅ』とか。『名前通りに夢の国へようこそ!』とか。
どうせ、勝手に盛り上がってくれますから。フフフ。」
そして、時刻は8時50分となり、王宮から王子様と王女様がやって来た。 もう逃げられない様だ。
俺は腹を括り、王子様と王女様に挨拶をする。
「本日は態々お越し頂き、誠にありがとうございます。」
「いえいえ、スギタ殿には我が国全体で色々とお世話になっておりますので、私如きでは余りお役には立てませんが。」
と腰の低い王子様。
「どうも、本日はオープンおめでとうございます。 私も微力ながらお手伝いさせて頂きます。 特にスギタ・ドリーム・ランドが楽しみですのよ。
父上にお聞きしたところ、正気を保つのが大変な程に面白い所とか。 ワクワクしますわ!」
と目を輝かせる王女様。
ああ、王女様、それマジで怖かったんだと思いますよ? アトラクションを降りた王様が子鹿の様にプルプルしてましたからね。
と心の中で突っ込んでいたのだった。
そして時間となった。
用意された壇上に上がり、アナウンスで紹介された王子様、王女様がそれぞれ軽くオープンを祝うスピーチをしてくれた。
次は俺の番である。 もの凄い人がワクワク顔で壇上の俺に注目している。 ああ、アカン。 これ頭真っ白だ。
「……… え、えーっと。本日はお日柄も良く……あれ? (3つの袋は結婚式の定番ネタだった 何を言えば良いんだっけ?) えーっと、本日はお集まり頂き、ま、誠にありがとうございます。 お、お陰様でオープンに漕ぎ着けました。 (えーっと? 未来が何とか?)
ここは未来の店舗スペースとなります。 皆さん末永くご贔屓に!」
と何か適当に繋げてペコリとお辞儀して壇上を降りた。
「あれ?終わったの?」とポカンとしていた観客達だが、パチパチとコルトガさん達が拍手を始めるとみんなが疎らに拍手を始め、ウォーーと歓声が上がったのだった。
そして、俺、王子様、王女様が揃ってテープカットすると、ヒルズの屋上から、ドドーーンと花火魔法が撃たれ、
「スギタ・ヒルズ、ただ今オープン致しました!」
とアナウンスが流れると、
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」と言う歓声と共に客が雪崩混んでいた。
あっぶねぇーー! 危うく踏み潰される所だったよ。
チラリと王子様や王女様を見ると、顔が引き攣っていた。 ビックリするよねぇ。
そして、俺達はコルトガさんが御者を務める馬車に乗り、王家の馬車の後ろに着いて行きながらスギタ・ドリーム・ランドへと移動を開始した。
うちのオープンの所為もあって、メインストリートが滅茶滅茶混んでいて、実質45分ぐらいで移動しないといけないのだが、これがなかなかに厳しいのである。
そんな事には気が回って無かった俺は、さっきの塩っぱいスピーチの二の舞にならぬ様、馬車の中で『夢の国へようこそ!』を半ば呪文の様に繰り返し練習をしていたのだった。
結果、何とか10時1分前に到着し、無事に式典を終え、テープカットと花火で華々しく夢の国がオープンしたのであった。
勿論、練習の成果を遺憾なく発揮し、スピーチ?は無事に終えたよ。
2回の式典参加で、ガッツリHPを削られた俺は、帰りの馬車の中でグッタリと横たわるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます