第254話 クーデリア国王弾ける!
翌朝、王都は響めいた。
もう、何処に行っても王都に新しく出来上がった2つの新名所の話題で持ちきりである。
一つはNo.1の敷地に出来た『スギタ・ヒルズ』と名付けられた巨大な高層ビル(と言ってもこの世界では高層ビルというだけで、タワーマンション程ではない)。
階数は窓を数えるだけで10階建てである。
中には色々な商品を置く売り場と、レストラン街、それに温泉も備えられているらしいとの噂だ。
勿論、噂の元は俺達の意図的なリークである。
更にもう1箇所は、王城を中心として反対側の跡地に出来た『スギタ・ドリーム・ランド』である。
兎に角、何が凄いって、王城よりも高い高さの直径を持つ巨大大観覧車である。
この世界の人には何をする物なのか判らなかったのだが、どうやら景色を楽しめる遊び場であるという噂だ。
噂の元は同じく俺達である。
正式なオープンはもう少し先となるのだが、朝から仮店舗の方への問い合わせが凄い。
勿論、一々対応してられないので、ビラを5000枚程用意して置いたが、アッと言う間に無くなってしまい、ビラを増産する事になった程であった。
「ケンジ様、凄い反響ですよ!」
と仮店舗のスタッフが苦笑いしていた程であった。
俺は、早速女性陣やおじさん達に役割を振り直し、嘗てモデルタウンに居た住民達の一部を責任者兼指導係にして、接客教育等を始めた。
やはりウェートレスは若い子の方が良いという事もあって、追加募集したのだが、もの凄い数が集まり、選考するのが大変だった……らしい。
俺はそこら辺に関与したくないので、他の人に丸投げした。
暫く活躍の場の無かったコナンさんは、レストラン街で『客役』として水を得た魚の様に大活躍しているらしい。
最後の精算時に、お金を払わずに帰ろう(次の店に行こう)として、警備員に取り押さえられるまでがコースとなっているらしい……。
拠点の方からも、客役の応援という名目でかなりの人数が日替わりでやって来ては、協力してくれている。
そのお陰もあって、各売り場や飲食店のスタッフ達の慣熟が早く、あと数日もあれば、オープンしても問題無さそうという話だった。
さて、問題というか、横槍というか、実に日々五月蠅いのは、クーデリア王宮からの問い合わせである。
もう既に問い合わせよりという、懇願になっていて思わず笑ってしまった程である。
なので、しょうがなく先に選抜した10名のみ限定でヒルズの内部とドリーム・ランドを2日間に渡り案内して廻る事になったのだった。
「もっと人数を増やして頂けませんか?」
とかなり食い下がって来たのだが、
「いえ、まだオープン前ですから、そこまで人員を割けないのですよ。 視察の人数をどうしても増やしたいと言うのであれば、あと1~2週間程お待ち頂くしかないですね。」
と俺が打ち切ろうとしたら、慌てて10名だけで良いと訂正して来た。
どうやら、早く見たいと言う人数が多かったらしく、10名限定と言われ、王宮内でその10名の枠を巡り、壮絶な奪い合いがあったらしいとサスケさんから聞き、笑ってしまったのだった。
「ス、スギタ殿!! 何ですかこれは!?」
と王様のはしゃぎっぷりが半端無い。
「うぉーー! 階段が動いとるぞ!!」
とか、
「へ、部屋が上に上がっただと?」
とか、
「なんじゃ、この美味しい料理は!!」
とか、
「な、生の魚を食うのか!? 大丈夫なのか?」
とか、
「お、温泉!? 風呂か!」
とか……
兎に角色々と五月蠅かった。
そしてヤバかったのは、このヒルズの最上階3フロアーに占領した俺達の別荘スペースである。
チラッとだけ見せたのだが、唖然としていた。
「す、素晴らしい!! ワシもここに住みたい!」と我が儘を言って居た程。
まあ、見晴らしも良いし、冷暖房も完備だし、静かだし、最高だもんね。 フフフ。
「スギタ殿! し、城と交換せんか?」
と言い出して、慌てて大臣が止めに入ってたのには笑ってしまった。
2日目にドリーム・ランドを案内した時も、テンションがおかしかった。
生まれて初めて乗る巨大な大観覧車に
「うぉーー! うぉーーーーー!」と終始吠えていた。
ジェットコースターでは、「キャァーーー!」と悲鳴を上げてたのも笑えた。
作った本人が言うのもおかしいが、俺は乗らないからね? 絶叫マシン嫌いだし。 怖いし。
ジェットコースターから降りた王様も大臣も文官も近衛騎士団長も……顔面蒼白だったので、軽くライト・ヒールとライト・マインド・ヒールを掛けてやった。
「な、何度死ぬと思った事か……」と呟きながら、生まれたての子鹿の様に思い出してプルプルと震えていたのだった。
メリーゴーランドでは、ホッとした表情で嬉し気にクルクル回っていたが、どう言う物かを知らされずにウッカリ乗り込んだバイキング船ではジェットコースター同様に悲鳴を上げていた。
空中を回る巨大なブランコでは、高さに慣れたかと思ったのだが、やはり怖かったらしい……降りるとプルプルしてたからね。
そして、もう一つの目玉である、フリーフォールでは、嫌な予感がしたのか、柱の上を見上げ、不安気に聞いて来た。
「スギタ殿、こ、これは一体どう言う仕組みの物なのじゃろうか? 何か真ん中の柱が高いのが、実に不安なんじゃが?」
「ああ、これは自由を味わえる遊具ですよ!」
うん、嘘は言ってないな。 言葉は足り無いけど。
まあ、自由と言っても自由落下だけどね。
自由という割には、プロテクトバーでガッチリ身動きを制限されるんだけどねぇ~。
「な、何で自由を味わえるのに、ガッチリホールドされとるんじゃ!?」
「ああ、それはアレですよ、安全の為です。 フフフ。」
そしてボタンをポチッと押して30秒ぐらい経つと、乗った10名のギャーーと言う悲鳴が鳴り響いていた。
最後のコーヒーカップでは自分達でグルグル回し過ぎたらしく、ヘベレケになっていた。
「いやぁ~、これは童心に返りますな!」
とドリーム・ランドを堪能した王様以下9名がスッキリというか、疲れ果てて帰って行ったのであった。
このドリーム・ランド、まだまだ他にも敷地が残っているので、今後も幾つかアトラクションを増やして行きたいと思っている。
やっぱり、ウォーター・コースターとかも作りたいよね。
そうそう、心配していた『王城丸見え』の件だけど、何も言われ無かったので、セーフだったのだと思う。
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