第243話 第一関門
翌日から、まずは全員に渡してあるブレスレットの更新を行う準備を始めた。
今までは無かった国籍に関する項目を増やし、必要に応じてホログラフの様に文字を浮かび上がらせる仕組みを追加するのである。
追加機能の魔方陣はそれ程難しい物ではないので、直ぐに完成したが、問題はその改造をどうやって全員のブレスレットに行うか? である。
現在のエーリュシオンの人口は、別荘組や赤ちゃんも含めると、7000人に迫る勢いである。
なので、錬金が出来るエルフ達全員に手分けして別荘から優先で更新作業を行って貰う様にお願いし、こちら側では平行して法律や国としての根幹に関わる機関等を決定する事にしたのだった。
法律に関しては実に簡素に判り易い文章にする事を心がけた。
これは、例の妻と子の件で日本の法律の原文を調べた際に理解出来なかった経験からである。
日本の憲法も然りで、流石はGHQの素人が1週間程度で色々な言語の色々な文章からコピペで作った原案を日本語訳した物だけに、実に判りにくい物だったし、簡素に万人に判る文章にするのは当然であろうと。
また裁判制度も設ける事にした。 弁護人も付ける事としたが、殺人や誘拐、性犯罪に関しては重罪として死刑も有りとした。
法律を作る事で犯罪の抑止力となる様に、コナンさんやコルトガさんやサスケさん等の助言を聞きつつ、犯罪者が得をしない物にしたのだった。
勿論金品の窃盗だけでなく、情報やスパイ活動等に対する法律も忘れて居ない。 特に秘密の多いこの国だけに、それらに対する処罰は厳罰化した。
まあ、法律を作ってはみたものの、実際のところ、小競り合い程度の小さい喧嘩がある程度で、現在までに大きな住民間のトラブルも犯罪行為も無かったから、余所からの変な奴を入国させない限り大丈夫だとは思っているんだが……。
実際のところ、どれもこれも初めての事なので、何が足り無いのかさえ判らない。 制度にしても同じだ。 なので想定外の場合には、随時柔軟に対応しつつ体制を整えて行くという事に全員一致で決定した。
「しかし、不安だな。 良いのか? こんな程度のノリだけで国なんか作っちゃって。」
俺が不安を吐露すると、コルトガさんと村長が豪快に笑っている。
「相変わらず主君は心配性ですな。」
「ですなぁ。 じゃがそれが国民想いのケンジ様故の良さでもあるんじゃが、時にはその場の勢いも必要ですじゃ。」
「いや、そうは言うけどさ、これ何か足り無い事があった時、一番困るのはステファン君だからね?」
俺がガハハと笑って居る老人2人に苦言を呈すると、突然振られたステファン君が「え? ぼ、僕ですか?」と驚いていた。
ん? 何で逆に自分だと思わなかったんだろうか?
「何、人事の様に驚いて居るの? このメンバーを見てご覧よ。 どう見てもステファン君でしょ?」
実際のところ、俺としては全てをステファン君に任せてしまいたいぐらいなのだがな。
すると、グルッと見回した後、察してしまったらしく、愕然とテーブルに崩れ落ちていた。
隣に座った肉串を食ってたコナンさんと反対側に座っていたアニーさんが、優しく肩をトントンと叩いて励ましていたのだった。
まあこんな感じで4日間費やし、大体の骨格が決定した。
なので、非常に残念ではあるが、宣言しに行かないと行けないのである。
「ハァ……、やっぱりステファン君代理で行ってこない? 何か凄く胃が痛いんだけど?」
「無理ですから。 ちゃんとシャキッと高らかに宣言して来て下さい。」
……全く取り合っても貰えなかった。
「クソぉーー、こうなったら、アニーさんに無い事無い事言いつけてヤル!!」
と俺がヤケクソ気味に口走ると、
「け、ケンジ様!! そ、それだけは止めて下さい。 本っ当にシャレにならないですからね?」
と目に涙を浮かべつつ懇願されたのであった。
「わ、悪かったよ。 ゴメンな。 冗談だから。」
しかし、何で涙目?と疑問に思って聞いてみると、恐ろしい話を聞かされてしまった。
原因は魔王さん御一行に同行した超肉食美魔女ことカサンドラさん。
この出会いがステファン君を不幸と恐怖の5日間の始まりだったそうな。
俺の知らない所で、ステファン君を食おう食おうと彼方此方で罠を張り、付き纏われてしまったらしい。
そして仕舞いにはアニーさんが、ステファン君の浮気を疑い、連日修羅場というか、地獄だったと。
その罠も、手慣れていて、なかなか気付かず、色々と危うかったらしい。
「何それ!? 怖っ!」
思わず、声をあげつつ同情してしまったよ。
なるほどな。 だから性犯罪に対する法律を作る際に、「これって男が女へだけでなく、女が男へも適用されるんですよね?」と真剣な表情で聞いて来たんだなぁ。
さて、出発の朝である。
結局、メンバーは、俺、アケミさん、コルトガさん、コナンさん、そしてサスケさんとシャドーズ10名となった。
申し訳ないが、リックとサチちゃんはお留守番である。 サチちゃんが凄く寂しそうな顔で見送っていて後ろ髪を引かれる思いである。
俺も出来る事ならば、サチちゃんとお留守番側に回りたいぐらいだ。
俺達は、いつもの様にゲートを使ってまずはドワースへと向かうのであった。
さて、何故一気に王都へ向かわなかったのか? という事だが、理由は2つ。
1つはガバスさんに顔を見ながら報告する事と、2つ目は元々お隣さんとなる顔見知りのドワース辺境伯へ事前に筋を通して置こうという事であった。
「どうも、お久しぶりです。」
「おう! ケンジ! 今回の絵本も凄い売れ行きだぜ。 いつもありがとうな!」
「そうですか。 それは何よりですね。 ところで、今回来たのはご報告がありまして、先にこちらに寄る事にしたんですよ。」
「ほぅ! いよいよ結婚か!」
と盛大に勘違いするガバスさん。
アケミさんがポッと赤くなって俯いている。
違うからね? 悪いけど違うから! 知ってるよね? アケミさん。
俺が慌てて、
「いや、違いますって。 実はね、この度、俺の拠点をいよいよ国として宣言する事になりましてね。 その報告です。
この後、ドワース辺境伯の所にまずは報告して、それから王都に呼ばれてるので正式に宣言して来る事になります。」
「お! そっちかよ。 そうかぁ~いよいよか。 寧ろ遅すぎるぐらいだよなぁ。 そうか、そうか。 おめでとう!ケンジ! おっと、これからはケンジ様って呼ばなくちゃダメか?
そうかぁ、これで名実ともに一国一城の主だな。 ガハハハ。」
「フフフ、ありがとうございます。 ああ、呼び名は今まで通りでお願いしますよ。 ガバスさんに『様』とか付けられたら、逆に怖いですからね。」
こうして、反対される事も無く、ガバスさんはクシャクシャの笑顔で俺を祝福してくれた。
さあ、この勢いで次はマックスさんの所である。
事前にジョンさんにお願いして、アポイントを取ってあるので逢って貰える事は確実である。
問題は、どう言う対応を取られるか? である。 うぅぅ、少し胃が痛い。
領主館へとやって来て、マックスさんの書斎へと辿り着いたのであった。
「おお、ケンジ君、お久しぶりだね。 聞いて居るよ? 王都のモデルタウンだっけ? 凄いらしいね!」
と笑顔のマックスさんが迎えてくれたのだ。 これから話す内容如何ではこの笑顔が消えるかと思うと、非常に胃が痛い。
「どうも、ご無沙汰しております。 お元気そうで何よりです。 今日はご報告がありまして寄らせて頂きました。
実はですね、この度建国する事になりましてね――――」
俺は必死にここと争ったり侵略したりする意思は無い事をアピールした。 そして地図を作り、領土の位置関係を伝えた。
マックスさんは、最初こそ驚いて強張った顔をしていたのだが、次第に笑顔に戻っていった。
「そうか、それでまずは王都より先にこちらに寄ってくれたのか。 ありがとう。 そうか、建国かぁ。 まあ拠点を何処かに持って居るらしいという噂は聞いていたので、いつかはそうなる予感がしていたよ。
そうか、そうか。 おめでとうと言わせて頂こう。 そしてこれからも友好関係でお願いしたい。 まあクーデリア王家がどう言う対応を取るかは判らないが、多分大丈夫か?
ああ、でももし問題とすると、あのモデルタウンの事があるからね。 あそこはちょっと広いからそこをどう判断するかが微妙か。」
と少し心配そうなマックスさん。
「ですよねぇ。 あの時は流れで作っちゃったんですが、建国する事にしたのは、その後というか、つい先日なんですよね。」
「まあ、俺からも陛下に連絡を入れておくから。 頑張って宣言して来てくれ。 ケンジ君には色々と恩があるからね。」
とマックスさんから援護射撃を申し出てくれたのであった。
何とか良い感じでマックスさんへの報告を終え、ホッと胸を撫で下ろした。
お陰で少し胃の痛いのが治まった。
こうして第一関門を突破した俺は、孤児院によって、司祭様にも報告し、ドワースを出発したのであった。
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