第244話 第ニ関門……波高し

城門から王都に入り、まずはモデルタウンの別荘へとやって来た。


「あ! ケンジ様!!」

「お帰りなさい! ケンジ様!!」

と俺を発見した街の人達や、別荘のスタッフが声を掛けてくれる。


王宮からの呼出状には、王都に来たら必ず顔を出してくれという様な内容で、特に日時が決まって居る訳ではなかった。

まあ但し、この手の呼び出しには至急応えるのが通例なんだとか。 実際のところ、今回の建国宣言が無ければ、特にそれだけの為に来る気は無かったんだけどね。


一応スタッフにお願いして、事前にアポイントを取って貰って居たのだが、驚く事に今朝の段階でアポイントを取って貰ったところ、相当待ちわびて居たらしく、午前中でも午後でも、到着したら『なる早』で来て欲しいとの事だったらしい。


「ねえ、そもそもこの呼び出しだけど、何の用事があるか何か聞いてたりする?」


「いえ、特には何も聞かされてないです。 一応どう言った用件かを聞いて見たのですが、対応してくれた方は何も聞かされてないという事でした。」


となると、余り表に出せない話って事になるのかな?


すると、サスケさんが口を開いた。


「ああ、それでしたら、配下の報告ではおそらくこちらの料理や食材ではないか? という事でござった。 主君に対し、何か拙い事をしようという気配は無いみたいでござる。」


ふぅ~、それなら安心だな。 無駄に緊張しなくても良さそうである。


では敵地?へといざ参らん!




久々の王都の街はメインストリートも以前同様に活気があったが、実際のところ、やはり活気の中心は各モデルタウンの様で、いつの間にか、モデルタウンの周囲がかなり再開発されていて、人気エリアに変わっていた。

目敏い商人の一部は店舗をモデルタウンの傍に新設したり、高級住宅地として販売したりしているらしい。


元は低所得者達の住処になって居た頃に比べ、ドンヨリとした空気感が無く、周囲も明るくなった感じである。

ここに住んで居た低所得者の内、賃貸だった者は高額な立ち退き料を貰い、自分の持ち家だった者はそれこそプレミア価格で売買し、ホクホク顔で引っ越して行ったらしい。


バブルの頃の日本を知る俺としては、『立ち退き=地上げ』のイメージが強いのだが、話を聞く限り、暗躍するマフィア等も居らず、正当な取引がされたらしい。

ああ、そうか! そう言う仕事を引き受けそうな連中、全部始末したんだわ!!

始末したというと聞こえが悪いなぁ。 一部再利用したりもしたし。



等と馬車の中で考えて居る間に王城の前に到着したのであった。


御者を務めるモデルタウンのスタッフが、王宮からの召喚状をみせると、すぐに衛兵が敬礼をしながら通してくれた。

ほほー、なかなか行き届いているね。 流石は王城の衛兵さんだ。


初めて入るクーデリアの王宮はイメルダとはまた違い、童話『ツンデレラ』に出てきそうな西洋風の城である。

白亜の宮殿って感じだな。 屋根のトンガリ帽子が真っ赤というのもなかなか絵になる。

ちなみに、うちの城は屋根が金色なんだよな。


門を通り過ぎて背の低い植木が作る道を通る。周囲には花壇や芝生等があって、ヨーロッパの観光地のお城の様な感じである。

尤も俺自身が海外旅行に行った事は無いので、専らTVで見かけた程度の話だが。


旅行が好きで、国内の温泉を巡るボッチ旅を楽しんでいたが、流石にボッチで海外に出る勇気も無く、結局海を渡ったのは九州と四国と北海道に行った時ぐらいだった。

それが今では旅行し放題である。 人生とは不思議な物だな。



大きなロータリーに辿り着き、馬車を降りると執事服の人と騎士が出迎えてくれて、そのままだだっ広い応接室っぽい所へと通されたのであった。


部屋では、ソファーへと誘導され、

「準備が出来るまで、少々お待ち下さい。 お飲み物は紅茶で宜しいでしょうか?」


「ああ、みんなも紅茶で良いかな? 人数分お願い致しますね。」


出て来た香りの良い紅茶を飲みながら待つ事20分、漸くお呼びが掛かったのであった。


先導する騎士に続き王宮の広い廊下を歩くと直ぐに大きな扉の前に辿り着くと、先導した騎士が「どうぞこちらへ」と頭を下げつつ、扉の両脇の騎士へ合図する。


両脇の騎士が扉を開き、真っ赤な絨毯が敷かれた花道を騎士に先導され、中央よりやや前辺りで立ち止まった。


うん、これ面倒な謁見の間って奴だね。

謁見の間の壇上、玉座に王様、横に王妃様と第ニ王妃様? そして王子と王女が並んでいた。

そして花道を遠巻きに囲む様に、豪華?な服を着た貴族が並んでいる。


先頭で片膝を着いた騎士が、王様に報告している。

「陛下、『エーリュシオン王国』のケンジ様をお招き致しました。」


「うむ。」

と仰々しく頷く王様に、周囲の貴族連中がガヤガヤとし始める。


「おい、今何と? 『エーリュシオン王国』?」

「誰か、『エーリュシオン王国』という名をご存知か?」


俺はコナンさん達からの注意事項通りに、跪く事もなく、堂々と王様の顔を見つつ、口を開いた。


「お初にお目に掛かります、クーデリア国王陛下。本日はお招き頂き、誠にありがとうございます。 まずは発言をお許し頂きたい。

私は、この度、エーリュシオン王国を建国した、ケンジ・スギタと申します。 以後お見知りおきを。」

と軽く会釈した。


「余がクーデリア王国、国王のサンタ・ゲルート・フォン・クーデリアである。 この度は余の招きに応じて頂き、誠に感謝しておる。」


ふむ、どうやら、マックスさんからの報告で対応を変えてくれたっぽいな。

ナイスアシストだよ、マックスさん!!


心の中でドワースの方を向き、手を合わせておいた。


「我が国は、ドワース領に近く、クーデリア王国との友好関係を望んでおります。 こちらが、当方の統治する領土を示した地図となりますので、お納め下さい。

特に貴国の領土とは被っておりませんのでご安心下さい。 主に魔宮の森と魔絶の崖を含む外縁部の周囲と、貴国とは関係無い竜の墓場を含む一帯となります。」

と俺が地図を差し出すと、王様の側近の方が近寄って来て受け取った。


すると、ざわめく貴族達。

「おい、聞いたか? 魔宮の森と魔絶の崖を領土とするなんて聞いた事が無いぞ!?」

「ああ、あの一帯は災害級の魔物まで出る厄災の地だからな。」

「とても正気とは思えんな。」



しかし、クーデリア国王は、地図を見ながら、ウンウンと頷き、

「ふむ、我が国も平和を望んでおるので友好関係を築ける事はありがたいぞ。」

と仰っている。



「お、お待ち下さい陛下! 僭越ながら申し上げます、騙されてはなりませぬぞ!」


すると、周囲の貴族の中の玉座寄りの先頭に居た太ったおっさんとその取り巻きが叫んでいた。


「ん? 何じゃ? ギャレン公爵か? 申してみよ。」


「ハッ! 陛下、この男は、陛下の王都に4箇所にも工作員を隠し持てる巨大な拠点を築いておりまする。

これが恐らく布石で、第ニ段階が今とすれば、第三段階では王都は火の海になるやも知れませぬ。

何卒、ご再考を! 無闇に手を握ると、背中に隠した左手のナイフで刺される事になりまするぞ!」

と進言していた。

周りの取り巻き貴族連中も「そうだ!そうだ!」と騒いでいる。



まあ、そうだよなぁ~。 普通に考えると、大使館以上の軍事拠点としうる場所を懐に抱えているんだからねぇ。

そりゃそうなるよな。 さて、これに関してだが、俺とコナンさんとで話し合った結果、1つの答えを用意していた。


「あー、国王陛下、宜しいでしょうか? えっと、ギャレン公爵殿でしたか? その方の仰る事はご尤もかと思います。

確かに偶然にしては凄くナイスなタイミングですからね。 疑いたくもなるだろうと思います。

我々が貴国の立場でも同様に考えますから。 我々としても、痛くもない腹を探られ、疑われるのは本意では無いのです。

なので、友好の証として、我々エーリュシオンとスギタ商会は、ここ王都から手を退くので、4地区の『土地』を現在の相場+立ち退き料で買い取って頂くという事で如何でしょうか?

そうすれば、その様な危惧は払拭されるかと。

そうですねぇ、全従業員の退去と全建物や設備の撤去に……1日1箇所で考えて、長くとも4日間程猶予を頂ければ、更地にして明け渡しが可能です。 如何でしょうか?」


俺の提案に目を白黒させるギャレン公爵一派。


「何? スギタ商会も手を退くと? そ、それはちと困るな。」

と曇り顔の王様。 だよな。 実際のところうちがもたらす利益は、この停滞気味であった王都の起爆剤となっていて、今まで品薄状態であった砂糖やスパイス類、これまでに存在しなかったマギフォン等、多くの実利を運んで来ている。

それが一切入らなくなる訳だから、当然焦るだろうな。


「えっと、そもそもですが、我々は別に過ぎたる利益も、他国の支配や略奪等と面倒な事に興味が無いのです。

そんな面倒な事をするぐらいなら、領土をただ拡張したいのであれば、クーデリア王国ではなく、放置されている旧アルデータ王国の方に手を伸ばしますよ?

じゃあ、何故スラムを一掃して再開発を行ったか? 理由は簡単で『国に見捨てられた女子供らや、職の無い身体的ハンデを負った方達』を見てられ無かったからです。

しかも犯罪の温床となっておりましたからね。 中には裏ギルドに色々表に出せない様な違法な事をさせていたという貴族の方達もいらっしゃったようで。

まあ、全部その証拠は押さえてありますけどね。 フフフ。 ね? ギャレン公爵殿、如何です? 一括であの旧スラムの土地、ご購入して頂けますか?

という事で、我々に侵略の意思が無い事を是非とも証明させて頂き、友好の手を握って頂ければと思います。」


「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」


「ああ、申し訳ありませんが、善は急げと申しますし、これにて退出させて頂き、配下の者に閉店と退去の指示を出したいのですが、宜しいでしょうか?

こちらの王都で取引のあった商会の方々にも連絡しておかねばなりませんので。 ちょっと数が多いので、早めに手分けしないと、本日中の連絡が間に合わなくなりますから。

一応、明日から撤退作業を開始しますので。 では今後とも、末永く友好の方を宜しくお願い致しますね。 ああ、土地の買い戻しと立ち退き料の方ですが、商業ギルドのスギタ商会の口座にでも振り込んで頂ければと思います。」

と言って、会釈をして、謁見の間から出て行くのであった。


やっぱりなぁ~。そうそう上手くは行かないよなぁ。


折角気合いを入れて作ったモデルタウンであったが、こうなったらしょうが無い。

残念だけど、事前に伝達していた様に全員で撤退するしかないな……。

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