第216話 ジェイドさんの秘話(悲話)

毛が生えてウザい程にウキウキしているガバスさんに、

「俺達これから雷光の宿でちょっと遅め昼食にしようかと思ってるんですが、ガバスさんどうしますか?」

と聞いてみると、俺の意図を察したガバスさんが

「ガハハ! 行くに決まってるじゃねぇかよ! お主も悪よのぉ~」

と凄く悪い笑みを浮かべていた。



雷光の宿までの道すがら、ガバスさんが聞いて来た。


「なぁ、ケンジ、これバカ売れしそうだけど、どれ位用意出来そうなんだ?」


「うーん、まあ結構レアな物を使うので、取りあえず、今ある分だけで100本は作れましたけど、どうかなぁ? また見つかれば作れるけどねぇ。」


そう、この秘薬(『毛根再始動薬』)は、偶然の産物というか、例の魔王国のブラック・オーガの集落の近くで発見した茸がベースなんだよね。

偶然見つけたのは3本だけで、美味そうな気配あったから詳細解析Ver.2.01大先生の助言をと調べたら、食用云々よりもこれを素材とした活用方法に驚愕したんだよね。

その名前にも吹いたけどね。

その名も『ハゲテール茸』。


思わずブラック・オーガに見つかるかとヒヤヒヤしたよ。フフフ。


で、1本を試作で使い、1本で100本を作り置きしているから、残り1本でも恐らく100本ぐらい作れるとは思うけど、一応見本で取っておかないとまたの機会に気付かずスルーしちゃうと拙いからね。


「これから雪降るだろうし、それまでに発見出来れば良いけどねぇ。 結構レアみたいだからね。」


そう、一応秘密防衛軍の皆さんへ『これ(ハゲテール茸)』を見つけたら採取しておいてね! とはお願いしてあるんだけど、家の裏山(魔絶の崖の向こう側)か庭先(魔宮の森)で見つかるかは微妙だからなぁ。


「マジか。そんな貴重な品だったのか。 そうなるとやっぱり大金貨コースかぁ。」

とブツブツ言っていた。


というか、やっぱり売る気満々なんすね?


ガバスさん曰く、

「それこそ、お伽噺のエリクシールとかじゃないと生えねぇから。 それでも怪しいかも知れねぇぞ? だってよ、正常な状態に戻すのがエリクシールだろ? その正常な状態がハゲの状態なら生えねぇだろ?」

と。


「ああ、そう言えば前にエクストラ・ヒールをハゲに掛けた事あったんだけど、生えなかったな。 そうか、それじゃあエリクシールでもダメなのか!? 納得だわぁ~。」


俺がウンウンと納得して頷いていると、ガバスさんが焦って釘を刺してきた。


「げっ! お前さぁ、サラッとヤバい魔法名を上げてるんじゃねぇよ! 騒ぎになるだろうが!!」


「ハハハ…… そ、そう?」


俺は、苦笑いで返した。

しかしそうは言っても思い返せば、結構彼方此方でバンバン使ってしまったよなぁ? とやや今更って気も。

実際のところそれをその場で使った事には一切悔いは無い事を自覚したのだった。

まあ、でも最悪の場合は引き篭もれば良いし、それが可能な環境作りもしたから、ダイジョウブダヨネ?



そして久々に雷光の宿に到着し、ドアを開けて中に入ると、ジェイドさんを発見して声を掛けた。


「ちわぁ~! お久しぶりです! 食べに来たよ!!」


「おーーー! ケンジ!! やっと来たか。 さっきからツレの肉エルフが来て待ってたぞーー!」


え? コナンさんも来てたのか。 ハハハ。


コナンさんが既に食い荒らしている別室へと通され、苦笑いしながら、席に着いた。


「えらく派手に食べてるね。大丈夫なの?そんなに食べて。(金額的に)」


コナンさんはちょっと目を逸らしつつ、


「だ、大丈夫なんだな。 だな……(胃袋的に)」

と言いながら腹を擦っていた。



で、ジェイドさんだが、さっきから、凄くガバスさん方……正確にはガバスさんの頭に視線が釘付けである。


「あ、ジェイド、悪いな。 なんか俺だけお前の仲間には慣れなくてさ。

フフフ、何か身も心も若返った様だよ。 生まれ変わったと言っても過言では無いな。うん。ガッハッハッハ!!!」

とこれ見よがしに頭を見せつけるガバスさん。 結構やり口がエグいぞ。


「なっ! なんで、ガバス!? 毛が!? 後一息ってところだったのに!?」

と青い顔をするジェイドさん。


「ガハハハ、俺はハゲねぇから! これぞ敗者復活って奴よ。」


ハハハ、醜い争いだ。


「ジェイドさん、実はね、俺がある薬を作ったんですよ。試して見ますか? 秘薬……その名も『毛根再始動薬』!!」

と小瓶をテーブルに取り出した。


「うぉー! マジか! マジなのか!!」

と飛びついて来るジェイドさん。


「あ、あれ? でも態と剃ってるんでしたっけ? じゃあ余計な事だったかな?」

と小瓶を引っ込めようとすると、慌てるジェイドさん。


「いや、そろそろ冬だし、イメチェンも考えてたし!! よ、良かったら使ってみても良いんだよ?」

と。


フフフ。


「じゃあ、試してみますか? 一度頭皮の脂を落とさないダメなんだけど……まあ面倒だから、クリーンで良いか。」



ジェイドさんを椅子に座らせてから頭にクリーンを2回掛けてやり、テーブルの食べ物に飛び散らない様に、シールドを張った。


「じゃあ、今から人体実験5回目、被験者ジェイドさん、症状、完全なるハゲの検証に入ります。」

と宣言してから、ジェイドさんの頭に更にシールドによるマスキング(生えちゃダメな所を隠す為ね)をして、スプレーをプシュプシュと吹きかけてやった。

その後、よく頭皮をマッサージしてやると………



「「「「おっ!(あっ!)」」」」


と思わず声を上げる、俺を含めた4名。


当の本人だけは訳が分からずオロオロしている。


「スゲーー! マジか! こんなにも即効性あるんだな。」

とニョキニョキ生える髪の毛に驚きの声を上げるガバスさん。


「ビックリだなぁ!もう。驚いたなぁ!!」

「こんなにも凄いんですねぇ。わぁー、一気にこんなにも。」


すると、

「ど、どうなったんだ?」

とビビりながら聞いて来るジェイドさんだが、前髪が目に入り、「お!」とか驚いている。


「凄いですよ。一気に10cm以上行きましたね。新記録です!」

と肩をトントンと叩いてやり、鏡を出してやると、その鏡に映った自分の姿を見て、号泣していた。


「おーー! おーー!!」と叫びながら。




やっと落ち着きを取り戻したジェイドさんが、シミジミと語り出したのだった。


「俺さ、冒険者やっててさ、魔法使いだったじゃねぇか。

20歳頃は良かったんだよ。25歳ぐらいからかな?頭頂部から来始めて、27歳では完全にカッパ状態になってな。

見た目がゴッツいけど、魔法使いと言えば、ローブだろ? 最初は良かったんだけどよ、カッパ状態が余りにもキツいから剃ったんだ。全部。

そうしたら、二度と生えなくなってな。 直射日光浴びて日に焼けて毛根死んじゃったんだろうな。

そうしたらよぉ……みんな笑うんだよ、『あ!黒てるてる坊主が来たぞ!』ってよぉ~。」

と言いながら言葉を詰まらせていた。


「そうか。色々大変だったんだな。 ごめんな。もっと早くに薬作ってやれなくて。素材を発見したのが、つい最近だったんだよ。」

と言いながら、肩を叩くのであった。



それから、料理や酒等がジャンジャン運ばれ、昼だというのに、宴会の様になってしまった。

「今日は目出度い日だ! ジャンジャン行ってくれーー!」と生まれ変わったフサフサのジェイドさんが弾けまくっていたのだった。

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