第215話 秘薬を試す
そして30分以上掛かり、やっとガバスさんの店へと辿り着いた。
最初の屋台で肉串を買ったのを見た周囲の屋台がイソイソと焼き始めたり、サンドイッチを用意してニコニコしながら待ってるんだもん。
まあそれでもピョン吉達は正直で、何軒かは店の前をスルーして行き、屋台のオヤジがガックリと項垂れていたりしたけどね。
ガバス商会の裏口をノックし、出て来た店員(2度目にドワースに出て来た時に最初に塩対応してくれた店員)が笑顔で迎えてくれた。
どうやら、彼も頑張って商人として成長している様である。
そして、直ぐにガバスさんの居る書斎へと通されたのだった。
「こんちは~。王都の出店の時はどうもでした。」
「ケンジ~、ありがとうよぉ! 本当に凄いのを作りやがったなぁ、おい!
でも、本当に俺の所も便乗しちゃって良かったのか? ついついお言葉に甘える感じになっちまったけどよ。」
とガバスさんが開口一番で聞いて来た。
そう、王都のスギタ商会モデルタウンには、それぞれにガバス商会のブース(まあ普通に店舗なんだけどね)があって、一気に4店舗を出店して貰っているのである。
準備期間が短かったのだが、前面的にガバスさんの所も協力してくれたので、無事に開店の運びとなった訳で。
「いや、あれはあれで、うちとしても助かったんですから、お相子ですよ。 どうでっかぁ? 儲かってまっか?」
「ガハハハハ、えーっと、何だっけ? ボチボチでんなぁ? なあ、これって毎回ヤらなきゃダメなのか?」
と俺が教えた定番で返してくれたのだった。
「ええ、商人の様式美なんで。」
とキリリと返すと苦笑いしていた。
「で、どうした? 冬前の挨拶回りか?」
「まあ、それもあるんですがね、実はご相談したい事がありまして。 これなんですが、ついに発売に漕ぎ着けたので、王都でも販売しようかと思ってまして。」
とマギフォンの箱を取り出して見せ、どうぞ開けてみて下さいと合図する。
箱を開けたガバスさんが蓋を持ったまま固まってしまった。
「………」
「もしもーーし! 復活して下さい!!」
「こ、これはもしかして、前に言っていた通信魔道具か!」
と中から取りだしたマギフォンを手に取って、プルプル震えている。
「ああ、それサンプルというか、ガバスさん専用なんで使って下さい。 これで俺も連絡取りやすくなりますし。」
「うぉーー! スゲーぞ! ケンジ!! 歴史を塗り替えやがったな!」
と絶叫しながら、はしゃいでいる。
取説をちゃんと付けているのに全く読もうともせず、使い方を教えろと五月蠅いので、アケミさんが丁寧に説明してくれていた。
で、その結果、俺のブレスレットがジャンジャンとコールされていて、実にウザい状態に。
「相談というのは、これを一体幾らで売り出せば良いか?という事なんですよ。 説明書にある通り、大体使いっぱなしに使って、約100年保ちます。」
と答えると、
「げ! 100年も保つのかよ!」と言いながら頭を捻っている。
「何か問題ですか? どうせ非分解方式なので、無理にこじ開けると内部の魔方陣が消滅する様になってますから、コピーは不可能なんですよ。
だから、途中で中の魔力が尽きちゃうと、捨てるしかないから、というのもあるんですが、使ってる魔力供給源がこれ以上小さいと作りにくいんですよね。
なんせ、米粒サイズですからね。 これ以上小さいと、製作過程で息だけで飛んで行っちゃうし。」
と説明すると、
「え? そんなに小さい魔力供給源で動くの? 何それ?」
と驚いている。
「これです。」
とマギ鉱石塊を見せると、ジーッと暫く見つめたあと、「こ、これはもしや?」と冷や汗を掻きながら聞いて来た。
「ええ、マギ鉱石という物です。」
「えーーーー!! あのお伽噺に出て来る様なアレ? 実在するのか!!」
と目を丸くしていた。
「ケンジよぉ、これはヤバいな! マジでヤバい物だぞ、おい。
ケンジは、大体幾らぐらいで考えてるんだ?」
「うーん、それなんですよね。まあマギ鉱石の値段って、ハッキリ言って値段が有って無いような物じゃないですか。プライスレスというか。
だからそれを考えると判り辛いので、マギ鉱石以外の材料費や製作の人件費を考えて、盛りに盛って、金貨2枚~金貨3枚かなぁ?ってね。」
「安い! 安過ぎるだろ! おい! これ大金貨1枚でも安過ぎると俺は思うんだけどな。 せめて大金貨2枚とかじゃねぇか?
これ、何個ぐらい在庫あるんだ? 10台か? いや、俺にくれるぐらいだから、100台とかか? あとどれだけ作れるのかにもよるが、そうそうこんなのを沢山は作れねぇだろうしなぁ~、そうすると大金貨5枚でも安過ぎるか?」
と腕を組み、ウンウン唸りながら呟いている。
「あ、え? 在庫? えーっと、多分今日辺りで1万5000台くらいじゃないかな? 何かえらくみんなが頑張っちゃって、1日に最大2000台くらい増産しているから。」
「はぁ~!?? お前んところ、バッカじゃねぇの? 自重って言葉を知らねぇのかよ? 何だよ、この神話級のアイテムを日産2000台? かぁーー、恐ろしい奴らだなぁ。 ……ハハハハ」
と呆れ果てた感じで最後には渇いた笑いを漏らしていた。
結局、ガバスさんは大金貨2枚を推して居たのだが、俺の趣旨を汲んで、大金貨1枚に落ち着いたのだった。
良いのかな? そんなに高額で? まあ通話料金も月額の基本料金も掛からない訳だけど、でもなぁ~ とは思ったが、
「逆に、あんまり安過ぎると、面倒な事になるから、これぐらいで丁度良いんだよ。それでも安過ぎると俺は思うがな?」
と言って居たのだった。
うむ……じゃあ、そろそろ親方達に言って、生産を控えさせるべきかもなぁ。
あいつら、隙あらば何でも増産しちゃうからなぁ~。
「そうそう、思い出した。 今日はこれだけじゃないんですよ。 もう1つ面白い物を作ったんでね。フフフ。
きっと、ガバスさんも泣いて喜ぶんじゃないかと思ってね。グフフフ」
俺が、テーブルの上に怪しげな小瓶を置いてみた。
「ん? なんだこれ? ポーション? じゃなさそうだな。 飲むのか?」
と小瓶を明かりに翳しながら、ちょっと薄ら寂しくなった頭を捻っている。
「フッフッフ、何を隠そう、これは毛生え薬、その名も『毛根再始動薬』と言います。
キャッチコピーは、『長い友達の友情を取り戻せ!』です!!」
とドヤ顔でポーズを決める俺。
視線はガバスさんの前頭葉のちょい上。
「っな! マジか! マジなのか? そんな夢の薬が!?」
とガバスさんが、生まれたての子鹿の様にプルプルと震えながら、両手で小瓶を恭しく見つめている。
「ええ、内の拠点でのテストでは、かなり良好な結果が得られてますよ。」
「つ、使って良いのか? どうやって使えば良い?」
と真剣に詰め寄って来た。
「えっとですね、このキャップを外して、上の部分を押すと、ここの穴から霧吹き状に中の液体が飛ぶので、それで逃避……いや頭皮に満遍なく振りかけて、頭皮をこうやってマッサージするんですよ。
まあ、運が良ければ5分ぐらいで効果を体感出来ると思います。 兎に角頭皮に擦り込まないと意味無いです。ああ、吹きかける前には、必ず一回頭を綺麗に洗ってからじゃないとダメですよ?
ほら、加齢臭の素となる変な油が滲み出てると弾かれますからね?」
「そ、そうか! じゃあ風呂だな?」
俺はソワソワするガバスさんを拠点の温泉施設へと連れてきて、早速温泉を堪能しつつ、髪の毛の洗い方等を指導し、湯上がり後に『毛根再始動薬』を散布してやった。
するとどうでしょう!? 何と干上がった田んぼに雨が浸透して行く様に頭皮に染み込んで行き、ボワンと軽くひかると、フサッと新しい生命の息吹が芽生えて来るではありませんか!
「おお! 一気に5cm行きましたね。 なかなか上出来!」
頭頂部だけでなく、前頭葉の生え際にも、プシュっと二吹きして生え際前戦を前進させた。
鏡を見て「うぉーーーーー!!」と雄叫びを上げるガバスさん。
目には涙が溢れている。
どうやら実験は成功の様である。
さあ、後でジェイドさんの所にも行かなきゃだな。 グフフフ
と内心ほくそ笑むのであった。
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